正夢



僕はホモじゃない、はずだ、と思う。
そう思うんだけど、最近ちょっと自信がなくなってきた。
それはここ一週間くらい見る夢のせいだ。

その夢の中では僕はなぜか女性だった。
しかも全裸になって男にまたがって下から突かれて喘いでいる。
相手の男は1学年上のサッカー部のキャプテン。
僕は部活なんかしてないけど、女の子たちがキャアキャア騒いでいるので名前くらいは知っている。
小笠原祐人という男の僕から見ても格好良い先輩だ。

言葉を交わしたことはない。
おそらく小笠原先輩は僕の存在なんか知らないはずだ。
僕なんて色白でおとなしく学校では全く目立たない存在だから。
身長もそんなに高くなく、クラスの男子では2番目に小さい。
童顔のせいで「可愛い」と言われることはあっても「格好いい」なんて言われたことすらない。
どちらかというと「女の子だったら可愛かったかもね」と言われるくらいだ。
ただし少し馬鹿にされたような空気を醸し出しながら。

夢の中の詳細は覚えていない。
ただ女性として犯されているという記憶があるだけだ。
しかし、確実に性的な快感を感じているのだと思う。
その夢を見た日は、起きると必ずパンツの中に粘性の液体が出てしまっているのだ。

そんな夢を見るようになったせいで僕は何となく小笠原先輩を意識するようになった。
何もすることがない昼休みには校庭でボールを蹴る小笠原先輩の姿を何となく目で追ってしまっているのだ。
もちろんホモでない僕は小笠原先輩に対して好き嫌いの感情はない。
そんな僕の存在を小笠原先輩は知るはずはなかった。

そんな夢はほとんど毎晩続いた。
そしてそんな夢を見るようになって2ヶ月ほどしたある日のことだ。
僕は2学期の期末テストに備えて数学の問題集を選ぶため学校の帰りに本屋に寄った。
(う〜ん、どれにしよう?あんまり分厚いの選んでもできっこないしなぁ)
と思いながら僕が問題集を選んでいると、後ろから手を伸ばしてくる人がいた。
後ろを振り返るとそこに小笠原先輩がいた。
「あっ、小笠原先輩」
僕は思わず小さな声で呟いてしまった。
そのせいで小笠原先輩は僕のことをじっと見つめていた。
「あれっ、君、僕のこと知ってるの?」
先輩は僕の制服を見て納得がいったように言った。
「あっ、そうか。うちの高校なんだ」
「はい。小笠原先輩は学校では有名人だから…」
「そんなことないけど…。君はサッカーには興味ないのかな?あるんだったらまた応援にきてくれよな」
そう言って小笠原先輩は参考書を手に取り、レジに向かっていった。
初めて小笠原先輩と言葉を交わした。
この事実に僕の胸はドキドキしていた。

次の日から校庭でボールを蹴っている先輩の姿を意識して眺めるようになった。
意識してはいるが、特に強い思いがあるわけではない。
それを僕は憧れみたいなものだと思っていた。


それからさらに3ヶ月ほど経った日のことだった。
その日は午前中に激しい雨が降り、午後からは打って変わって快晴になった。
だが、道にはいくつもの水溜りができていた。
僕はいつものように特に何を考えるわけでもなく、ただただボゥ〜っと学校からの帰り道を歩いていた。
すると後ろから誰かがぶつかってきた。
僕は意思のない物体のように、何ら抵抗せずそのまま前方に倒れてしまった。
不幸なことにそこは大きな水溜りがあり、おかげで全身泥水まみれになってしまった。
「ごめん」
声をする方を見ると、そこに小笠原先輩がいた。

