移身伝心



忠俊の体験


「明日は接待ゴルフか…。あんまり気が進まないなぁ…」
忠俊は誰に言うともなく呟いた。
しかしその言葉を妻の有希は聞いていた。
「何言ってるの、忠くん。せっかくの土曜なのに新婚の妻を放り出して大好きなゴルフに行けるんで喜んでるくせに」
有希は茶化すように言った。

有希のそんな言葉を無視してさっさと布団に潜り込んだ。
とにかく明日は早く起きなければいけない。
忠俊は携帯のアラームをセットし、枕元に置いた。
そしてすぐに眠りに落ちていった。

佐川忠俊は32歳。
この春、同期の誰よりも早く課長に抜擢された。

仕事は確かにできた。
しかし異性についてはからっきしダメだった。
忠俊の人生の中で女性との浮いた話は皆無に等しかった。
女性に興味がないわけではない。
というよりも人並み以上にあるつもりだ。
だが好きになっても自分の気持ちを伝えることは全くできなかった。
そんな勇気が出ないのだ。
好きになった女性には決まった相手がいるような気がするのだ。
年齢を重ねるにつれ、既婚者が増え、さらに告白しづらい状況に陥ったのだ。

だが仕事上での幸運はプライベートにも運を呼び込むようだ。
昇進の内示を受けたその日に、有希と出会ったのだ。
突然の雨に軒先で雨宿りしていた有希に傘を差し出したのが始まりだった。
特に下心がなかったことで、何の戸惑いもなく傘を差し出すことができたのだ。
後から考えると忠俊らしくないような行動だった。

お礼にと食事に誘われた忠俊は快諾し、その日のうちに結ばれた。
有希は幼いころ両親を亡くしたとのことで孤児院で育ったらしい。
そんな有希だからこそ家族というものに異常な憧れがあったようだ。
男と女の関係になると、すぐに結婚を迫ってきた。
忠俊はうざいと思いながらも、有希の明るく愛くるしい笑顔に惹かれていった。
そして2ヶ月前に入籍したのだ。
忠俊の名前が『忠俊』であることをいいことに「忠くん、チュー」と駄洒落にもならないことを言うのだ。
そして実際ところ構わずキスを要求してくる。
それがいつの間にか呼び名としても定着してしまったのだ。

とにかく結婚してからも仲睦まじい夫婦だった。
幸せいっぱいで何の不幸も自分たちには近寄らない。
そんな気さえしていた。

しかし事件は突然やってきた。



忠俊は遠くで鳴っている電子音に眠りを邪魔された。
それが自分が設定した携帯のアラームだと気づくのに時間がかかった。
枕元に置いたはずなのに、少し離れたところで鳴っている。
(どうしてあんなところで鳴ってるんだろう?)
そう思っていると、隣に眠っている人物が携帯を取った。
「やばい。もうこんな時間か」
その人物は布団を跳ね除けて起き出した。
その人物は"忠俊"自身だった。

忠俊も慌てて起きようとした。
だが身体が動かない。
「有希、まだ5時半だからお前は寝てていいぞ」
"忠俊"が言った。
「あ…ありがとう」
忠俊は反射的にそう言った。
いや正確には忠俊は何も言ってない。
忠俊の意思とは全く関係なく、口が勝手にそう言ったのだ。
しかもその声は自分の声ではなく、聞きなれた有希の声とも違っていた。
言えることは明らかに女の声だった。

"忠俊"はトイレに行ったり洗面所に行ったりバタバタしていたかと思うと、やがて脱兎のごとく飛び出して行った。


忠俊の身体は布団で寝返りを打ち、壁にかけてある時計を見た。
「あ〜あ、本当にゴルフだと早起きなんだから。まだ6時にもなってないじゃない。せっかくの休みなんだし、もう少し寝てようっと」
そして再び布団に潜り込んだ。
すぐに寝息を立て始めた。

忠俊は何も見えない状態になった。
規則的な寝息だけが聞こえる。
布団にくるまっている感覚はあった。
(何がどうなっているんだ)
忠俊は状況を理解できなかった。
そして寝息に誘われるようにいつの間にか寝入ってしまった。

「ふわぁ〜〜〜、よく寝た」
時計を見ると9時になろうとしていた。
「いくら何でもそろそろ起きなくっちゃね」
忠俊の身体が起き出した。

洗面所に行き、顔を洗った。
顔にあたる水の感覚が気持ちいい。
目の前の鏡に映った顔は……やはり有希だった。
有希は起きるとすぐに顔を洗う。
まさにその行動をしているだけだった。
そして忠俊はその行動を有希の目を通して見ていたのだ。

有希はタオルで叩くように顔を拭いてから、自分の顔をチェックしている。
忠俊は有希の視点で見る有希の顔を不思議な感覚で見ていた。
見慣れた顔なのに全然印象が違う。
何が違うのかは全く分からない。
いつもの有希なのにいつもの有希でないのだ。

そうしているうちに忠俊は自分の置かれた立場が何となくわかってきた。
どうやら忠俊は有希の意識の中にいるようだ。
感覚は共有できるが、身体を動かしているのは有希だ。
忠俊の意思で身体を動かすことはできない。
そして有希が何を考えているかも分からない。
あくまでも主体は有希であり、忠俊は有希の身体に寄生しているようなものらしい。

