割のいいアルバイト



1 怪しい申し出


「いいバイトがあるんだけど、ついて来ないか?」
村上達郎と小西知香が路上に座って話していると、男が話しかけて来た。
達郎は座ったまま上目遣いに男を見た。
男はスーツ姿だったが、頭を見事に剃り上げてサングラスをかけているといういかにも怪しい雰囲気を醸し出していた。
「いいバイトって何だよ?」
「それはついてくれば分かる。時給は3000円出す」
「3000円も!」
バイトでそんなにもらえるなんて聞いたことがない。
達郎はバイトの中身を怪しむより時給に惹かれた。
「ただし、住み込みなんだが」
「住み込みって俺たち何すんだよ?」
「それはついて来てくれたら話す」
「じゃ、どこに住むんだ?」
「ある山の麓の家だ。100平方メートル以上はある」
「へぇ、良さそうじゃん。俺たち二人で家出でもすっかって喋ってたとこだし、二人で住むにはいい感じじゃん。で、俺だけ?それとも俺たち二人で行っていいの?」
「ああ、もちろんだ。君たち二人のルックスを見て君たちならってことで声をかけたんだから」
「やっぱし。俺っていい男だしな。そういうふうに言われちゃ断れねえな。それじゃっ、行こうぜ」
達郎は立ち上がった。
「えぇ、そんな話に乗って大丈夫なの?やばくない?」
「だって時給3000円もくれるって言ってるんだぜ。別に取って食おうって訳じゃないし、な?」
達郎は男の方を向いてきいた。
「ああ、もちろんだ。別にお前たちの命をもらおうってわけじゃない」
「そら見ろ、大丈夫じゃないか」
知香は納得はできなかったが、乗り気の達郎を前にして強いことは言えなかった。
達郎は積極的に、知香は渋々だったが、男の誘いにのることにした。

50メートルほど歩くと車が停まっていた。
「あれに乗るの?」
待っていた車はロールスロイスだった。
「ああ、そうだ。あれに乗ってもらう」
「すっげえじゃん。俺たちの未来って前途洋々、ってか?」
達郎は少し浮かれ気味だったが、知香の不安はさらに高まった。
しかし今さら断ったら達郎が切れるに決まっている。
仕方なく恐るおそる車に乗り込んだ。

連れて行かれたのは山の麓の大豪邸だった。
達郎と知香は本宅と思われるところには通されず、そこの離れに連れて行かれた。
離れと言っても男の最初の話の通り、十分な広さがある。
都市部の一戸建てよりもずっと広いスペースがあった。
「君たち二人にはこれからしばらくの間、この離れで生活してもらう」
「すっげえじゃん。ここ、本当に俺たち二人だけで使っていいのか?」
「ああ、そうだ。お前たち二人だけだ」
「で、バイトって、何するんだ?」
「詳しい説明は明日するが、ある物のモニターだ」
「モニター?モニターって何だよ?」
「それは明日説明する。とりあえず、まずはこれに着替えてくれ。下着はつけていてもいいが、あとはダメだ」
「何だよ、これは?」
「見れば分かるだろ?検査服だ。病院で検査のときに着るだろ?」
「検査なんかしたことねえから知らねえよ。バイトって何かの検査を受けるのか?」
「さっきも言ったようにそれは明日説明する。ちゃんとそれを着ておけよ。今着ている服はこの籠に入れておいてくれ。君たちが着たことを確認できれば夕食を準備する」
まだ何か言いたそうな達郎を無視して、男は出ていった。

「どうする?やっぱりちょっとやばそうな感じだけど」
男が出て行くとすぐに知香が聞いた。
「大丈夫だって。でも、こんなダサい服なんか着てられっか」
達郎は置いてある服を摘まむように持ちながら、言った。
「そうなんだけど、着ないと夕食食べれないかもよ」
「そっか。…しゃあない。飯のために着るか」
達郎と知香は検査服に着替えた。
「着替えたらどうすりゃいいんだ?」
「あそこに電話があるからあれで電話すればいいんじゃない?」
それはボタンも何もないただのインターフォンのようだった。
達郎が受話器を取ると、呼出音が鳴らないうちにさっきの男の声が聞こえてきた。
「着替えたようだな。今夕食の支度をしている。あと10分ほど待ってくれ」
達郎が何も言わないうちに男はそう言ってすぐに電話が切られた。
達郎には二人の行動がどこからか監視されているように思えた。

男がやってきて、同時に食事が運ばれてきた。
食事を持ってきてくれた者は戻るときに達郎たちの着ていた服を持っていった。
「俺たちの服をどうするつもりなんだ?」
「クリーニングしとかなくていいのか?」
「ああ、そうか。洗ってくれるのか。サンキュー」
達郎はテーブルの上の料理を見た。
二人が食べたこともない高価そうな料理だ。
「これからずっとこんな料理が続くのか?」
「今日は特別だ。君たち二人が我々と契約してくれたお礼も兼ねている」
男は無愛想に言った。
テーブルには何組ものナイフとフォークが置かれていた。
達郎と知香はナイフとフォークで食べることに慣れていない。
「なあ、箸はないのかよ?」
「箸の方がいいのか?」
「何てったって日本人だからな」
「じゃああたしも」
達郎と知香は箸で準備された料理を食べ散らかした。
まさに「散らかした」という状態だった。
「はあ、食った、食った」
「美味しかったね」
「ほんっと。こんなうまいの食ったの初めて」
食べ散らかした食器類を片付けられるのを横目で見ながら、達郎と知香はソファに移動してテレビをつけた。
テレビの画面には環境映像とも呼ぶべき、どこかの国の風景だけがクラシック音楽をBGMにして映っていた。
チャンネルを変えても同じ映像が出るだけだった。
「おい、ここってテレビは映んねえのかよ?」
「お前たちにテレビでくつろいでもらうためにここに連れて来たんじゃない。それにそれはテレビではない。テレビ電話として使うためのものだ」
「テレビ電話?」
「おそらく感づいていると思うが、お前たちの様子は我々がモニターしている。我々に何かを伝えたければ普通に話せば誰かが聞いている。私と話したければさっきのようにインターホンで呼び出してくれればいい」
「はい、はい。分かりましたよ」
「他に何か聞きたいことはあるか?明日からバイトを開始するから、今日は早めに休んでいてくれ」
食事の後片付けもいつの間にか終わっており、男が出て行った。
また達郎と知香の二人だけになった。