「ちゃんと前を見て歩いてなかったんだ、悪い」
そう言って小笠原先輩は倒れている僕に手を差し出した。
「いいんです。ボゥ〜っと歩いていた僕も悪いんですし」
「そんなことないよ、僕が100%悪いんだから。あれっ、君とどこかで会ったっけ?」
「はい、少し前に本屋で会いました」
「ああ、あの時の…」
先輩が僕のことを覚えているのは意外だった。
「とにかくそのままだと風邪を引くから僕の家で身体を温めよう、僕の家はすぐそこだから」
「えっ、そんなの、いいです」
「風邪ひいたらダメじゃん。もうすぐテストだろ?」
そう、3学期の期末テスト前ということで小笠原先輩はクラブがなく、こんなに早く帰ってきたのだ。
でないと、こんな時間に小笠原先輩が帰るわけがない。
「さあ」
先輩が僕を促した。
「ありがとうございます、じゃあお言葉に甘えて」
僕がそう言うと、小笠原先輩が歩き出した。
僕もその後を黙ってついて行った。
3分足らずで先輩の家に着いた。

「ところで名前聞いてなかったよな。名前はなんて言うの?」
「秦野です。秦野真樹(まさき)っていいます」
「僕は小笠原祐人。って知ってたんだっけ?とにかく、秦野くん、そのままだったら風邪をひくから服を脱いで、シャワーでも浴びといでよ。着替えは僕の下着とジャージでいいかな?」
小笠原先輩は優しかった。
僕は先輩の言葉に甘えてシャワーを浴びさせてもらった。
シャワーを出ると紺のボクサーパンツと学校のジャージが置いてあった。
僕はそれを着て小笠原先輩のところに行った。
「ありがとうございました。おかげで身体温まりました」
「それじゃ僕もシャワー浴びてくるから待ってて。今は家の人間が誰もいないから適当にテレビでも見ててよ」
小笠原先輩は浴室に入っていった。
僕はテレビのスイッチをつけて適当に番組をザッピングしていた。
面白そうな番組はなさそうだった。
僕は諦めてテレビのスイッチを切った。
ストーブの前に僕の下着や制服が置いてあった。
小笠原先輩が置いてくれたのだ。
先輩の優しさが感じられた。
何となく嬉しくなり、ストーブの前の服を見ていた。
「君の服、サッと泥を落としてストーブで乾かしてるから、乾くまで僕の家で勉強してたらいいよ」
いつの間にか先輩が出てきて、僕の後ろに立っていた。
「ありがとうございます」
僕は先輩に礼を言った。
しかし、それからしばらくは勉強もせず、学校のことやテレビのことなど他愛もないことを1時間ほど話した。
「そろそろ乾いたかな?」
先輩が僕の服の乾き具合を確認した。
「う〜ん、まだまだ乾かないな。……あまり遅くなるのも悪いから今日はこの濡れた服を持って帰れば。とりあえず僕のジャージを着て帰ればいいから」
「すみません、そうさせてもらいます」
僕はもう少し話をしていたいという気持ちを抑えて家に向かった。

僕は帰ってから風呂に入った。
シャワーを浴びると、脛毛が抜けて排水口に吸い込まれていった。
どうしたんだろう?
もともと脛下は濃いわけではなかったから、それほど違いは感じられなかった。
だから、疑問には思ったが、あまり深く考えなかった。