とすると、声の違和感は思い当たった。
録音した自分の声を聞いたときの違和感なのだ。
有希は自分の声をあんなふうに聞いていたのだ。

何となくそんな推測が正しいような気がする。
有希は忠俊の意識が潜り込んでいるとは思っていないようだ。

それにしても、だとしたら、ゴルフに行った"忠俊"はいったい誰だったんだろう?
やはりさっぱり分からない。



その日、一日有希の身体に寄生して、有希とともに一日を過ごした。
何の変哲もない一日だった。
洗濯して、掃除して、食事をして、買い物をして、ちょっとお茶して、テレビを見て、夕食の準備をして。
有希の何てことのない一日が過ぎていった。

「ただいま」
「お帰り、忠くん」
"忠俊"が帰ってきた。
有希は玄関まで迎えに出て忠俊に抱きついて、キスをした。
(うわぁ、俺、自分とキスしてるぅ)
軽く触れるキスだったが、自分とキスしたことに虫唾が走る思いだった。

「今日は接待ゴルフなのに、パットが決まって決まって。あやうくお客さんに勝ってしまいそうになって焦ったよ」
目の前の"忠俊"は聞きもしないのに今日のゴルフの話を話し出した。
おそらく今日のゴルフは楽しかったんだろう。
そうでないと自分からそんなことを話すはずがない。

有希は"忠俊"の話を軽く聞き流しながら夕食をテーブルに並べた。
"忠俊"は冷蔵庫を開けてビールを出した。
「有希、お前も飲むか?」
"忠俊"はコップを出しながら有希に尋ねた。
「あたしはいいわ。忠くん一人で飲んでいいよ。でもあんまり飲みすぎないでよ。昨日はなかったんだから」
「今日はゴルフで疲れてるから勘弁してくれよ」
「だぁめ。明日は日曜なんだからちょっとくらい妻のために頑張ってくれてもいいでしょ!」
これは有希が"忠俊"にセックスを要求してるのだ。

忠俊が自分自身に抱かれる。
考えただけでも気持ちが悪い。
まさか、そんなことが本当に起こるのか?

"忠俊"は食事を取ると風呂に入ってテレビを見ている。
有希は食事の後片付けをして風呂に入った。
そして風呂から出るとドレッサーの前に座り化粧水で肌を整えた。
"忠俊"はすでに布団に潜りこんでいる。

「忠くん、愛してる」
有希が"忠俊"の布団に潜りこんで身体を密着させた。

まさか、本当に始まるのか?
やめろ、やめてくれぇ。
そう叫んでも声にもならなかった。

"忠俊"が仕方なくといった感じで有希に応じた。
唇が重ねられ、パジャマの上から胸を揉まれた。
忠俊は自分に抱かれている嫌悪感とともに女性の身体での感じ方に戸惑っていた。
胸を揉まれているのだが少し力が強いようだ。
「…んんん……」
有希の声が漏れる。
感じているというより痛いのだ。
(俺の力ってこんなに強いのか。もう少し優しくすればいいのに…)
女なんて胸を揉んでおきゃそれで感じると思っていたのに全くの思い違いだったようだ。

やがて"忠俊"が乳首を吸ったり触ったりし出した。
これは感じるのだがあまりに性急すぎる。
有希は身体を捩って逃げようとした。
有希がこういう反応をするときは、感じているから身体を捩るんだと思っていた。
しかし性急すぎて苦しいのだ。
感じていないわけではないが、それ以上に苦しい感じが強かった。
有希の感覚を共有できて初めて分かった。

"忠俊"が乳首を吸いながら指をショーツの中に滑り込ませた。
(痛いっ!)
クリトリスが触られた。
性急な愛撫のせいでまだそれほど湿っていない。
そのせいでクリトリスに触れられても痛いだけだった。
(俺ってこんなにセックスが下手だったのか?)

それでも触られていると少しずつ湿り気を帯びてきた。
すると触れているクリトリスから全身に快感が与えられ始めた。
(な…何だ…これは……)
ペニスの先を触られているような感じなのだが、ペニスで感じるよりも快感が強いようだ。
忠俊はその快感を感じていたかった。
ずっと続けて欲しい。
忠俊は気持ちをその部分に集中した。
『くちゅくちゅくちゅくちゅくちゅ……』
有希の股間がものすごく濡れてきた。

"忠俊"がペニスを膣口に当てた。
「あっ」と思った時にはペニスが入ってきた。
「…んん……」
有希の口から声が漏れる。
身体に入ってくる異物。
ペニスが入ってくる感じは決して気持ちがいいだけものではなかった。
でもすっかり入ると痛みはなかった。
忠俊は身体の中で脈打つペニスを感じていた。
何だか下腹部に熱を持ってきているようだ。
それは決して嫌なもんじゃない。
静かな心地よさがあった。

"忠俊"が腰を動かした。
すると、身体の奥から別の強い快感が押し寄せてきた。
(すごい…こんなの…。頭がおかしくなる……)
女はこんなすごい快感を感じているのか?
道理で声を出すはずだ。
それにしてもセックスの快感を実感として感じることができるなんて思わなかった。
忠俊は有希の意識の片隅で気も狂わんばかりに女の快感を享受していた。

