毛生え薬の悲劇



橋本敦志の父・敦雄は一人で新薬の研究をしていた。
水虫を完全に治す薬。
風邪を本当に治す薬。
花粉症を治す薬。
どれも完成すれば爆発的に売れること間違いなしのものばかりだ。
しかし、残念ながら、というか当然のことながらというか未だ完成したものはない。
それでも日々研究に明け暮れていたため、日々の生活は困窮を極めた。
敦志の母はそんな父の態度に嫌気が差し家を出て行った。
母がいなくなるとますます生活するためのお金がなくなった。
それで仕方なく幾分かの研究時間を削り、小さな薬屋を営み何とか生計を立てていた。
もちろん父は研究ばかりしているため、必然的に家事は敦志がやらざるをえなかった。


悲劇の始まりは親子の何気ない会話がきっかけだった。
「なあ親父、そろそろこうパア〜ッと儲かるような薬はできないのかよ」
「そんな簡単にできるんなら苦労はせん」
「ダイエットの薬だったら絶対売れると思うぜ」
「飲めば痩せるというやつか?そんな下剤もどきの薬みたいなもんは作らん」
「じゃあさ、若返りの薬ってのはどうなんだ?」
「そんな夢みたいな薬ってのは無理だ。せめて老化を遅らせるくらいだろう。それはすでに結構いい物が出てるから本当に若返るようなものができないとインパクトはないだろうな」
「やっぱりいろいろと難しいんだな。じゃあ今親父は何を作ってるんだ?」
「花粉症の薬と毛生え薬だ」
「毛生え薬?リアップみたいなもんか?」
「そんなのとは違う。頭皮につけるんじゃなく、経口タイプのものだ」
「ケイコウ?」
「飲み薬だ」
「へぇ、じゃあ今爆笑問題がコマーシャルしているようなやつなんだ」
「まあ、そんなもんだ」
「それじゃもう実用化されてるんじゃん。何で研究してるんだ?」
「あれは抜け毛を引き起こすホルモンの働きを抑制し、抜け毛を防止するためのものなんだ。もっと積極的に髪を増やす薬を作ろうとしてるんだが…」
「そんなことできるのか?」
「できるはずなんだが。副作用というものがなかなか厄介なんだ」
「そうか。大変なんだな」
その日の会話はそれで終わった。

そして次の日の会話が悲劇の道を確かなものにした。
腹を空かせた敦志が友人の矢部和幸に話しかけた。
和幸は23歳という若さにも関わらずおでこが広くなってきており、頭の頂上付近も地肌が見えるような状態だった。
決して顔が悪いわけではないのだが、背が低く髪の薄い和幸は女の子とつき合ったことがなかった。
「腹へったな」
「そうだな」
和幸は顔もあげずに返事をした。
「でも金もないしな」
「そうだな」
「何か楽に金持ちになれる方法ってないのかな?」
「そんなもんがあるんなら誰も苦労はしねえぞ」
「そりゃそうだ。うちの親父の研究してる薬がひとつでも実用化されれば、少しは生活が楽になるんだけどよぉ」
「へぇ、お前の親父さん、薬の研究してるんだ。どっかの製薬会社でか?」
「いいや、昔はサラリーマンだったんだけど、今はひとりで研究してる」
「一人でって、そんなんで開発ができるのか?」
「俺には詳しいことは分かんないよ。花粉症を治す薬でもできたら大金持ちになるのにな」
「確かに。花粉症で悩んでる人間って多いもんな」
「あっ、そう言えば髪の悩みの薬も開発中らしいぜ」
この言葉に初めて和幸は顔を敦のほうに向けた。
「本当か?」
「ああ、何でも飲み薬で、今実用化されているような抜け毛防止じゃなくって、髪の毛そのものを増やすような薬らしいんだ」
「できたら俺が実験台になってやるから俺にくれ」
「何なら親父の研究してるところに来るか?」
この話をきっかけに和幸は新薬の被験者の道を歩むこととなった。


敦志は和幸にそんな話をしていたことをすっかり忘れていた。
しかし和幸はしっかりと覚えていた。
3日ほど経った日に和幸が話しかけてきた。
「なあ、ちょっと前に話してた髪の薬って今はどういう状況なんだ?」
「ああ、そういやそんな話、お前にしたっけ?」
「あれからずっと気になってさ。どうかなと思って」
「そっか。期待させちゃったみたいだな。何なら今からうちに来るか?」
「いいのか?」
和幸の表情が明らかに明るくなった。