次の日の朝、先輩から借りたジャージをクリーニングに出した。
夕方、新しいパンツを買って、さらに出来上がったクリーニングを取って先輩の家に行った。
玄関のインターホンを押した。
しばらくすると先輩が出てきた。
「先輩、昨日はありがとうございました。これ、お借りしてたジャージです」
「秦野くんか。そんなのいつでもよかったのに」
「では失礼します」
「うん、じゃあ」
今日は先輩の家に入れないのかと思いながら、先輩の家を後にしようとした。
「時間があるんだったら、家に入らないか?」
先輩の声が僕を引きとめた。
「今ちょうど僕一人なんだ。時間があるんならちょっと話しないか?」
「は…はい!」
僕は喜んで先輩の提案に応じた。
僕は先輩の部屋に入った。外国のサッカー選手のポスターが張ってあった。
きちんと整理整頓された、というわけでもないが、それほど散らかっているわけでもない部屋だった。
「こんなものしかないけど」
先輩は僕に缶コーヒーを手渡した。
「そんな。お構いなく」
「じゃ、いきなり変なこと聞くけど、君にお姉さんか妹さんはいる?」
「いいえ、兄弟はいません。一人っ子です」
「本当に変な話なんだけど聞いてくれるかな?実は…」
先輩は何か言いにくそうに言いよどんだ。
いつもの快活な先輩しか知らない僕にとっては意外な一面を見たような気がした。
「実はちょっと前から同じような夢を見るんだ。実は昨夜になってその夢が少しはっきりとしてきたんだけど、それが秦野くんにそっくりなんだよ、女の子なんだけど」
「……」
僕はどう返事していいのか分からず黙っていた。
「正直に言うと、僕は多分その夢の女の子に恋してる。現実でもその女の子に会いたいと強く思ってたんだ。それで君にお姉さんか妹さんがいたらと期待したんだけど」
「……すみません」
「そんな…。君が謝ることじゃないよ。それよりお願いがあるんだけど……」
先輩は机の上に置いてあった紙袋を僕の前に置いた。
「君にそれを着て欲しいんだけど」
僕は紙袋の中身を見た。
うちの学校の女子の制服が入っていた。
「どうしてこんなものを僕が?」
「君に女姉妹がいたとしても、あの夢の女性は君なんだって思ってた。自分でもどうしてそう思うのか分からないんだけど、なぜかそう思ってた。だから今度君がうちに来ることがあればと思って、ついさっき姉貴の昔の制服を取って僕の手元に置いておいたんだ。まさか今日君が来るとは思ってなかったけど」
僕は何も言わず先輩の言葉を待った。
「僕のことを変に思わないで欲しい。いや、正直変なのかもしれない。でも僕は確かめたいんだ、君が夢の中の女性かどうかを」
先輩は僕の目をじっと見た。
真剣な瞳だった。
「先輩は…ホモですか?」
僕は思い切って聞いてみた。
「そうだよな、こんなこと頼んだらそう思うよな。でもあんな夢を見るまでは、いや、君と出会うまでは僕は普通の女の子のことを好きになる普通の男だと思ってた。でもどうしてもこの気持ちは抑えられなかったんだ……。ごめん、変なこと頼んで。こんなことは忘れてくれ」
「……です」
「えっ?」
「僕、この服、着てみてもいいです」
「本当に?無理しなくてもいいんだよ」
「別に無理なんかしてないです。先輩が願うことだったら、それで僕にできることだったら、してもいいかなって思って」
「本当にいいの?」
「はい」
「ありがとう」
「ただ…」
「ただ?」
「ただ目の前で着替えるのは恥ずかしいので一人で着替えさせてもらってもいいですか?」
「ああ、もちろんだとも。僕は部屋の外で待ってるから、着替えたら呼んでくれるかな?」
「はい、分かりました」
先輩は部屋を出ていった。
僕は紙袋の中のものを取り出した。
そして下着だけになって、それを着た。
「先輩、着ました」
僕は部屋の外で待っているであろう先輩に声をかけた。
先輩はすぐに入ってきた。
僕は恥ずかしさで先輩の顔を見れなかった。
「やっぱり夢の女の子のと同じだ」
先輩はしばらく僕の頭から足の先まで何度か往復するように見ていた。
「脚が綺麗だね、女の子でもそんなに綺麗な子はいないよ」
僕は昨日の風呂での臑毛が抜け落ちたことを思い出した。
まるでこんな格好をさせられることを予期して無駄毛を処理したように思われたんじゃないかと考えていた。
僕がそんなことを考えていると、先輩は僕の両肩に手を置いた。
そして強い力で引き寄せられた。
「あっ」
僕は抵抗する間もなく先輩に抱きしめられた。
先輩の股間のものが大きくなっているのが感じられた。
なぜか僕も興奮していて、スカートを内側から押し上げていた。
僕は抵抗もせずに先輩に抱きしめられていた。
次の瞬間、僕の唇を先輩の唇が覆った。
(えっ!)
僕は驚いたが、全く嫌な感じはしなかった。
キスは一瞬だけだった。
すぐに先輩は身体を離した。
「ごめん」
「いいえ」
「君のその姿を見たらどうしても抑えられなくなってしまって。男にキスされるなんて最低だよな」
「そんなことないです。先輩だったら僕も嬉しいです」
「本当に?」
「はい」
「ありがとう。君って優しいんだな」
「あの……。もう着替えていいですか?」
「あっ、そうか……。でも、できたらもう少し着ててくれないかな?」
「先輩がそうおっしゃるなら」
僕はベッドに座って、先輩の話を聞いた。
スカートを穿いているせいで、どういうふうにしていいか分からなかったが、膝をくっつけて踵を離して座っていた。
先輩は海外のサッカーの話を楽しそうにした。
僕はそんな先輩を愛おしく見つめていた。
バルセロナとかミランとか地名らしきものが出てきて、それがサッカーのチームだと分かるまで時間がかかった。
1時間ほどそうして過ごした。
「そろそろ帰らないと」
僕が時計を見ながらそう言った。
「そうだね」
「今日はお邪魔しました」
「もし秦野くんが本当に嫌じゃなかったら、これからも遊びに来てくれないかな」
「先輩こそ嫌じゃなかったら来させていただきます」
「それで…」
「先輩の前では女の子になればいいんですね?」
「いいかな?」
「はい、喜んで」
僕と先輩は携帯の番号とメルアドを教え合った。
僕は女子の制服からいつもの服装に戻って先輩の家を後にした。
僕はすごく幸せな気持ちだった。