(もっと…もっと……欲しい……)
忠俊は"忠俊"に求めた。
そう強く念じるとその快感がより直接的なもののように感じてきた。
忠俊は自らの意思で腰を振っているような気がしていた。
「もっと強く…もっと激しく……」
忠俊はさらに強い快感を求めようと腰を激しく振った。
話しているのが忠俊なのか有希自身なのか分からなくなってきた。
快感のせいでおかしくなってるのかもしれない。
「あああああああ…」
何か異質な快感の大波に飲み込まれるような感覚に襲われた。
忠俊は必死に"忠俊"の身体にしがみついた。
すると"忠俊"の身体が力強く有希の身体の中に熱い物を放った。
(…ああ……)
忠俊はあまりの快感に気を失った。

"忠俊"が裸のまま寝息を立てていた。
有希は"忠俊"を起こさないように布団から抜け出た。
そして起き上がって浴室に向かった。
眠かったが、股間が気持ち悪かったのだ。
シャワーを浴びていると有希の股間から"忠俊"の放った精液が流れ出した。
有希はそれをシャワーで洗い流した。
身体を綺麗にすると、有希は再び布団に入った。
(明日はどうなるんだろう)
一抹の不安を覚えながら忠俊も眠りに落ちていった。


次の日の朝、軽い頭痛とともに目が覚めた。
目の前には妻の有希が眠っていた。
忠俊はすぐに自分の股間に手を当てた。
朝の力強い状態になっていた。
胸には柔らかな膨らみはなかった。
(良かった…戻ってる)
忠俊は無事に"忠俊"として目覚めたのだ。

それにしても不思議なことに有希になった記憶と同時に昨日の接待ゴルフの記憶もあるのだ。
(どういうことだ。僕が有希になったのは夢だったんだろうか?)
しかし有希として感じたことも確かに記憶の中にあった。
忠俊には自分の身に起きていることが理解できなかった。


その晩、忠俊は有希を抱いた。
昨日の有希としての記憶があるので、どこをどうすればいいのかは分かっていた。
優しく時間をかけた愛撫だった。
「何か、今日の忠くん、いつもの忠くんじゃないみたい…」
有希はいつも以上に感じているようだった。
上半身への愛撫をいつも以上に時間を使った。
そしてショーツの上から股間を触ると、まるでおしっこをしたようにショーツが濡れていた。
「どうしたんだ?すごいことになってるぞ」
忠俊はいやらしく有希に言った。
「だっていつもの忠くんよりすごいんだもん」
有希は恥ずかしそうに言った。
「クンニしてもいいかな?」
忠俊は有希を見ながら自分の手についた有希の愛液を舐めた。
「それだけは絶対嫌だって言ってるでしょ?」
そうなのだ。
有希はこれまで絶対にクンニさせてくれなかった。
さらにフェラチオもしてくれなかった。
オーラルセックスは生理的に無理ということらしかった。

忠俊はビショビショになったショーツを剥ぎ取った。
そしてペニスを握り、膣の辺りにペニスの先を這わせた。
「…ぁ…んん……」
有希は感じているようだ。
忠俊はすぐに入れないで、そんな行為を続けた。
「焦らさないで。早く入れて」
有希は忠俊のペニスを握り、自分の中に導き入れようとした。
それでも忠俊は挿入しなかった。

結局その夜は有希はものすごく乱れた。
(有希になれたことも無駄じゃなかったな)
気持ち良さそうに寝息を立てている有希の寝顔を見て、忠俊はそう思った。
(セックス上手くなるようにという神様からのサプライズだったのかな)
そんな呑気なことを考えていた。


次の日から元の生活が戻った。
忠俊はセックスに対して自信を持てるようになった。
全てがうまく回っているような気がする。

しかし再び変調が忠俊を襲う日がやってきた。



忠俊が有希になったことを忘れかけていた日曜日、朝起きるとまた違和感を覚えた。
隣を見ると、眠っているのは"忠俊"だった。
(また有希に乗り移ったんだ)
2回目のせいか比較的落ち着いていた。

忠俊は自分の胸に手をやった。
(あれ?今、俺の意識で手を動かしたよな?)
忠俊は胸に置いた手で乳房を揉んだ。
(やっぱり動かせる。この前とは少し違うんだ。何か変な病気でも進行してるんじゃないだろうな)

忠俊は少し不安に思ったが、それ以上に好奇心が勝った。
横に寝ている"忠俊"にばれないように自分の胸に揉み続けた。
(おっぱいを揉むだけじゃそんなに感じないんな。それとも自分で触ってるせいで感じないのかな?)
一週間前の"忠俊"とのセックスを思い出しながら胸を揉むと、少し身体が火照ってくるような気がした。
(最初はもうひとつだったけど、入れられると気持ち良かったよな)
あのときの快感をもう一度感じたいという欲求が次第に強くなってきた。

忠俊は横で寝ている"忠俊"の布団に入った。
"忠俊"はまだ眠っている。
(俺が有希になっているということは、有希が俺になっている可能性があるよな)
忠俊は目の前の"忠俊"が目を覚ますのを待った。

しばらくすると"忠俊"が目を覚ました。
「ん…う〜ん…あれ?有希か。おはよう」
同じ布団に有希がいることに驚きながらも、なおかつ、まだ寝惚けているのにもかかわらず、忠俊を見て『有希』と言った。
これは忠俊本人なんだろうと思った。