「ここって携帯が圏外だぁ」
知香が叫んだ。
「えっ、携帯も使えねえのか。つまんねえなぁ」
「何か最悪のところに来たんじゃない?」
「こうなったらやることはアレしかないな」
「でもあいつらカメラであたしたちのこと見てるんでしょ?」
「その方が燃えるじゃん」
「達郎って変態なんだぁ」
達郎と知香はじゃれ合うようにして交わった。
このことがどういう事態を招くかも知らずに。


2 罰


朝になった。
都会の喧騒からは考えられない爽やかな朝だった。
鳥のさえずりが二人を眠りから現実に戻した。
「う〜ん、今何時だろ?」
「……まだ7時くらいじゃない?」
「もうちょっと寝てよか」
「…だね」
二人は再び惰眠を続けようとした。
すると男がノックもなしに入ってきて、いきなり怒鳴った。
「お前たち、昨夜セックスしただろ?」
「な、何だよ、急に。そんなこと言ったって他にすることないじゃん。お前らも俺たちのエッチをおかずにして、マスでもかいてたんだろ?」
「お前らが来て早々セックスなんてするから計画が台無しだ。セックスなんかもう二度とできなくしてやる」
男は達郎の顔面にパンチを食らわせた。
達郎がふらついたところを、後ろ手に捻じ上げられた。
「じっとしてろよ。変なところを刺すと死んじまうかもしれないからな」
男は隠し持っていた注射を取り出した。
「何すんだよ?」
「別に殺すわけじゃないから安心しな」
達郎の腕に注射針を刺し、中の液体を達郎の身体に注入した。
「何を注射したんだ?」
「だからさっき言っただろ?二度とセックスができなくなる薬さ」
「そっ、そんな」
「信じられないんだったら試してみたらどうだ?」
男は達郎を突き倒して、部屋から出ていった。
「いててて」
達郎は突き倒された拍子に腰を打った。
「達郎、大丈夫?」
「ああとりあえずは大丈夫みたいだ」
「注射の方はどうなの?」
「さあ?どうせハッタリだろうけど、試してみよう」
達郎は知香を引き寄せ、キスをした。
(!?)
しかし、達郎の息子が一向に反応しないのだ。
知香の乳房に触れても同じだった。
「くそっ」
「どうしちゃったの?」
「全然ダメだ」
「大きくなんないの?」
「ああ」
「二人で謝って、元に戻してもらおうよ」
「しゃあないな。納得できねえけど、謝るしかないか」
知香の言葉に達郎は渋々同意した。
「おい、悪かった。元に戻してくれよ」
達郎は部屋のどこかに設置してあるであろうカメラに向かって言った。

風景が映っていた画面に急に男が映った。
「そんな謝り方で反省してると言えるのか?」
「悪かった。本当に悪かった」
「そんなに反省してるのならちゃんとセックスできるようにしてやらないこともないが」
「反省してる、してる。だから元に戻してくれよ」
「テレビの隣の引き出しにピンクとブルーの薬がある。それを2週間ほど飲めばセックスできるようになるだろう」
「2週間もかかるのかよ?」
「嫌なら飲まなくてもいい」
「いやいや、飲みます、飲みます」
達郎はその言葉を信じて薬を飲んだ。


3 変身


3日ほどすると肌が敏感になってきた。
少し触られるだけでも感じるのだ。
そうするとあそこも少しは固くなる。
「やったぜ、やっと効いてきたみたいだ」
達郎は久しぶりに知香を抱こうとした。
「達郎、止めた方がいいんじゃない?どうせ見られてるんだから。今後あいつらを怒らせたら、また何されるか分かんないよ」
「それもそうだな。確かに我慢した方がよさそうだ」
一瞬快方に向かったように思えたことで達郎は必ず治ると信じて飲み続けていた。
さらに1週間すると達郎のペニスが小学生のそれのようになっていた。

「もしかしたら若返りの薬でも飲まされてるんじゃない?」
「でも別に身長が低くなってるとかはないぞ」
達郎の顔は少し強張っているようにみえた。
「でも肌の艶なんて良くなってるじゃない。ちょっとやばいんじゃないの?その薬って」
「そうだな。もう飲むのはやめとこうか」
達郎は知香の言っていることが当たっているような気がしたので、与えられた薬を飲むのをやめた。