敦志は和幸を連れて自宅に戻った。
「ただいま。親父、いるか?」
何も返事がない。
「おーい、親父」
どうやら敦志の父はどこかに出かけたらしい。
「せっかく来てもらったのに、親父の奴、どこかに出かけたみたいだ」
「残念だな」
「とにかく研究してる部屋でも見るか?本当は無断で入ったらスッゲエ怒られるんだけど。今日はせっかくのお客さんなんだしいいだろ?」
「本当にいいのか?」
「大丈夫、大丈夫。いざとなれば逃げればいいって」
敦志と和幸は家の奥の薄暗い部屋に入った。
「相変わらず変な臭いだな、この部屋は。たまには外の空気と入れ替えなきゃな」
敦志はブツブツと文句を言いながらあちこちを物色していた。
そんな中、和幸はあるビンから視線が動かなかった。
敦志が視線の先をみると小さなビンに『毛・ハエール』と貼紙が貼られていた。
中には鮮やかな青の錠剤が100粒ほど入っていた。
「いかにもって感じのネーミングだな。親父ギャグっぽいし」
「ちょっとだけ試してみてもいいかな」
「死んでも知らねえぞ」
「いくら副作用があるとしてもそれなりに研究してるんだったら死にはしないだろう。腹が痛くなったり、ジンマシンが出たりするくらいじゃないのか?」
「まあお前がそこまで言うんだったら好きにしたらいいさ。ただし取るんだったら、ばれない程度にしておいてくれよ」
「それじゃとりあえず1週間分で7粒もらって行こうかな」
「1日1粒で効くのかな?でもそれくらいだったら大事にはならないだろうから、いいんじゃないかな」
和幸は『毛・ハエール』の瓶から錠剤を7つ数えて、それをポケットに入れた。

一週間もしないうちに頭の頂上の地肌が見えなくなった。
「すげえな、効いたみたいじゃん」
「おぉ、そうだろ?最近朝起きて鏡を見るのが楽しみなんだ。今のところ特に副作用もないし。もう少し追加で持ってきてくれないかな?」
和幸の顔はこれまでになく明るかった。
敦志はさらに7錠を持ち出し、和幸に渡した。

3度目に持ち出そうとしたときに、敦雄に見つかった。
「どうするんだ、そんなもの」
「髪に悩んでる友達にやろうと思って」
「馬鹿者。それはまだ未完成なんだぞ。副作用があるんだ。それが解決できるまで絶対に他人に渡すんじゃないぞ」
「実はもう渡しちまった」
敦雄の顔色が変わった。
「……なんてことをしたんだ……」
「でもさ、あいつ髪の毛が生えてきたってすっごく喜んでたぜ」
「副作用があるんだ、あの薬には。すぐその友達を呼びなさい」