「ねえ、忠くん。あたし、忠くんになった夢見ちゃった」
忠俊は探る意味で"忠俊"に言った。
「ふ〜ん、そうか」
「それで忠くんがあたしになってて、身体が入れ替わったままでセックスしたんだよ」
「有希が俺になって、自分のことを抱いたって言うのか?」
「そうよ。忠くんはそんな夢見たことない?」
「う〜ん、何となく見たような気もするけど、あんまり覚えてないなあ」
「でも見たことあるかもしれないのね?」
「あんまり明確には覚えてないけどね」
"忠俊"が嘘を言っているようには思えなかった。
もしかするとはっきりと抱かれたことを覚えている意識の部分が今有希の身体に入っているのかもしれない。
そういうものが明確に分かられるのか分からないが、今はそんな気がした。

「ねえ、抱いて」
忠俊は"忠俊"の首に腕を回した。
「何だよ。まだ朝だぞ」
「だって夢のせいで抱いて欲しいんだもん」
「それにしても…」
「ねえ、フェラしてあげようか?」
忠俊は何としてでも抱いて欲しかった。
「ホントにしてくれるのか?」
「うん」
「でも今までずっと嫌がってたじゃないか」
「ちょっとした心境の変化よ」
「いいのか?」
「いいわよ」
忠俊は"忠俊"の股間に手を置いた。
男の朝の生理現象の状態になっていた。
"忠俊"はにやけた顔で有希の顔を見ている。
忠俊は"忠俊"のパジャマのズボンとブリーフをずらし、ペニスを取り出した。
(うわあ、意外とでかいなあ)
自分のペニスをこんな角度から見る日が来るとは思わなかった。
いつも見下ろして見ているが、それよりも大きくグロテスクに感じた。
(こんなのが口に入るのかなぁ)
逡巡していると、ふと"忠俊"と目が合った。
"忠俊"はこちらを楽しそうに見ていた。
(有希が初めてフェラしてくれるんで嬉しいんだろうな。こうしてグズグズしてるのも萌え〜なんだろうな)
見ているのが自分なんだから、何を思っているのかは容易に分かる。

忠俊は"忠俊"から視線を外さないようにして、右手で軽くペニスを握った。
「おっきいね。できるかな?」
自分では平均的だと思っていても女から「大きい」と言われれば嬉しいに決まっている。
だからあえてそういう言い方をした。
"忠俊"は嬉しそうに笑って「人並みだから大丈夫だよ」なんてことを言っている。
忠俊は息を止めてペニスに口を近づけた。
(それにしても何やってんだろう?)
自分が言い出したこととは言え、進んで自分のペニスを銜えるなんて考えもしないことだった。
忠俊は意を決してペニスの先に舌をあてた。
少し苦かった。
それに息を止めているとは言え、おしっこ臭い。
それを我慢してペニスを銜えた。
「うっ」
"忠俊"が小さく呻いた。
(俺の口で感じてるんだ)
そう思うと、何だか興奮してきた。
忠俊は口をすぼめてペニスを締めた。
一生懸命ペニスを舐め上げた。
そうしながらパジャマを脱いでショーツだけになった。

口に含んだペニスからさらに苦いものが出てきた。
(いくら何でもそれは……)
そう思った時は遅かった。
すでに口の中に苦い白濁した液を放たれていた。
忠俊はティシュを取り、口の中の物を吐き出した。
忠俊が吐いていると、後ろから抱き竦められた。
そしてすぐさま唇を重ねられた。
精子がまだ残っている口の中に"忠俊"の舌が這い回った。
唇が離れると、忠俊が言った。
「あんまり綺麗じゃないよ」
「セックスに綺麗も汚いもないだろう?」
"忠俊"は忠俊を軽く押した。
忠俊は簡単に後ろに倒れた。

「それじゃお返しだ」
そう言って"忠俊"は忠俊の両脚を押し広げてショーツに鼻を近づけた。
「有希の匂いがプンプンするぞ」
「いやっ、恥ずかしい」
忠俊は心から恥ずかしいと感じた。
でも嫌な恥ずかしさではなかった。
ショーツの上から"忠俊"の舌を感じた。
(直接舐めて欲しい)
そんな欲求を口に出せなかった。
ショーツを取り払われ、"忠俊"の舌が直接女性器を這った。
「やあああ……だめぇぇぇ……おかしくなるぅ………」
忠俊は頭の中がグチャグチャになるような感覚に襲われていた。
全神経を女性器に集中した。
忠俊は無意識に"忠俊"の頭を押さえていた。
ずっとクンニし続けて欲しかったのだ。

全身とろけるような快感の中、いつの間にかペニスを挿入されていた。
入れられたことにも気づかないくらい快感に溺れていた。
ゆっくりゆっくりと有希の様子を見ながら"忠俊"が腰を動かした。
もう何が何だか分からなかった。
次から次へと押し寄せる快感にただただ身を任せていた。

"忠俊"が有希の中で果てるまで快感を味わい尽くした。
(有希の身体って最高だあ…)
忠俊は完全に有希の身体にはまってしまった。


気がつくと忠俊の身体に戻っていた。
(何だよ、日曜は始まったばかりなのにもう元に戻ったのかよ)
忠俊は有希の身体のままいたかった。
忠俊は自分の身体に対して不満を感じるようになってしまった。
(また有希になれないかな?)
しかしそんな忠俊の願いも虚しく、有希になれることなく時間が過ぎていった。

次に有希になったのは10日以上経った水曜日だった。
しかし残念ながらこのときは身体のコントロールは有希のままだった。
(自分で動けないのは残念だけど、久しぶりの有希の身体、堪能するぞ)

しかし朝からセックスするわけもなく、普通に"忠俊"を会社に送り出した。
(まあ仕方ないか…。夜までは何も起こらないよな)
そんな忠俊の予想にもかかわらず、有希は外出するようで身支度を始めた。
(あれ?どっか行くのか?)