次の日から校庭でボールを蹴っている先輩の姿を追っていると、先輩も僕の方を見て笑ってくれるようになった。
僕も周りに気づかれないように小さく手を振った。
同じクラスの女子は「私を見て笑ってくれた」とか喜んでいたけど。

ファーストキスからちょうど2週間後の日に先輩からメールが届いた。
『今日時間があるんだったら遊びに来ない?』
期末テストも終わり暇を持て余していた僕はすぐに返信した。
『すぐに行っていいですか?』
『もちろん!』
先輩の返事は早かった。

僕は急いで先輩の家に行った。
「今日はこれを来てくれるかな?」
先輩は女の子のTシャツとミニスカートを準備していた。
「こんなの恥ずかしいです」
「頼む」
先輩は少しふざけながら僕を拝むように言った。
僕は先輩に背を向けてパンツ一枚になった。
「今日はビキニパンツを穿いてきたの?」
「いいえ、海パンのサポータを穿いてきました」
「ちゃんと準備してくれてたんだ、ありがとう」
僕は先輩に背を向けたまま、スカートとTシャツを着た。
「先輩、着ました」
僕は先輩の方を向いた。
「あれ?乳首のところがはっきり見えるんだけど」
そう良いながら先輩が僕の乳首に触れた。
「…ぁ……」
「感じるの?」
「はい、少し」
少し前から僕の胸のところにしこりができ、乳首が少し大きくなっていたのだ。
「触ってもいいかな?」
僕が迷っていると、先輩は僕の返事を待たずにTシャツの上から僕の胸を触れた。
「…あぁぁ…」
「気持ちいい?」
「…ぇえ……はい……」
僕は目を閉じて、先輩の指の動きを感じていた。
サポータの中で僕のペニスが大きくなり痛みを感じるくらいになった。
先輩はゆっくりと僕をベッドに誘導していった。
僕の脚がベッドにあたると、先輩の腕に支えられてゆっくりとベッドの上に横になった。
先輩はゆっくりと僕のTシャツをまくり上げて、僕の胸を見えるようにした。
そして、ゆっくりと乳首の辺りを触った。
「ちょっとしこりができているみたいだね。思春期には時々あるみたいだから大したことないよ、きっと」
そう良いながら乳首を摘まむようにした。
「…あっ……」
僕は思わず声を出した。
「乳首が少しだけ大きいね」
「10日くらい前から少しずつ大きくなってきました」
「でも女性ほどじゃないね」
「先輩は見たことあるんですか?」
「写真で、ね」
先輩は僕の乳首を口に含んで、吸うようにした。
「痛い…。先輩、痛いです……」
「ごめん、きつく吸い過ぎたかな?」
先輩は口を離し、舌で舐めるようにして僕の乳首に刺激を与え続けた。
「…あ…あん…先輩…やめて…ください……」
僕は甘えるように先輩に言った。
先輩は僕の言葉を無視して、僕の乳首を舐め続けた。
「…先輩…もう…本当に…や…めて…」
僕が懇願したのが通じたのか先輩はその行為をやめてくれた。
「気持ちよかった?」
「はい、とっても」
「じゃあ、もっとやってもいいかな?」
「ごめんなさい、もうこれ以上は」
「そう…」
先輩はつまらなそうな顔をした。
「先輩、キスしてください」
僕は目を閉じてキスを待った。
先輩は僕の唇に自分の唇を重ねた。
10秒以上唇を重ねていた。
「先輩、大好きです」
やがて長いキスが終って僕が言った。
「僕もだよ」
僕たちは恋人同士のように見つめあって微笑んだ。