しかし次の日にもペニスの縮小は止まらなかった。
「何でだよ、薬なんか飲んでないのに」
「もしかしたら性転換の薬でも飲まされてるんじゃないの?」
「えっ、まさか…」
達郎は一瞬言葉を失った。
しかし気を取り直して叫んだ。
「おい、お前ら、俺の身体をどうしようってんだよ?」
1分もしないうちに男が入ってきた。
「2週間もかかって、やっと気がついたか、随分勘の悪い奴らだな。しかし、そこまで進めば最後の仕上げをさせてもらおう」
男は達郎の顔に向けてスプレーを噴射した。
達郎は何の抵抗もできずにその場に倒れた。
「きゃあ、何するの?」
知香は叫んだ。
「さっきお前の言った通りだ。これからこの男を女に変える仕上げをさせてもらう」
達郎はストレッチャーに乗せられて、離れの外に搬送された。
一人残された知香は呆然としていた。
しばらくするとモニターが点いた。
そこにはベッドに横たわった達郎が映し出された。
眠らされ点滴を打たれていた。
首からは下は白い薄いシーツのようなものが被せられていた。
知香はモニターで達郎の身体の変化を見ている。
首から下はシーツのようなものが邪魔をして具体的な変化を見ることはできない。
「お前の恋人に今点滴で注入しているものが性転換の薬だ」
モニターから男の機械的な声が流れた。
「これから1ヶ月ほどかけてこいつを女にする」
「1ヶ月も?」
「急激な変化は身体に悪影響を及ぼすため、これ以上のスピードは現在のところ難しい。もっと薬を注入して恋人の生命がどうなってもいいんならもう少しのスピードアップはしてみてもいいが」
「あまり変なことはしないで」
「では当初の予定通りで進めさせてもらう」
「あたしは?あたしはどうなるの?」
「お前のことはこいつが無事に女になってからの話だ。とりあえず恋人が女になってこの部屋に戻ってきたときの準備でもしておいてくれ」

モニターを見ている限り、最初の2週間ほどは身体の変化がほとんど分からなかった。
しかし、実際は大きな変化が起きていた。
性器の変化が起きていたのだ。
達郎の睾丸・ペニスは跡形もなくなくなり、女性器が形成された。
同時に身体の中には卵巣・子宮・膣など男にはないものが作られていた。
それが完了するくらいから、モニターで見ていても分かる変化が発生した。
乳房が膨らみ始めた。
薄いシーツがかぶせられていても、乳首が大きくなっているのが分かった。
乳房の成長が終わると再び変化が見えづらくなった。
実際は皮下脂肪がついて身体全体が丸みをおびてきて、骨盤が大きくなっていた。
それに伴い尻も大きくなり、身体全体が丸く女性らしい曲線になった。

達郎が運ばれて1ヶ月超してから、出て行ったときと同じようにストレッチャーに乗せられて達郎が戻ってきた。
そしてストレッチャーからベッドに移された。
ベッドに寝かされた達郎の意識はまだ戻ってなかった。
「おそらく明日までには意識が戻るはずだ。1ヶ月間、ベッドで寝かされたままだったから身体のあらゆる筋肉が衰えているはずだ。歩くのも難しいだろう。しっかりリハビリさせてやってくれ。もちろん女性としての教育も頼むぜ」
「あたしは達郎の教育係として呼ばれたってわけ?」
男は知香の言葉を無視して出て行った。

数時間後、達郎の意識は戻った。
戻ったと言ってもまだボゥーッとした感じだ。
瞼は開いたが、何の動きもない。
「達郎、大丈夫?」
知香が覗き込むようにして言った。
「………」
達郎は何の言葉も発しなかった。
「達郎、ねえ、大丈夫?」
「俺、どうしてたんだ?」
達郎の声はもはや男の声には聞こえなかった。
確かに女性の声になっていた。
しかし、達郎本人はまだ気がついていないようだった。
「達郎、何も覚えてないの?」
「男が入ってきて何か薬を吹きかけられたところまでは覚えてるんけど、その後はさっぱり」
「……ねっ、達郎、落ち着いて聞いてね。達郎は性転換の薬の実験台にされたの?」
「性転換?……なっ!」
達郎は起き上がろうとした。しかし身体が思い通りに動かなかった。
「知香、俺を起こしてもらえないか?……えっ?」
達郎はこのときになって初めて自分の声がこれまでと違っていることに気がついた。
「俺の声、……変わってる」
達郎は知香に助けられて上半身を起こした。
身体にかけてあった薄い布が床に落ちた。
達郎は全裸だった。
否応なく胸部に新たにできた優しい曲線が顕わになった。
「えっ?」
達郎はあまりのことに言葉が出なかった。
「綺麗なおっぱいね」
知香は達郎の胸をしげしげと見て言った。
「そんなことを言ってる場合じゃないだろう」
二人は同時に達郎の股間に目が行った。
予想通りそこは女性の形だった。
「本当に女の子になっちゃったんだね」
「何でこんなことに…」
達郎は何も言えずに呆然としていた。
知香もそれに従うようにじっとしていた。