和幸が呼ばれた。
頭は10日ほど前に薄かったとはとても思えなかった。
頭の頂上はもちろんおでこの広さも気にならない程度までになっていた。
「はじめてまして、矢部って言います。研究されている薬を無断でいただいてすみませんでした。それにしても、あの薬ってすごいですね。10日程で高校時代の髪型ができるようになりました」
和幸は邪気のない顔でニコニコ笑った。
「身体には異常はないか?」
それに反し敦雄の表情は厳しかった。
「別に何ともありませんが」
「正直に言おう。あの薬には副作用が現れる可能性が高い。というかほぼ100%副作用が出る」」
「えっ副作用?どうなるんですか?」
「まずあの薬について簡単に説明しておこう」
敦雄はここで二人の顔を見た。
二人は生唾を飲み込んだ。
「頭の毛は女性ホルモンが関係している。体毛は男性ホルモンだ。これは知ってるな?」
「いや、知らなかった」
敦志が答えた。
「簡単に言うと、あの薬は髪の成長のために女性ホルモンを増やす薬だ」
敦雄の言葉に、二人の顔が険しくなった。
敦雄は二人の表情の変化を無視して言葉を続けた。
「男の場合でも、身体の中で男性ホルモンであるテストステロンから女性ホルモンのエストロゲンが作られている。したがって、男でも女性の半分くらいの女性ホルモンを持っている」
敦雄は二人の理解を確かめるように二人の顔を見た。
二人は何も言わない。
いや言えなかった。
敦雄は言葉をを続けた。
「あの薬は女性ホルモンを飲むのとは違う。体内で男性ホルモンのテストステロンを女性ホルモンのエストロゲンに変化させるための薬だ。それによって髪の毛の成長を促進させようとしている。もちろん、女性ホルモンと男性ホルモンのバランスが狂うと身体に悪影響がある。現時点ではその力が強すぎるんだ。テストステロンがほとんどなくなってしまう。ホルモンの構成では女性以上に女性ホルモンが増え、平均的な女性が持っている男性ホルモン以下の男性ホルモンしか残らない。普通女性ホルモンを摂取した場合、女性ホルモンの比率を上げ、その影響で男性ホルモンの比率が下がる程度だ。しかしそれでさえ乳房が大きくなったり、肌がきめ細かくなったりするんだ。この薬の場合、さらにそれが強力になる。さらに女性ホルモンの摂取の場合短期間ならば摂取するのをやめることで男性機能が元に戻ることがあるが、現時点のこの薬ではなぜか男性機能は死滅し、摂取停止後もなぜか女性ホルモンの量は少なくとも数ヶ月は低下しない。この意味が分かるか?」
二人は何も言えなかった。
「矢部くんの身体は確実に女性化する。一週間も飲んでいたならばほぼ100%精子は作られなくなっているはずだ」
「本当ですか?」
和幸の声は震えていた。
「これまで人体には使ったことはないから推測でしかないが。とりあえず血を採らせてくれ。できれば精液も採取ができれば頼む」
和幸は薬を飲むのを即刻やめることにした。
そして血を採り、別室で精子を採取した。
摂取された血と精液は病院に送られた。

その結果は3日後に戻ってきた。
「矢部くんの女性ホルモン濃度は通常の女性の平均の約1.5倍、女性が持っている男性ホルモンの70%程度しかない。生殖機能は残念ながら手遅れだった」
そのときすでに和幸の身体の女性化は確実に現れてきた。
肌がすごくきめ細かくなっているのが誰の目からも明らかだった。

さらに1週間経った。
薄毛は完全に解消されていた。
そもそもそんな悩みがあったことすら分からなくなっている。
しかし髪質が女性のように繊細なものになっていた。
さらに身体の形にも変化が現れていた。


敦志は和幸の部屋に呼び出された。
「敦志、ちょっと見てくれ」
敦志が来ると、すぐに和幸がTシャツを脱いだ。
脱ぐ前から乳首の形がくっきり見えていたので容易に予測できた。
しかし、現実に目の前にそれを見せられるとやはりショックだった。
和幸の胸には女性のような乳房が形成されていた。
「最近少しずつ大きくなって、今ではすっかり女みたいになってしまった」
そこには膨らみ始めた可愛い乳房がついていた。
敦志は何も言えなかった。
「胸の先が服にこすれると結構痛いんだ。それでさ…」
和幸は言葉を切った。
「ブラジャーを買うしかないかなと思うんだけど、一人で行くのも恥ずかしくって、一緒に行ってもらえないかな?」
「俺が一緒に、か?」
「ダメかな?」
「いや、別にいいけど、お前はいいのか?」
「だって仕方ないだろ?お前の親父さんの話によると、僕の女性化はまだまだ進むようだし、それなりの現実的な対応をしなくちゃいけないと思うんだ」
「よし、分かった。お金は俺が出す。お前に似合うブラジャーを買おう」
「今日はまだいいから、1週間後に行かないか?」

1週間後、待ち合わせの場所に来た和幸の姿を見て、敦志は驚いた。
モコモコのセーターに膝上のミニスカート、そしてブーツを履いていたのだ。
顔にも軽く化粧をしているようだ。
髪は短めだが、ボリュームをつけて、十分ショートヘアの女の子に見える。
いや "見える" どころではない。
十分に可愛い。
敦志はどぎまぎして和幸の顔をまっすぐに見ることができなかった。