それから1週間後にまた先輩のところに行った。
先輩の部屋に入って、二人きりになると僕の目から涙がこぼれた。
「先輩、僕……」
「どうしたの?」
「僕…女の子になってるみたいなんです」
僕はそれだけ言うとさらに激しく涙がこぼれた。
「どういうこと?」
先輩は驚いて僕と向き合った。
「見ててください」
僕は上半身裸になった。
僕の胸がわずかに膨らんでいた。
「胸が少しずつ大きくなってきてるんです。このままだと、僕、女の子になっちゃいそうで」
先輩は何も言わずに僕を抱きしめてくれた。
僕は先輩の胸の中で思いっきり泣いた。
何分泣いたか分からないが、おかげで少しずつ落ち着いてきた。
「先輩、ありがとうございました。もう大丈夫ですから」
僕は先輩から離れようとした。
「先輩、離してください。僕、女の子の服、着なきゃ」
「今日はいいよ」
そう言って先輩は僕をベッドに押し倒した。
僕は身の危険を感じて身体を硬くしたが、先輩は僕の頭を撫でてくれるだけだった。
「僕のせいで…僕の見た夢のせいで……秦野くんがこんなことになったんだろうな…」
先輩は僕の頭を撫でながら、そんなことを繰り返しつぶやいていた。
「そんな…。先輩は悪くないです。僕が先輩のことを好きだから」
「いや、僕があんな夢を見ても、秦野くんにさえ話さなければ良かったんだ」
先輩は黙って30分近く僕を抱きしめてくれた。
僕は気持ちが落ち着いてくるのを感じた。
ようやく平静を取り戻してくると僕は先輩に言った。
「先輩、僕のこと、気持ち悪くないですか?」
「どうして?」
「身体が変化してるんですよ」
「だから?」
「変な病気かもしれないじゃないですか。もし女性になる病気で伝染病だったら先輩にも移るかもしれないんですよ」
「そっか、そういう可能性もあるんだね。でも僕は秦野くんが女性になってくれたら嬉しいと思うことがあるんだ、秦野くんには悪いけど」
「どうしてですか?」
「だって秦野くんが女の子だったら堂々と付き合えるじゃないか」
「じゃあ僕がこのまま女の子になったら恋人にしてもらえますか?」
「僕は今でも二人のときは恋人だって思ってるけど、違うのかな?」
何となく感じていた違和感を話すことにした。
「先輩…」
「何?」
「先輩と二人っきりのときは僕は女の子なんですよね?」
「そうだよ」
「じゃ、秦野くんって呼ぶのをやめてもらえませんか?」
「どうして?」
「だって僕は女の子なんだから秦野くんって呼ばれると現実に引き戻されるような気がして…。だから真樹(まき)って呼んでもらえませんか?真樹(まさき)の字のまま呼び方を変えただけですけど」
「うん、分かった。じゃあ、これからは真樹って呼ぶよ」
僕たちは見つめ合いながら笑った。
「やっと笑ったね。今日は真樹の笑顔が見れないかと思ってた」
その日はそれ以上のこともなく身体を密着しながら話しただけだった。