有希は電車に乗って離れた町へ行った。
そして駅前にあるモンテローザという喫茶店に入った。
店の奥のほうに男が座っている。
有希はその男に手を振って、その男の前に座った。
(誰だ、この男?)
忠俊は目の前の男に見覚えがなかった。

すぐにウエートレスが注文を取りに来た。
有希はミルクティを頼むと、男と向き合った。
「久しぶりね」
「どうしたんだ?久しぶりに電話してきて」
「別に理由なんかないわよ。どうしてるかなって思って」
「何だ?旦那とうまくいってないのか?」
「そんなことないわよ。とっても幸せよ」」
「それじゃどうして?」
「だって和夫ってブティックやり始めたんでしょ?服のひとつやふたつ、元カノにプレゼントしたってバチは当たんないって」
「何だ、それ?誰から聞いたんだ、俺が店を開いたって」
「女の噂話の力って恐ろしいのよ。今日は定休日でしょ?あたしのためだけに服を選んでよ」
「休みだと知って、そんなこと言ってるのか?相変わらず悪魔だな、有希って」
「誰が悪魔よ、こんなに美しい女性をつかまえて」
「だからその美しさが悪魔なんだって」
「なるほど。あたしの美しさが罪なのね。それなら分かるわ」
有希は和夫の腕を取って、喫茶店を後にした。

「へえ、これが和夫の店?なかなか立派じゃない」
20坪に満たない広さだったが、それなりに有希が好きそうな服が並べられていた。
「可愛い服、いっぱいあるね」
有希はいくつかの服を手に取った。
「いくつかもらっていい?」
「何だ、買わないのか?」
「可愛い元カノのお願いなんだからいいでしょ?」
「…仕方ないな。いいよ、その代わり、久しぶりに飯につき合え」
「デートしたらプレゼントしてくれるの?さすが、和夫。太っ腹ね」
有希は嬉しそうに和夫に抱きついた。

(有希のやつ、この男とどうなろうってんだ?)

有希と和夫は小洒落たイタリア料理店に入った。
ランチメニューは一種類だけで、5000円した。
「ランチで5000円もする店を選ぶなんて結構儲かってんだ」
「そんなことないよ。久しぶりに有希に会ったからちょっと張り込んだだけだよ」
有希は食事を楽しんだ。
高いだけのことはあった。
料理は美味しかった。
デザートに出てきたケーキとコーヒーも美味しかった。

「あぁ、美味しかった。久しぶりに和夫に会ってよかった」
「お前はよかったかもしれないけど、こっちは店の商品は取られるし、ご馳走までさせられるし」
有希は最後のコーヒーを飲んでいるときに急に睡魔に襲われた。
(やばい、薬を飲まされたんだ…)
薄れる意識でそう考えたが、遅かった。
「ただほど高いものはないんだよ、有希ちゃん」
和夫の顔が近づいて言った。


和夫が覆い被さっている。
すでに二人とも全裸になっていた。
「やめてぇ」
有希が叫ぶと和夫の右手が有希の左頬をとらえた。
鋭い痛みが走った。
「何するんだ」
忠俊の叫びがそのまま声になった。
(こんなときに俺が身体を動かせるようになったのかよ)
忠俊は焦りながらも、和夫から逃れようと身をよじった。
「何だ、その乱暴な口のきき方は。生意気なんだよ」
再び和夫のビンタが炸裂した。
「痛いだろ」
「元カレの前なんだからもう少し女らしくしたらどうだ。それともそれが本性か?」
「うるさい。離せ」
忠俊は力の限り暴れた。
最初のうちは何とか逃れられそうだったが、そのうち両手両脚の自由を奪われた。
(女って何て力が弱いんだ)
忠俊は和夫の力の前にどうすることもできなかった。
最初は身体を這い回る和夫の舌の動きが気持ち悪かった。
しかしその舌に感じているのも事実だった。
(どうして?無理矢理犯られているのにどうしてこんなに感じるんだろう)
やがて和夫の舌に喘ぎ声をあげ始めた。
快感から出てくる声を抑え切れなくなっていた。
すでに手足は自由になっていたが、忠俊は反抗する気が失せていた。
忠俊は両手を和夫の背中に回し、身体を這い回る舌を感じていた。
すると、和夫の頭が有希の股間に潜り込んだ。
「…あ……んんんんんん……」
和夫の舌は忠俊のクリトリスをとらえた。
忠俊は目を閉じて身体を駆け巡る快感に身を委ねていた。
全身が性感帯のようだった。
忠俊は有希の快感を堪能していた。
ふと目を開けると、目の前にペニスがぶら下がっていた。
(うわあ、大きい)
それは忠俊のモノより大きく長かった。
忠俊はそのペニスを握り、口に運んだ。
(大きすぎて苦しい…。でもすごく興奮する……)
忠俊は一生懸命ペニスを銜えた。

「お前、昔はフェラなんか絶対しなかったのに。旦那に相当仕込まれてるみたいだな」
和夫はクンニをやめ、有希の横に寝転んで、フェラをする有希を見ながら有希の頭を撫でていた。
忠俊は見られていることに興奮していた。
何より男のペニスを銜えている自分に興奮していた。