「…しょんべん……」
沈黙を破ったのは達郎のそんな一言だった。
「しょんべんしたい…」
「おトイレまで一緒に行こうか?」
「大丈夫。一人で行ける」
達郎がベッドから立ち上がろうとした。
しかし一人では立ち上がれなかった。
「ずっと寝ていたから筋肉が弱ってるんだって。だから最初のうちはあたしが補助してあげなくちゃいけないんだって」
「ずっと寝てた…?ずっとってどれくらい?」
「一ヶ月と少し」
「一ヶ月も?そんなに」
「だから、ねっ」
知香は達郎の腕を肩に回して、立ち上がるのを助けてやった。
「ゆっくり歩くから、頑張ってね」
「くそっ、どうしてこんなことに」
「だって達郎が…」
知香はあまり達郎を刺激するのはよくないと思い、「お金につられてこんなことに来るから」と言葉を飲み込んだ。
「俺が?俺がどうしたってんだよ?」
達郎はヒステリックに叫んだ。
知香はこれも女性になったせいなのかなと冷静に考えていた。
時間をかけ達郎は何とかトイレの便座に座った。
「しょんべん座ってしないといけないのかよ」
「できそう?大丈夫?」
達郎は股間に意識をやった。小便がしたくてたまらないのだが、なかなかうまく出ない。
「……でないよ…」
達郎は涙を流していた。
「大丈夫。きっとできるよ」
おしっこくらいで大袈裟ねと思いながらも知香は達郎を励ました。
やがてチョロチョロと出たかと思うと、一気に滝のように小便が出た。
小便をし終わっても達郎はそのままの状態で座っていた。
「どう?全部出た?」
「うん、たぶん」
「たぶんって?」
「正直なところよく分かんない」
「慣れてないからしょうがないよね。じゃ、ウォッシュレットのそこの『ビデ』と書いているところを押して」
達郎は言われるまま『ビデ』を押した。
達郎の股間に勢いよく水が噴出した。
「あっ…」
達郎は変な感覚を感じた。
「トイレの水でいちいち感じないの。じゃあ、水を止めて、紙で拭いて」
「俺が?」
「そう」
達郎は左側にあるトイレットペーパーを乱暴に取ると、股間を拭こうとした。
「デリケートなところだから乱暴にしちゃだめよ」
「わかってるよ」
達郎はゆっくりと紙で水を拭き取った。
「それじゃ戻りましょう」
達郎は知香の肩を借りてベッドに戻った。
ベッドの脇には例の検査服が置いてあった。達郎はそれを着た。
「さっきも言ったけど、一ヶ月くらいずっと寝てたから筋肉が弱ってるの。だから少しずつ歩こうね」
達郎は知香の助けを借りてリハビリに取り組んだ。
1週間ほどで普通の生活ができるまでに回復した。

達郎が動けるようになると、あの男がやってきた。
「お前ら、よくも俺を女にしやがって。元に戻せ」
「せっかく美人になったんだ。もっとお淑やかにした方が可愛いぞ」
「うるせえ。元に戻せったら戻せ」
男はヒステリックに喚く達郎を無視して、知香の方を見た。
「男を女に変えたんだ。次にやることは想像つくだろう」
「えっ、やっぱり、あたしも?」
知香は全く抵抗せず、男にスプレーで眠らされた。
「知香をどうする気だ?」
「お前を女に変えたんだ。次は男に変えないとお前たちレズになってしまうだろ?」
「そんな。やめろ、やめてくれ」
達郎は何とか反抗してみようとしたが、難なく振りほどかれた。
知香はストレッチャーに乗せられて部屋の外に出された。
モニターに全裸にされた知香が横たわって、点滴が打たれている。
達郎は何もできず、毎日モニターで知香の姿を見ていた。

達郎の時と同じくらい1ヶ月ほどすると知香も離れの部屋に戻された。
知香はすぐに気がついた。
「おい、大丈夫か?」
知香の前には髪が肩につくくらいまで伸びた達郎がいた。
「う…うん……何とか大丈夫みたい」
知香は手で支えながらも一人で立ち上がることができた。
「へぇ〜、男の人の身体ってこんななんだ」
知香は壁にもたれながら自分の股間にできた新たな性器を手で遊んだ。
「何か意外と大丈夫っぽいよ」
知香は一人で動きまわり、その日のうちには普通に動き回るようになれた。


4 身長操作


「ねえ、身長は変わんないの?あたしの身長、達郎より小さいままじゃない」
知香はどこかにあるであろうマイクに向かって言った。
達郎と知香の性別は変わったが、確かに身長は元のままだったのだ。
モニターに男が映った。
「身長を伸ばしたいのか?」
「そりゃそうよ。男になったあたしの方が低いなんて格好悪いもん」
「どれくらいならいいんだ」
「そうね……180センチくらいかな?あと25センチくらい欲しいな。性別を変えれるくらいだからそれくらい簡単よね?」
「ああ、身長くらいなら変えることができる。女の方はいいのか?」
「女?ああそっか。達郎のことね。そうね…、達郎は少し小さくなった方が可愛いかも。今は168センチだっけ?10センチくらい低くしてもらいなよ」
知香は達郎に向かって言った。
「やだよ、そんなの」
「いいじゃん、その方が絶対に可愛いって」
知香は妙にはしゃいでいた。
「どうするんだ?」
男は二人の回答を待った。
「達郎は10センチ小さくして」
知香は達郎の気持ちを無視して言った。
「分かった。後で薬を届ける」
モニターから男が消えた。

食事とともにメモとともに錠剤が置かれていた。
「10日くらい飲まないといけないんだって」
「俺は飲まないからな」
達郎は頑として拒否した。
「そんなこと言わないで、ねっ、お願い」
知香は両手を合わせて上目遣いに達郎に頼んだ。
「男の姿でそんなことしても可愛くないって」
「もう達郎ったら可愛くないんだから。でも、まっ、いっか。あたしが達郎より大きくなればバランスは取れるもんね」

3日経った。
達郎と知香の身長がほとんど同じになっていた。
「明日になれば達郎より高くなるのね」
「うっさいなぁ」
達郎は不機嫌そうに言った。

10日経った。知香の身長は178センチになっていた。
「あれから今日で10日目かぁ。あたしも随分成長したよね?」
「何言ってんだよ、変な薬のせいじゃないか」
達郎は相変わらず不機嫌だった。
「でもさ、達郎も少し小さくなってない?」
「お前がでかくなったんでそう感じるだけだよ」
「そうかなぁ。なんか可愛くなった気がするんだけど。それにスタイルもよくなってるよ。お尻だって前より大きくなってるし、ウエストのくびれもしっかりあるし」
知香は嬉しそうに達郎を見て言った。
「うっさいなぁ、そんなわけないだろ。俺は薬なんか飲んでないんだし」
「だってさ、ちょっと立ってみて」
達郎は知香に言われるまま知香と正対するように立ち上がった。知香は達郎を抱き寄せた。
「ほらっ、達郎の頭ってあたしの口の辺りだよ。あたしが今180センチくらいだから168のままってことはないでしょ?」