「どうしたんだ、その格好?」
敦志は大いに戸惑い和幸にそう聞いた。
「おかしい?」
和幸は上目遣いに敦志に聞いた。その表情がとても可愛い。
「いや、似合ってる」
敦志は正直に言った。
「そう?本当に?」
「うん」
「嬉しい。じゃ、買い物に行こっ」
和幸は敦志の腕を取って歩き出した。
「おっ、おい、行こってどこに行くんだよ、和幸?」
「ねえ、この格好してるときはその名前はやめて」
「何て呼べばいいんだ?」
「和希って呼んで」
「かずき?」
「"かず"はそのまま平和の"和"で、"き"は希望の"希"で、か・ず・き、よ。分かった?」
「分かった。けど何でそんな喋り方してんだ?」
「じゃどんな喋り方すればいいの?男らしく喋れっていうの?」
「そりゃその格好じゃそういう方が似合ってるかもな」
「でしょ、でしょ」
「それにしても無理がないな、ずっと女装してたのか?」
「ピンポーン、当たり!3日ほど前からかな?家ではずっと女装してるの。最近なぜかファッションに目覚めちゃって、通販で買いまくってるのよ」
「じゃあ今日買うはずのブラジャーは?」
「背中、触ってみて」
敦志は背中に手をやった。
セーターの下にブラジャーのフォックの存在を感じた。
「もう買ってるんだ。パンツもか?」
「もちろんよ、見てみる?ラブホでも入る?」
「うるさい、男をからかうんじゃない」
「男をからかうんじゃないってことはわたしを女として見てくれてるんだ、嬉しい」
その日はすっかり和幸のペースだった。
敦志はそんな和幸を眩しそうに見るしかなかった。

和幸は乳房が大きくなっていくことが楽しみだった。
Cカップのブラジャーも小さくなった。
それに比例して股間にある物に対して強い違和感を感じるようになっていた。
自分でもなぜだかは分からなかったが、薬のせいで気持ちまで女性化してるせいだろうと思っていた。
和幸にとっては、身も心も女性になっていくことに不安ではなく、喜びを感じていた。

外見が普通の女性と変わらなくなったときに、身体の中の進行を調べたいと敦雄が言い出した。
和幸はしぶしぶそれに応じた。
和幸の身体はペニス以外は女性化が進んでいた。
唯一ペニスだけがその被害を免れているように見えた。

和幸は敦雄に大学病院へ連れていかれた。
敦雄の顔が利き、今回の検査を秘密裏に行ってくれるのだそうだ。
様々な検査が行われた。
その結果次のことが分かった。
症状としては仮性半陰陽のようだが、少し異なるらしい。
身体のホルモンバランスは薬を飲みだしたときとほとんど変わっておらず相変わらず女性ホルモンの比率が圧倒的に多いのだそうだ。
唯一被害を免れていると思われた男性器も例外ではなかった。
睾丸が陰嚢からなくなっており、形ばかりの陰嚢が残っていた。
睾丸は小さくなり身体の内部に入っていた。
さらに驚くべきことに卵巣らしきものが形成され始めていた。
さすがに染色体の変化は見られなかったが、このまま進行して外見的にも男性器から女性器に変化することも十分予想された。

さらに2週間が経った。
最初の薬を飲んでから2ヶ月が経っていた。
「ねえ、今の状態見てくれる?」
和幸はそう言って敦志を自分の部屋に誘った。
敦志はその誘いにのった。
服を脱ぎ始めた。
「お…おい。やめろよ」
敦志が制止したが、和幸は無視して全裸になった。
敦志の目の前には見事な女体があった。
「それでね、肝心のところなんだけど」
和幸はそう言って腰を下ろし、大きく股を開いた。
敦志はインターネットでしか見たことがないが、そこにあるのはまさに女性器だった。
「どう?」
「どうって言われても…」
敦志は言うべき言葉が見つからなかった。
「ねえ、敦志。触ってみて」
和幸は敦志の手を取って、自分の秘部に当てた。
「ぁんっ」
敦志の手が和幸の秘部に触れると、和幸は艶かしい声を出した。
「ねぇ…敦志……もっと触ってぇ…」
和幸は艶っぽい声で敦志を促した。
敦志は何かに憑かれたかのように和幸の女性器をまさぐった。
最初は濡れていなかったが、やがてピチャッピチャッピチャッピチャッと湿った音を出すようになった。
和幸は快感に身体を痙攣させた。
「今度は敦志を気持ち良くしてあげる」
和幸は敦志のズボンのチャックを下ろし、ペニスを取り出した。
敦志のペニスは固くなっていた。
和幸は両手でペニスを包み、ゆっくり顔を近づけた。
親友の和幸が自分のペニスを銜えようとしている。
その姿を見ていると、敦志は何ともいえないつらい気持ちになった。