忠俊は口を窄めて、ペニスを指でしごいた。
和夫のペニスから苦いものが出てきた。
(もうすぐ出そうだな)
そう思ったが、精液は出てこなかった。
少しむきになって手の動きを速めた。
「もうそろそろいいや。これ以上やられると本当に出てしまいそうだ」
和夫は忠俊の口からペニスを奪った。

「それじゃ有希が上になってくれよ」
和夫は仰向けに寝た。
和夫のペニスは力強く上を向いていた。

忠俊は和夫の腰の辺りにまたがった。
そして和夫のペニスを手を添え、忠俊の中に導いた。
「…あっ…んんん……」
忠俊は和夫の腰辺りに手を置き、腰を上下させた。
忠俊の腰の動きに合わせて、和夫が下から突き上げた。
「…あ…いい……」
忠俊は激しく突き上げられて、手を後方につくような態勢になった。
するとペニスのあたるところが変わった。
さっきよりも快感が強くなった。
「…あああああ……おかしく…なるぅ……。やめて……」
和夫が下からさらに激しく突き上げた。
「…ああああああ…いくぅぅぅぅぅ……」
忠俊は絶頂感に達し痙攣を起こし、そのまま和夫の胸に倒れた。

「すごく良かったぞ。俺とつきあってたときは淡白だったのに、旦那は相当スケベイな奴みたいだな」
忠俊は和夫の胸に顔をうずめていた。
和夫の手が髪を撫でてくれる。
忠俊は身体に残っている快感と和夫の手の温もりで幸福感に包まれているように感じた。
セックスの後もこんなに快感が残るなんて"忠俊"のときにはなかった。
なくはなかったが、これほど強くはなかった。
(セックスって相性があるんだな)
考えるともなくそんなことを考えていた。

「それじゃ俺は用があるから先に帰るから。金は払っておくから、有希はもう少しゆっくりしてっていいぞ」
和夫は急いで服を着て、部屋を出ていった。
ようやく今いるところがラブホテルの一室だと気がついた。


一人残された忠俊は快感がひくにつれて、自己嫌悪に陥っていった。
俺は妻の身体で何をしてんだろう。
そんな思いしか残らなかった。

忠俊は和夫の痕跡を洗い落とすようにシャワーで身体中を綺麗に洗った。
そして身支度を整えて家に戻った。

その日は眠りにつくまで有希のままだった。
"忠俊"から夜求められたが、適当な理由をつけて断った。
何となく抱かれる気にならなかったのだ。

次の日にはまた元の身体に戻った。
それからしばらくは有希になることはなかった。
積極的に和夫に抱かれたことを後悔しているせいかもしれない。
それでも時間が経つと、後悔の気持ちは薄れていった。
忠俊の脳裏には和夫とのセックスの良さだけが鮮明に焼きついていた。
そうなると、和夫ともう一度セックスしたいという欲求だけが強くなっていった。


それからも度々忠俊は有希になった。
しかし主導権を握ることはなかった。
有希が主導権を取り、有希の感覚を共有するだけだった。
"忠俊"とのセックスはそれなりに感じた。
しかし和夫とのセックスのほうがずっと良かった。
忠俊は有希になって身体の主導権を取れたら和夫に会いに行こうと思っていた。
それがどんな結末を呼ぶのか考えることはなかった。

しかしそんなチャンスは全く来なかった。
それどころか有希になることもなくなった。


忠俊は通信販売でバイブレータを購入した。
有希としての快感を味わえなくなったため、疑似快感としてアナルを使うことを思い立ったのだ。
有希になれないときには、有希の目を盗んでそれをアナルに入れていた。
(ああ、いい…。でも…)
こんなことをしても欲望は抑えられなかった。
それどころかさらにエスカレートしてきた。
忠俊は本物が欲しかった。

忠俊は有希に内緒で和夫の店に行った。
「いらっしゃいませ」
女性物しか売っていない店に男性一人だけで入るなんて日頃だと絶対にできそうになかった。
しかし今日はそんなことは気にもならなかった。
ターゲットである和夫しか忠俊の目には入ってなかった。

忠俊は店に入ると真っ直ぐに和夫に近づいた。
「いらっしゃいませ」
もう一度和夫は言った。
忠俊は何も言わずに和夫の身体に持っている物を当てた。
スタンガンだった。



和夫が気がつくとベッドに大の字で寝かされていた。
両手両足を縛ったロープがベッドの脚に結ばれていた。
しかも全裸だった。
「何するんだ!」
和夫は傍に立っている男に向かって言った。
その男はなぜか女装していた。
マネキンに被らせるようなウィッグを被っていた。
「この服に見覚えはないの?」
「何だ、そんなもの……うちの商品じゃないか!どうしてお前が着てるんだ?」
「この服をプレゼントしてくれたでしょう?」
「プレゼント?…ああそう言えば元カノが持って行ったっけな」
「あたしが今から同じことをしてあげる」
男が和夫に近づいてきた。


忠俊は和夫の両脚の間に立った。
忠俊は和夫の前では有希として振舞いたかった。
だから有希の服を着て女装したのだ。

ゆっくりと跪いた。
「何だ…やめろ」
和夫は必死に身を捩ろうとしたが、ロープのせいで身動きが取れなかった。
忠俊は和夫のペニスを右手で軽く握った。
そしてそれを銜えた。
「や…やめろ……」
和夫は嫌がりながらもペニスは硬くなってきた。