5 初体験


達郎はそんな言葉より腹部に当たる知香のペニスが変形しているのが気になった。
「そんなことより、お前、大きくなってるぞ、下の方も」
「だって達郎の髪の毛ってすごく良い匂いがするんだもん。男の人ってこういう香りで興奮するのね」
達郎は身の危険を感じ、知香から離れようとした。しかし、知香は達郎を離さなかった。
「達郎ったらどうして逃げようとするの?あたしたちは恋人同士じゃない。立場は変わったけど恋人だってことに変わりないでしょ?」
「そんなこと言ったって俺は男に抱きしめられる趣味はねえ」
「男って思うからいけないのよ。あたしはあたしなんだから、あたしに抱きしめられているって思えばいいじゃない」
抱き合ったまま二人はベッドに倒れた。
「おい、放せったら」
「達郎だったら本当に嫌なら股間を蹴り上げてでも抵抗するでしょ?」
図星だった。達郎としても大いに興味はあったのだ。達郎は観念した。
「分かったよ。その代わり無茶しないでくれよな」
「当然じゃない。愛する達郎のためだもん」
知香は達郎の唇をふさぎ、右手で乳房を揉みあげるようにした。
「…ん…んん……」
達郎は唇をふさがれて声を出せないでいたが、感じているようだ。
「どう?気持ちいい?」
「…ん……気持ち…いい……」
知香の言葉に達郎は素直に答えた。
「ふふふ、達郎って素直ね。女の子は素直が一番よ」
二人は検査服を脱いで、下着だけになった。
ピンクで上下を揃えていた。
「達郎ったら可愛い下着つけてるんだ」
「しゃあないだろ?用意されたのがこんなのだったんだから」
達郎は顔を赤らめて視線を外した。
「ふふっ、達郎って可愛いね」
「…うるさい」
「せっかくこんなに可愛くなったんだからもっと女の子らしくしないと」
そう言いながら知香は達郎のブラジャーに手を滑り込ませた。
「…はんっ……」
知香の指が達郎の乳首に当たったときに達郎の身体に快感が走った。
「ちゃんと女の子の反応するじゃない」
知香は身体の至るところに愛撫した。
達郎は知香の指先の愛撫に翻弄されていた。
下着を全て取られたことも気がつかなかった。
「もうこんなに濡れちゃって。そろそろいいわね?」
知香が自分の脚の間に身体を入れてきて、達郎は我に返った。
「やっぱりやめやめやめ」
「何言ってるの?男でしょ?」
「やだやだやだ。俺は今女だ」
「もうそんな駄々っ子みたいなこと言ってないで」
「そんなこと言っても……恐いんだぞ」
「分かってるわよ、あたしだってそういうときがあったんだから。女の子は好きな人のために我慢するものなの」
「誰が女の子だ?」
「達郎は女の子じゃないの?こんなところがビショビショになってるのに?」
知香の手が達郎の両脚を大きく広げた。
そして知香は自分のペニスを右手に持ち、達郎の膣口にあてようとした。
「あっ……あれっ?どこなの?」
「お前は女なんだからそれくらい分かるだろ?」
「そんなこと言ったって入れたことないんだもん、仕方ないでしょ」
知香は達郎の股間をまさぐった。
「ここかな?」
そう呟くと達郎の返事も待たずに一気に挿入してきた。