さらに1週間後、先輩のところに行った。
僕はすぐに無言で服を脱いだ。
僕の胸はその頃にはAカップになっていた。
先輩は黙って僕が服を脱ぐのを見ていた。
僕はパンツも脱いで全裸になった。
「下半身まで変化が出てきました」
この頃には僕は感情を失ったようになっていた。
「金玉がなくなりました」
「金玉が?」
「なくなっちゃったんです!」
「まさか!?」
「本当です。ペニスはあります。でも袋の中にあったものはなくなっちゃったんです」
「……触ってもいい、かな?」
先輩が僕のおちんちんの下辺りに手を伸ばした。
「ホントだ。何もない」
「もう少し奥を触ってください」
先輩が股間に指を伸ばした。その指が溝に入った。
「…ン…」
「えっ!これってまさか…?」
「僕もよく分かんないんですが多分女の子になってるんだと思います」
「『思います』ってそんな落ち着いてられるね」
「今さらもう驚きません」
「もう少しちゃんと見せてもらってもいいかな」
「いいですよ」
僕はベッドに寝かされ、両脚を大きく開かされた。
先輩は何も言わずにじっと見ていた。
僕は徐々に羞恥心が生まれてきた。
感情が表れてきたのだ。
「先輩、恥ずかしいです」
先輩は相変わらず僕の股間をじっと見つめていた。
やがて先輩は何も言わず、その部分を触りだした。
「あん…先輩……ダメです…やめて…ください…」
先輩は僕の新しい器官に指を入れた。
「痛い…です……」
先輩は僕の言葉を無視して指を出したり入れたりした。
『クチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュ…』
僕の新しい器官から潤滑油が出ていて、それがいやらしい音をたてていた。
「…先輩……もう…もう…やめて…ください……。これ以上…だと…おかしくなりそう……です…」
「じゃあ、そろそろ入れてもいいかな」
「ダメです。まだ恐いから」
「そんなこと言っても、もうこんなになっちゃってるし」
先輩はズボンの下で大きくなっているペニスを指差した。
「先輩さえよければ僕の口で…」
そう言って僕は先輩のズボンのチャックを下ろした。
僕はパンツの中で大きくなっている先輩のペニスを取り出した。
生臭い匂いが鼻をついた。
僕は先輩のペニスを右手で持ち、飴玉を舐めるようにペニスの先を舐めた。
少し塩辛い味がした。
「うっ…」
先輩の声が頭上から聞こえた。
(感じてくれてる)
僕はそう思い、一生懸命先輩のペニスの先を舐めた。
僕が舐めるとピクッピクッと動く。
そんなペニスを見ているとなぜか愛おしくなってきた。
僕は先輩のペニスを銜えた。
歯を当てないように気をつけながら、口いっぱいに銜えた。
そして口を窄めながら頭を前後に動かした。
先輩は頭上で喘いでいる。
僕は一生懸命頭を動かした。
「やばいっ」
先輩はそう言って僕の口からペニスを抜いた。
その瞬間、先輩のペニスから白い粘液が飛び出し、僕の顔にかかった。
「ごめん、あんまり気持ち良くって我慢できなかったんだ」
「いいんです、先輩の物なら嫌なもんなんてありませんから」
僕はそう言って口の辺りについた精液を舐めた。
「でもあんまり美味しいもんじゃありませんね」
僕がそういうと先輩は僕を強く抱きしめてくれた。
「真樹が本当に女の子になっても絶対に僕が幸せにするからな」
「うん」
僕は嬉しくて涙をこぼした。