忠俊は口を窄めて、ペニスを指でしごいた。
和夫のペニスから苦いものが出てきた。

そこでフェラチオを止めて、忠俊は和夫の腰の辺りにまたがった。
そして和夫のペニスを手を添え、忠俊の中に導いた。
和夫は前もって腸を綺麗にし、ゼリーを仕込んでいたのだ。
「…あっ…んんん……」
忠俊は和夫の腰辺りに手を置き、腰を上下させた。
「…あ…いい……」
忠俊は手を後方につくような態勢で腰を振った。
するとペニスのあたるところが変わった。
有希で経験した以上に快感が強くなった。
「…あああああ……すごい……もっとぉ……」
和夫も無意識に下から突き上げた。
「…ああああああ…いくぅぅぅぅぅ……」
忠俊は絶頂感に達し痙攣を起こすほど感じた。
そしてそのまま和夫の胸に倒れた。


忠俊は男を求めるようになった。
そうなると有希との夫婦生活もなくなっていった。
やがて忠俊から離婚を切り出すことになった。

「すまない、俺と別れてくれ」
「どうして?わたしたち、うまくいってるじゃなかったの?」
「ごめん、俺はもう有希を愛する資格はないんだ」

幾ばくかの慰謝料を渡して、二人は別れた。





有希の告白



あたしにはあるときから特殊な能力が身についた。

あたしはそもそもあたしではなかった。
いやその言い方は少しおかしいかもしれない。
あたしはあたし、三好有希だったけど、今のあたしとは少し違うのだ。

今のあたしを形成している大部分は小池和哉という男性だった。
普通に両親がいて、普通に育っていった。
少しおとなしめの男の子だった。
しかし人生の大きな転機が訪れたのは高校のときだった。

通学で利用していたバスが交通事故に巻き込まれたのだ。
対抗車線を走っていた車が車線をはみ出し、正面衝突したのだ。
吊革につかまることもなく立っていたあたしはバスの前方に身体が飛んで行った。
あちこちに身体をぶつけてかなりの出血があったと思う。
死んじゃうのかなと思いながら、気を失った。

そして、次に気がついたら今の身体、すなわち三好有希になっていた。
なっていた、というのは正確ではない。
寄生していた、というほうが正確だろう。

最初は何が何だか分からなかった。
ただ有希本来の精神に寄生するだけで有希と感覚を共有するだけだった。
だから実生活は有希に任せてジッとしているだけだった。
生きているのかもしれないが、実際は死んでいるのと何ら変わらない状態。
そんなふうに思っていた。

しかし時間が経つにつれ、有希と精神が融合していった。
融合すると論理的な部分、すなわち判断などの部分は和哉の部分が色濃く出た。
感情面で有希の部分が残っている程度だった。
過去の記憶は和哉の部分はあまりなく有希の記憶がメインだった。
感覚としては和哉が有希の身体を乗っ取ったようなものだった。
それでも有希の部分もいくらか残っており、自分のことを『あたし』と呼ぶことに何の違和感も感じなかった。
あたしが今の有希の状態になると、昔自分が小池和哉だったことは錯覚だったようにさえ思うようになった。

そんなあたしが男性と結ばれたのは、かなり遅く23歳になってからだった。
どこかに自分が男性であった記憶が残っていたせいかもしれない。
だから男性とはできるだけそういう関係にならないようにしていたのだ。

それにしてもその初体験であたしは信じられない体験をした。
相手の男性があたしの中で爆発した瞬間、あたしは"あたし"の顔を見ていた。
それはほんの一瞬のことだった。
次の瞬間はあたしはその男性の腕の中にいた。
だから何かの錯覚だろうと思っていた。

しかし何度も何度も同じような経験をした。
やがてそれが相手の男性の目から見た自分だということに気がついた。
セックスをして相手が絶頂に達した瞬間、あたしは魂が相手の男性に乗り移っているのだ。
それも完全に乗り移っているわけではない。
あたしは乗り移った瞬間、あたしはあたしとして感じているのだ。
あたしの身体は普通にあたしが動かしているが、別のあたしは相手の視点であたしを見ていた。
それに気づいてからあたしはその瞬間や時間を自分でコントロールできないか試行錯誤し出した。
それは何か目的があっての行動ではない。
単なる興味本位だった。

そんな努力の結果、あたしは自分のその能力を自分で制御できるまでになった。
魂の一部を身近な相手に寄生させることができるようになったのだ。
しかしそれは相手が眠っていたり絶頂感を感じたりするときに限られた。
それでもあたしはその能力を楽しんだ。
相手の男性に寄生して、相手の生活を覗き見るのだ。
最高の楽しみは自分を抱くことだった。
自分自身を抱く背徳感。
それが最高の快感だった。
あたしの身体に残っているあたしは相手の男性が"あたし"であることに興奮し、より乱れるのだった。


そんなあたしがやがて忠くんと出逢い、すぐに結婚した。
正直なところ忠くんはそれほどセックスはうまくなかった。
でも、結婚するなら忠くんだと思った。
それは純粋に忠くんのことが好きだったんだと思う。