達郎の耳にはメリメリメリという音が聞こえていた。
「いっ、痛い!」
「あっ、ごめん。ちょっと急すぎたかな?」
「ちょっとじゃねえぜ。かなり痛かったぞ。今も何か変な感じだし、さ」
「股間に心臓がある感じでしょ?鼓動みたいなのを感じない?」
「そう言われるとそんな感じかな?なんかドキドキしてるかも。でも全然気持ちは良くないぞ」
「まだ初めてだからしょうがないよ。それじゃ動くね」
「ちょっ……ちょっと待て…」
「ゆっくり動くから」
知香はゆっくりと腰を動かし出した。
「いっ……い…たい……」
達郎は痛みを感じながらも別の不思議な感覚を感じていた。
確かに痛みはあるのだが、身体の芯が熱くなるような感じがあるのだ。
「これくらい?」
知香が動かすスピードをさらに落とした。
痛みが薄れ、身体の中から変な感覚が湧きあがってきた。
「ぁ…ぁ…何だ…この感じ……?…すっ……すごい……変な…感じ……だ……」
「達郎、感じる?」
「…ん……ん……何か…変…だ…ぞ……」
「達郎の中って気持ちいいわよ。すごく締め付けてくるよ」
知香はゆっくりと何度も何度も繰り返して抽送した。
「あ……あ……あ……何か…変……」
達郎は初めて経験する女としての感覚に翻弄されていた。
「そろそろあたしも出していいかな?」
知香は動くスピードを速めた。
「ちょっ……まだ……そんなに……うっ…うっ…うっ…うっ…うっ…」
達郎は意味不明なことをいいかけたが、言葉にならなかった。
『くちゅくちゅくちゅくちゅくちゅ』
達郎の股間から出る淫らな音が部屋中に響いた。
「達郎、行くよ」
知香はそう言って、三度達郎の股間に強く打ち付けた。
「うっ」
知香は短く呻いた。
達郎は自分の中に知香のものが出されたことを感じた。
知香は力が抜けたかのように達郎の上に覆いかぶさった。
達郎は少しの間気を失っていたようだ。
気持ちがよかったのかどうかは分からないが、とにかく未知の感覚にどう対応すればいいのかが分からなかったのだ。
少し経ってから身体に覆いかぶさる知香に気がついた。
「おい、重いって」
「…あぁ、ごめんね」
知香は達郎の横に寝転がった。
「男の人のフィニッシュってすごいね」
「…女の感じ方の方がすごいって絶対」
「まだボ〜ッとしてるでしょ?」
「ああ、まだ入っている感じが残ってる」
「男の人の感じの方がメリハリがあってあたしは好きかも」
「そんなもんかな?お互い初めて経験する感覚だしな」
二人は何も言わずに余韻を感じていた。
「そろそろ服着ようっか」
「そうだな、またあいつらが来るかもしれないしな」
達郎は身体を起こして自分の下半身を見た。
シーツは達郎の破瓜の血と知香の精液で汚れていた。
達郎はティシュで股間を拭いた。
拭いたティシュを見ると、ティシュにも血と精液がついていた。
立ち上がると自分の中から知香が自分の中に出した精液が流れ出てくるのを感じた。
「お前、いっぱい出したんだな」
「さあ?どれくらい出したか、分かんない」
「気持ち悪いから、シャワー浴びてくる」
達郎はひとり浴室に入った。
シャワーで股間を念入りに洗った。
知香の精液がどんどん逆送してきた。
「知香のやつ、こんなに出しやがって。妊娠でもしたらどうすんだよ」
達郎はふと自分の漏らした言葉に驚いた。
(妊娠?俺が妊娠するのか?)
達郎は言い知れぬ恐怖を感じながらお腹の辺りを押さえた。


6 報酬


「お楽しみのところ申し訳ないが、無事にバイト最終の儀式もやってもらったようだから、明日でバイトは終わりだ。これがバイト料だ」
達郎が浴室から全裸のままで出てくるのと同時に、男が入ってきた。
「バイトって何だよ?」
達郎は掛け布団で胸を隠しながら男に聞いた。
「お前たちが実験台になってくれた性転換の新薬のモニターだ」
「なっ、何だって?」
「お前たちは意識していなかっただろうが、この部屋にはあらゆるところに最新の検査機が仕込まれている。つまり、ここで生活するということはお前たちの身体の変化を全て記録できるということだ。ということで、お前たちの身体の変化はもちろん血液検査・尿検査・便検査も行って、ありとあらゆるデータを残させてもらった」
「じゃ、セックスした罰ということじゃなくって、最初から俺を女にするつもりで連れてきたのか?」
「そうだ」
「そんな…分かっていれば来なかったのに…」
「後悔先に立たず、ね。仕方ないじゃない、ついて行くって決めたのは達郎なんだし」
ショックを受けている達郎に対して、知香の方は全くショックがないように見えた。
「じゃ、モニターのバイト料はいただけるんでしょうね?」
知香がそう言うと男は知香に一枚の紙を手渡した。
小切手だった。
渡された小切手を見ると『¥6,624,000…ー』と書かれていた。
「えぇ、600万円も!?」
「もちろん一人ずつだ。時給3000円だから3ヶ月でそれだけになる。何なら確かめてみるか?」
「別に疑っているわけじゃないから、素直にいただくわ」
「ただし」
男はショックを受けている達郎を見ながら言葉を続けた。
「元に戻すこともできる。元に戻して欲しければ報酬からその処置料をもらうことになる。それでもいいのなら元に戻すことも可能だ。言うまでもなく、お前たちの取り分はほとんどなくなるが」
「もちろん戻してくれ。このままずっと女のままなんて嫌だよ」
男のその言葉にすぐに達郎は反応した。
「あたしは別に男のままでもいいわよ」
達郎は驚いて知香の顔を見た。
「だってわたしっていい男じゃん」
知香は当然のように言い放った。
「もちろん、これからもそのままでいてくれるのならそれなりの報酬を準備している。まず都心のマンションをお前らにやる。毎月1日だけデータを取ることに協力してくれれば1人に毎月20万出す。もし今後達郎くんが妊娠することがあれば、ボーナスとして1千万出す。その代わり、妊婦のデータを取らせてもらう頻度を週1回にさせてもらう。無事出産すればさらにボーナスとして1千万出そう。どうだ?」
男の出した条件は達郎にとっても十分魅力的に感じた。
「俺がこのままいれば、マンションとこれからの収入が約束されるってわけか」
「そうだ。そのままいてくれるか?」
(都心のマンションと小遣いが月に20万か…。悪くねえな。俺が妊娠なんて絶対嫌だが、万が一そんなことになったとしても1千万ももらえるのか。子供か…やっぱり嫌だな)
達郎が頭の中でグジャグジャ考えていたが、それを遮ったのは知香だった。
「達郎、もうこのままいるしかないわね」
知香はもうこのままでいることに決めているようだった。
「分かったよ。このままいりゃいいんだろ?その代わり今の話は絶対だからな」
達郎も腹を決めた。
「我々は最初の約束も守ったじゃないか、嘘は言わない」
「そりゃそうだけど、もうちょっとちゃんと最初から説明してくれれば良かったのに」
「説明したらこのバイトを引き受けたか?」
「そう言われると、確かにそうだな。断った可能性大だな」
「そうだろう?だから我々も一芝居うったんだ」
「それじゃそのままでいいんだな」
「ああ、もうこのままでいいよ」
達郎のその言葉を聞くと、男は達郎が持っている小切手を取り上げ、破り捨てた。
「何をするんだ!」
達郎は叫んだ。
男は達郎を見ながらニヤニヤと笑っていた。
「何を焦っているんだ?我々の新たな契約が成立したんだ。ボーナスとして切りのいい数字の物と交換してやるだけだ」
達郎の目の前に2通の銀行通帳が出てきた。
達郎の名義のものと知香の名義のものだった。
中を開けて見ると『お預かり 10,000,000』と書かれていた。
もうひとつの通帳を見ても同じだった。
「2千万円も…」
「今後のお金もその口座に振り込んでいく。いいな?」
「ああ」
「その代わり、このことは他言無用だぞ」
「ああ、分かった」
達郎はボゥーッとした状態で生返事を繰り返すだけだった。