1週間後やはり先輩の家に行った。
先輩の目の前で僕は着てきたコートを脱いだ。
「えっ!」
先輩は驚いた。
僕は完全に女の子の格好をしてきたのだ。
「もう完全に女の子になりました。僕の女の子になった姿を先輩に見て欲しくってこんな格好してきました。……変、ですか?」
「いいや、変じゃない。すっごく可愛い」
「先輩、僕、女の子になっちゃっいましたけど、僕のこと、愛してくれますか?」
「もちろんだよ、この前約束したじゃないか」
先輩はそれ以上言わずにじっと僕を見ている。
「先輩、じっと見てないで、何か言ってください。恥ずかしいです」
僕は居たたまれなくなってそう言った。
「ごっ、ごめん。あんまり夢の女の子そのままだったんで驚いているんだ」
「そうなんですか?」
「うん、僕と真樹がこんなふうになることを夢が教えてくれてたんだな」
先輩は優しくキスしてくれた。
すぐに唇が離れたが、先輩はすぐにまた唇を重ねてきた。
今度は激しかった。
先輩は僕の口に舌を割り込ませた。
僕は一生懸命先輩の舌に自分の舌を絡ませた。
いっぱいいっぱい先輩の唾を飲んだ。
僕の口の周りは先輩の唾液でベトベトになった。
先輩は僕をベッドに導いた。

先輩は僕を横にさせると首筋を舐めながら服の上から胸を揉んだ。
「ブラジャーしてるんだ」
先輩は僕の胸を揉みながら質問してきた。
「…ん……肩が…凝るから」
「どれくらいになったの?」
「…Dカップ……です……」
「自分で測ったの?」
「ブラジャーを買うときに…ん…店員さんに…測ってもらったんです……あんっ…」
「じゃ、正確にDカップなんだね。見ていい?」
先輩は僕の服をまくり上げ、背中に手を回しブラジャーのフォックを外した。
そしてブラジャーをずらし膨らんだ乳房を揉んだ。
「乳首が前より大きくなってるね」
そう言いながら左の乳房を揉まれて、右の乳首に舌を絡ませられた。
「…はん…」
僕は気持ち良さにとろけそうだった。

先輩の手がスカートの中に入り込んできた。
パンツの上から先輩の手が僕の女性の部分をこすった。
その頃には僕の股間はおしっこを漏らしたようにびしょ濡れになっていた。
先輩は僕のパンツをずらしてクリトリスをいじった。
「…ん……痛い…」
先輩の触り方が少し乱暴なためか僕は痛みを感じた。
「ごめん」
先輩はそう言って僕の下半身に頭を移動した。
僕のパンツを片足だけ抜き、両手で僕の股を大きく広げた。
「だめ、恥ずかしい…です」
先輩は僕の言葉を無視し、ゆっくりと優しく僕の股間に舌を這わせた。
『ペチャペチャペチャペチャペチャペチャペチャペチャペチャ……』
「…はぁ……ぁあ……ん……」
先輩が僕の股間を舐める音と僕の声にならない声が部屋に響いていた。

先輩がクンニをやめ、僕の女性の部分にペニスをあてた。
「先輩、優しくしてください」
僕の言葉に先輩は優しい笑顔で答えてくれた。
先輩のものが入ってきた。
僕は強い痛みを感じたが、シーツを掴んで必死で痛みを我慢した。
突き上げられていた痛みがやがて鈍痛になった。
「先輩、全部入ったんですか?」
「うん」
「先輩とこんなふうになるなんて嘘みたいです」
「確かにひと月前では考えられなかったよね」
「……」
僕は頭の中で先輩と知り合ってからのことを回想した。
「そろそろ動いてもいいかな?」
「もう少しこのままじっとしてもらってもいいですか?先輩を感じていたいから」
「うん、いいけど……」
僕は僕の身体に入っている先輩の男性に気持ちを集中した。
「…うっ…」
ふいに先輩がうめいた。
「どうしたんですか?」
「真樹が急に締め付けたんじゃないか」
「えっ、何を?」
「何をって僕の大事なところ」
「僕、そんなこと、してません」
「してないって言ったって……ほら…また」
どうやら僕の意識の外で僕の女性の部分が先輩の男性を締め付けているらしかった。
僕は先輩の男性に意識を集中した。
「ほらっ、今も締め付けてる。今度のはすごく強いよ」
先輩は感じてくれているようだった。
「そろそろ動くね」
先輩はゆっくりと腰を動かした。
やはり僕は痛みを感じたが、我慢できなくもない痛みだったので、何とか我慢した。
先輩の動きがだんだん速く荒々しくなってきた。
僕は痛みの中にも抑えきれない快感が湧き上がってくるのを感じていた。
「…ぁん……ぁん……ぁん…ぁん……ぁん…ぁん…」
先輩のリズミカルな動きに僕は声を出すのを抑えられなかった。
「先輩……僕…おかしく…なりそうです……」
「真樹……好きだ……」
「先輩…僕も…好き……」
「行くぞ」
「先輩、来て」
先輩の動きがゆっくり大きくなりやがて叩きつけるように僕を突いた。
その瞬間、先輩の男性が痙攣して僕の中に先輩の愛が発射されたのを感じた。
同時に僕もあまりの快感に頭が真っ白になってしまった。