結婚できて本当に嬉しかった。
忠くんは優しかったし、愛されてるって感じてたから。
でも仕事のほうを大事にしてるかなってとこは少し許せないところだった。

ある夜、ゴルフに行くとか言って、あたしのことをそっちのけでさっさと寝てしまったことがあった。
腹を立てたあたしは眠っている忠くんに乗り移って、何とかしてあたしを抱きたくなるようにならないかいろいろ妄想した。
乗り移ったあたしの考えが忠くんの夢かなんかに影響を及ぼしてあたしを抱いてくれることを期待したのだ。
今まで何度かチャレンジして、そんなことはできないことは分かっていた。
けどその日は無駄なこともやってみようっていう気分だった。

でもやはりそれは無駄な努力だった。
深く眠っている忠くんを起こすことはできなかった。
あたしは自分の魂を自分の身体に戻した。

異変に気づいたのは次の日の夜、忠くんに抱かれているときだった。
あたしの中に別の誰かがあたしの感覚を共有していることに気づいた。
誰なんだろう?
あたしは自分の意識を探り、それが忠くんであることを知った。
(どうしてかしら?)
よくは分からなかったが、おそらく昨夜自分の身体に戻るときに一緒についてきたんだろう。

ふとあたしの悪戯心に火がついた。
忠くんのモノが入っているときに、身体のコントロールをあたしの身体にいる忠くんに渡してみたのだ。
それは初めての試みだったが、意外と簡単に実行できた。
あたしは感覚を感じるだけの存在になり、忠くんがあたしの身体をコントロールした。
でも忠くん自身はそんなことに気がつかないようだ。
それでも一心不乱に腰を振っている。
自分の意思で振っているとも気づかないで。
やがて達したタイミングで、身体の制御権を忠くんから取り返した。
忠くんは自分の意思で腰を振っていたことには全く気がつかないようだった。
その日のうちに忠くんの魂を忠くんの身体に戻した。


次の日、忠くんが昨日の話をしてくれることを期待した。
「昨日有希になってセックスしちゃった」とか。
でも忠くんは何も言わなかった。
考えれば自分が女になって自分に抱かれたなんてことを人に告白するなんて普通はできないのかもしれない。
それでも夫婦の間で秘密を持つなんてことはして欲しくない。


でもセックスのやり方が少し変化していた。
あたしが感じるところが分かったせいかそこを重点的に攻めるようになったのだ。
おかげですごく感じるようになった。
その点は満足している。
それでも自分が経験したことをあたしに言って欲しい。
あたしになってどう思ったのか知りたい。
あたしの悪戯心はさらに燃えた。


次の週の土曜の夜、眠っている忠くんの乗り移った。
そして、忠くんを抱きかかえるイメージで自分の身体に戻った。
するとイメージ通り、忠くんの魂の一部をあたしの身体に移すことに成功した。
今度は忠くんにあたしの身体の主導権も渡そうと思っていた。
あたしの身体になってることに気づいたら、忠くん、どうするかな?
いきなりおっぱい揉んじゃったりするんだろうな。
あたしは少し興奮してなかなか寝つけなかった。

あたしは計画通り朝起きるとすぐに忠くんに身体の主導権を渡した。
忠くんはすぐに順応したようだった。
それにしてもすぐにエッチするなんて信じられなかった。
しかもあたしがあんなに嫌がっていたフェラチオなんてするんだもん。
それにあんなに明るい部屋でクンニまでさせるなんて信じられない。
恥ずかしくってどうしようもなかったけど、あんなに感じるなんて思わなかった。
あんなに感じるんだったらこれからもやってもらいたいくらい。
でもやっぱり恥ずかしい。
自分が自分の身体にいるときにできるかな。
ちょっと自信ない。
でもフェラはできそう。
ちょっと臭うけど、あれが口に入ってる感じってちょっと面白い。
次はあたしがやってみようっと。

それにしても忠くんはあたしの身体で好き放題し過ぎ。
それなのに忠くんは何も言わなかった。
何か言って欲しい。
いや言わせたい。
あたしはかなり意地になっていた。

いろいろなシチュエーションを設定して、忠くんの反応を見た。
元カレも利用した。
ちょっとだけデートして妬かせようと思っただけなのに。
それにしてもあいつ、薬を使うなんて許せない。
それにも増して、元カレに自ら抱かれる忠くんはもっと許せない。
どうやら忠くんはあたしの身体でセックスすることに填ってしまったみたい。

でも忠くんは何も言ってくれない。
言ってくれないどころか、あたしの身体ですぐにセックスしちゃうんだもん。
あたしがまるで淫乱女みたいじゃない。
大切な妻のはずなのに、その妻の身体でセックスするなんて何考えているんだろう?

忠くんにあたしの身体の主導権を与えちゃうと何をやり出すか分からない。
だから、あたしの身体の主導権を与えないようにして、何度か魂を移した。
だけど、忠くんは何事もないように毎日を過ごしている。
それでも相変わらず何も言ってくれない。
でもあたしになることは嫌じゃないみたい。
嫌どころかもしかしたらあたしになるのを待っていたのかもしれない。
忠くんばかりが得をしているような気がする。
やがてあたしはそんな悪戯に飽きてしまった。


そんなあたしの悪戯は忠くんにものすごい影響を与えたらしかった。
忠くんは女として抱かれる喜びに填ってしまったのだ。
あたしを捨て、ホモの世界に行ってしまった。
大好きだったのに…。
今ではあんなことをしたことを後悔している。
でも、今さらどうしようもない。
慰謝料もそれなりにもらったし、次の相手を見つけるしかないか。
次の相手を見つけたら、もう少し自重しなくちゃネ。


《完》

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