7 戸籍交換


「それにしても俺たちにこんなに金をくれてお前たち大丈夫なのか?」
「もちろんこの薬が成功すれば莫大な利益が手に入る」
「こんな薬売れるのかよ?」
「お前が思っている以上に異性になりたがっている人間は多いんだ」
「そんなもんなんかね?」
「一点断っておくが、お前たちのこのモニター期間の映像やら記録は俺たちが利用させてもらう」
「ああ、そうだな。俺たちはもらえる分だけもらっておけばいいんだしな」
「それじゃお前たちのマンションに案内しよう。その前にひとつ提案なんだが」
「何だ?」
「その姿でお前が達郎くん、君が知香さん、というのもおかしいから、どうだろう?名前を取り替えてみては?」
「名前を?」
「取り替える?」
「もちろん名前はひとつの象徴で、実際は戸籍そのものを取り替えることになる。つまり達郎くんは知香さんの戸籍をもらうことになるわけだ。戸籍も女になるから結婚も可能だ。知香さんも達郎くんの戸籍をもらうので、男性として好きなところで働くことができる」
「それ、いいじゃない。ねっ、達郎もいいよね?」
「ここまできて反対してもしゃあないだろ、いいよ、それで」
「こちらで転入届と婚姻届を準備しておいた。後でサインしてもらうから区役所に提出してくれ」
「婚姻届?」
聞き返したのは達郎だった。
「そうだ、婚姻届だ。将来、子供が生まれるかもしれないんだから、その方が何かと好都合だろう。お前の場合は苗字もそのままになるんだしな」
「そっか。ま、いいや、それで。…そうか、俺が結婚するのか…。村上知香か、へへへ」
達郎はブツブツ言っていたが、そんな達郎を男は無視した。
「服は隣の部屋に用意しておいた」
達郎と知香は隣の部屋に向かった。隣の部屋に入るとエステティシャンのような女性が2人待っていた。
「それでは知香様はこちらへいらしてください」
知香が女性について行こうとすると制止された。
「達郎さまはこちらでお着替えください。知香さまはこちらへどうぞ」
「えっ、俺のこと?」
達郎は自分のことを指差した。
「はい、そうです。あなた様は先ほどから知香さまになられたのです。しっかりと自覚していただかないと困ります」
「そうだったな、分かった」
「これからはあなたは知香さまとして生きて行かれるわけですから、言葉遣いも直された方がよろしいかと存じます」
「ああ、分かった。ちょっとずつ直していくって」
「よろしくお願いします。それではその下着に着替えてください」
机の上にはシルクの下着が置かれていた。
達郎は新しい下着に着替えると、続いて出されたワンピースに袖を通した。
「それではこちらにお座りになってください」
達郎が美容室にあるような椅子に座ると背もたれが倒され、髪を洗われた。
「髪にカラーリングをしまして、少しウェーブをかけさせていただきます」
(どんなふうにされるんだろう?)
達郎は若干の不安を感じながらも、それなりのプロのようなスタッフを信じることにして言われるままにされていた。
髪のセットが終わると化粧を施された。
化粧品の臭いに自分がおかまになったような気になっていた。
「はい、終わりました。大変美しくなられました」
達郎は鏡の前に連れて行かれた。
できあがった姿を見て当の本人が驚いた。
「これが俺?」
鏡に映っていたのは清楚なお嬢様といった感じの女性だった。
「俺…じゃおかしいな、確かに。わたしでいいのかな?」
さすがにこれだけ美しい女性の口から『俺』という言葉は不似合いだった。
「これが"わたし"?」
達郎は鏡に映った自分をじっと見て小さな声で言った。
自分のことを『わたし』と言った恥ずかしさで顔が真っ赤になるのが分かった。
「そうですね、自分のことは"わたし"と呼ばれた方がよろしいかと」
達郎のそんな様子に気づかないように傍に立っている男は言った。

達郎は元の部屋に戻った。
そこにはすでにビジネススーツを着た知香が待っていた。
知香は達郎の姿を見て目を見張った。
「おかしくない…か?」
「全然、達郎…じゃなかった。知香ってすっごく可愛い」
あまりにマジマジと知香がみつめるため、達郎は恥ずかしくなって下を向いてしまった。
「恥ずかしいだろ…」
それでも達郎は何となく嬉しそうに見えた。
「それじゃ婚姻届けを出してからマンションに案内しよう」
男について二人は車に乗り込んだ。