「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」
先輩と僕は重なり合ったまま抱き合っていた。
先輩の男性は小さくなっていたけれど、僕の中に納まったままだった。
しかし先輩が少し身体を動かした拍子に僕の中から抜け出た。
「あんっ」
僕はその刺激で声を出してしまった。

先輩は自分の男性を僕の中から出すと僕の横に仰向けで寝転がった。
僕は先輩に寄り添うような形で横を向いた。
「真樹」
先輩は天井を見つめたまま言った。
「何ですか?」
「真樹はこうなったことを後悔してないのか?」
「先輩に抱かれたことですか?」
「真樹が女になってしまって、僕に抱かれたこと」
「僕が女になった理由は分かりませんけど、先輩を好きになったことは後悔してません」
「真樹」
先輩は僕の方を見た。
「先輩」
僕はキスを求めるように目を閉じた。
先輩は優しく短いキスをした。
「先輩は後悔してないんですか?」
「真樹と一緒にいられるのに後悔することなんてないよ」
「だって僕、元男ですよ」
「今は素敵な女性だろ?」
「素敵かどうかは知らないけど女性になっちゃいました」
「少なくとも僕にとっては素敵な女性だ」
「先輩、嬉しいです」
今度は長い長いキスをした。
先輩の男性部分が少しだけ元気になってきた。
絡み合う中で僕は先輩の上になった。
身体を動かすと、僕の中から先輩の出した粘液が出て行くのを感じた。
少し気持ち悪さを感じたが気にしないことにして行為を続けた。
「先輩、今度は私が……」
そう言って僕は先輩の男性を銜えた。
上目遣いで先輩を見ながらフェラチオをした。
先を舐めたり、竿を擦ったり、袋を舐めたりしていると、少し柔らかさの残っていた先輩の男性部分が固くいきり立ってきた。
「先輩…またひとつになっていいですか?…」
僕はいきり立っている先輩のペニスを僕の膣口にあてた。
そのままゆっくり腰を下ろしていった。
「ああ…すごい……」
先輩が驚いたように僕を見ていた。
「どうしたんですか?」
「夢と全く同じだ」
「えっ」
「僕が見てる夢が今の状況と全く同じなんだよ。真樹が僕の上になって思い出した。僕の見てる夢はまさにこの状態だ」
「そうなんですか」
僕は先輩の言葉を聞き流して上下運動を始めた。
僕の見た夢と同じにするためには動きが必要だったからだ。
僕は夢を思い出しながら腰を動かした。
腰を動かすたびに先輩の男性器が僕の中深くまで侵入してくるのを感じることができた。
ほとんど痛みを感じずに快感だけを感じることができた。
僕は本当に幸福感に包まれていた。

快感を感じながらも、これからどうなるんだろうという不安を感じていた。
女になってしまった僕に対して親はどういう反応をするのか?
学校の奴らの好奇な視線に耐えられるのか?
もしかするとすでに妊娠してしまったかもしれない。
そのとき周りはどんな反応をするのか?
確かなことは先輩のことが好きだということ。
そして先輩も僕を愛してくれているだろうということ。
このふたつさえあれば少々の障害は何とかなりそうな気がする。
そして障害が二人の愛を強めるという気もする。
僕の中に挿入された先輩を感じつつ、不安の中にも確かな愛を感じていた。


《完》

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