「お前だけをそんな目に合わすことはできない。俺も女になる」
敦志はポケットに入っていた大量の薬らしき物を一気に飲んだ。
一気に大量の薬を飲んだためか喉を掻き毟るようにして苦しみながらその場に倒れた。
「ねえ、敦志、どうしたの?しっかりして」
和幸は慌てて敦志の身体を揺さぶった。
「敦志。敦志ってば」
声をかけても敦志は何の反応も示さない。
しかもだんだんと身体が熱を帯びてきたようだ。
和幸は恐くなって、敦志の父に電話をかけた。
「矢部です。敦志くんが大変なんです」
「どうした?何があったんだ?もう少し落ち着いて説明してくれ」
「敦志が、敦志くんが薬を飲んで…その場に倒れて…」
「敦志が倒れた……。分かった。場所は?」
「私のアパートです」
敦雄は急いで和幸のアパートに行った。
全裸で泣きじゃくる和幸とその前で真っ青になって倒れている敦志の姿があった。

敦志はすぐに病院に運ばれた。
そして多くの医者が見ている前で急速に女性の身体に変化していった。
そして心臓が停止した。
敦雄は病院関係者に口外しないように頼んだ。
息子が興味本位で扱われることを恐れたのだ。

敦志の葬儀を終え、敦志の父は和幸と二人になっていた。
「敦志、父さんを許してくれ」
敦雄は敦志の遺影の前で微動だにしなかった。
和幸は敦雄の後ろで敦雄の背中をじっと見つめていた。
よく見ると敦雄の肩が小さく震えている。
和幸は敦雄の背後から抱きついた。
和幸の豊かなバストが敦雄の背中に押し付けられる。
元男と分かっているとは言え、見た目が若くて可愛い女性のそんな行為を、敦雄は拒絶することはできなかった。
男性としての自然な反応が股間に現れていた。

敦雄は振り返り、和幸を抱きしめた。
「おじさん、苦しい」
敦雄にはその言葉が聞こえていないのか強く和幸を抱きしめた。
和幸は仕方なくされるがままにされていた。
ふと気がつくと敦雄が声を押し殺して泣いていることに気がついた。
その姿に和幸は何ともいえない愛おしさを覚えた。
和幸は手を伸ばし敦雄の涙を拭った。
敦雄はその手を握り、いきなり和幸と唇を重ねた。
和幸は何が起こったのか一瞬分からなかったが、おとなしくその行為を受け止めた。
敦志を誘ったときからあった強い性欲が身体の中でくすぶっていたのだが、敦雄のキスでそれが再点火したのだった。
和幸のほうが激しく敦雄の舌をむさぼった。
手は敦雄の股間に伸びていた。
敦雄のペニスは十分硬くなっていた。
和幸はズボンの上からペニスを撫でるように触っていた。
やがて膝をつき、ズボンのベルトに手をかけた。
和幸は敦雄のズボンのベルトを緩め、ファスナーを下げ、ズボンの中からペニスを取り出した。
ペニスを手で持ち、上目遣いに悪戯っぽく笑ったかと思うと、パクッとそれを銜えた。
和幸は一生懸命にペニスを頬張った。
女性との関係が何年もなかった敦雄にとって新鮮で強烈だった。
50歳前とは思えない短時間で和幸の口の中で爆発した。
和幸はそれを一滴もこぼさずに飲み干した。
「矢部くん」
「和希って呼んでください」
「和希」
敦雄はそう叫んで和幸に覆いかぶさった。
黒いワンピースの上から乳房をまさぐった。
「ああん」
和幸は敦雄の腕の中で激しく悶えた。
ついに敦雄のペニスが入ってきたときは気も狂わんばかりの快感に身体をよじった。
そして和幸は一度の体験で妊娠した。

和幸は戸籍を女性へ変更し、名前を和希と改めた。
そして敦雄と結婚した。
和幸が女性になったことはどこからか漏れ、毛生え薬として作った薬が性転換薬として売れた。
少しずつ、しかし確実に売れた。
おかげで敦雄はそれなりの財を築くことができた。
生活もすっかり余裕ができ、和希と二人幸せに暮らした。

和希は日に日に大きくなっていく自分のお腹の中の赤ちゃんに大きな喜びを感じていた。
本当に女性になれたんだという喜び。
母になれる喜び。
敦雄の暖かい愛情に包まれ、本当に幸せだった。

産まれてきたのは男の子だった。
和希と敦雄は子供に敦志と名付け、愛情いっぱいに育てることを二人で誓ったのだった。


《完》
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