半年前にこの大豪邸に来たときは、達郎が男で、知香が女だった。
それが今達郎が女で、知香が男になって出て行く。
そう思うと不思議な気がする二人だった。

二人は芝公園の近くの区役所に連れて行かれ、転入届と婚姻届を提出させられた。
そして再び車に乗せられて連れて行かれたのはお台場のマンションだった。
最上階ではなかったが、かなり上の階だった。
「それじゃ早速だが、明日午後1時にこの病院に検査に来てくれ」
渡された紙には大学病院が書かれていた。
「ここ?」
「受付でお前たちの名前を言えば、我々の関係者が迎えにいくことになっている。安心して来てくれればいい。それだけで毎月のお金は振り込んでやる」
それだけを言って男は去っていった。

達郎と知香は二人きりになった。
2人は部屋の灯りを落としてカーテンを開け放して東京湾を見ていた。
窓から見える東京湾の夜景は美しかった。
達郎は柄にもなくロマンチックな気分になった。
この世界には自分たち二人だけしかいない。
そんな気分になっていた。

「なあセックスしようぜ」
達郎はどうしようもなく抱いてほしくなった。
「もう。もうちょっとロマンチックな言い方できないの?」
知香は苦笑い気味に言った。
「どうせやることは一緒だろ?別にいいじゃん」
達郎は知香に身体を預けるようにもたれかかった。
「もう仕方ないわね。達郎にムードを求める方が間違ってるのかも」
知香は達郎の膝の後ろに左腕をあて、さっと抱き上げ、いわゆるお姫様抱っこした。
「すごいよね、あたしが達郎を軽々と抱き上げることができるなんて」
知香はニコニコ笑って言った。
「恥ずかしいから下ろせよ」
達郎は本当に恥ずかしそうに視線を逸らした。
「何も恥ずかしがることはないじゃない」
知香は達郎を大切な物を置くようにベッドに置いた。
「なあ、カーテンくらいはしよう」
達郎はカーテンが完全に開いた窓を見て言った。
「どうせ誰も見てないわよ」
「でも何か恥ずかしいし」
「達郎ったら可愛いわね」
知香は達郎に覆い被さってキスをした。
達郎は知香の愛撫を全身で感じた。
達郎にとって二度目の女性としての経験だったが、知香の愛撫が大好きだった。
知香に身を任せていると、心の底から安心できるような気がしていた。
気がつかないうちに全裸にされていた。
「達郎、入れるね」
知香のペニスが達郎の中に入ってきた。
知香はゆっくりと抽送を繰り返した。
初めは痛みだけだったが、徐々に身体の中心から湧き上がってくる快感に達郎は声を抑えることができなかった。
「達郎、どう?痛くない?」
「…んんん…んん……すごく…いい…」
知香は達郎の反応を見ながらゆっくりと腰を動かし続けた。
達郎の声がだんだん大きくなってきた。
「はあぁぁ…」
達郎は仰け反るようにして数回痙攣した。
そして全身から力が抜けたようだった。
「達郎、いっちゃったみたいね。でもあたしはまだまだよ」
知香は一旦動きを止めた。
「それじゃ行くよ」
知香はさっきとは違い激しく腰を振った。
「知香、いっ……痛い……」
「すぐに気持ちよくなるから我慢して」
「そんなこと…言ったって……」
達郎の意識が飛んだ。
「うっ…うぅぅぅ……」
知香が唸った。
達郎は熱い物が自分の中に放たれたことを薄れゆく意識の中で感じていた。

次の日、達郎と知香は指定された大学病院に行った。
二人は診察室のあるところではなく、研究棟のようなところへ通された。
まず知香が別室に連れていかれた。
「それでは女性の方はこちらへお願いします」
達郎は心電図を撮ったり、血を採ったり、触診をされたりして、最後に見たことのない台に乗せられた。
「これから女性器の状態を診せてもらいますね」
看護婦さんが「これは産婦人科で使う普通の検診台ですから安心してね」と言いながら、足をベルトで固定した。達郎の女性器が見やすいような体勢になった。
医者らしき男はクスコとかいう器具で女性器の状態を診ていた。
「別に異状はないですね。月経はきましたか?」
「えっ、……いいえ」
「そろそろだと思いますので、準備はしておいてくださいね」
(俺が生理になるのかよ?)
結局検査が終わったのは夕方近くだった。
「それでは1ヵ月後の○月×日の午後1時ににまた来てくださいね」
次の日には律儀に20万円が振り込まれていた。


8 裏切り

※筆者注) 以降のページにおいては、知香となった達郎のことは『知香(達郎)』、達郎となった知香のことは『達郎(知香)』と表記することとする。

達郎(知香)は手に入れたお金を原資にビジネスを始めた。
もともとペットが好きだった達郎(知香)が目に付けたのはペットのお見合いサイトだった。
最初のころはあまり反響がなかったが、達郎(知香)の営業努力が実を結び、ある雑誌に取り上げられた。
それからは確実に会員数が増えていき、ビジネスとしても成功しつつあった。
そのため、達郎(知香)は精力的にいろんなところに飛び回っていた。
いろんな人間と会わなければいけないので、意識して男として振る舞っているうちに、達郎(知香)はすっかり男らしくなっていた。

しかし、知香(達郎)は全く外に出ることもなく、一日中部屋から出ることはなかった。
病院に行った次の日に生理が始まったことも外出することを阻害した要因のひとつだった。
(何かだりぃ)
そんなことを思っていると出血があった。
それが生理であることはさすがの知香(達郎)にもすぐにわかった。
しかし達郎(知香)に伝えるのは気恥ずかしく、病院で教えてもらった通りに対応した。
(ということは俺も妊娠する可能性があるってことだよな。まずいよなぁ)
そんなことを考えると何もする気が起きなかった。
その日から、パジャマのまま、家事をするわけでもなく、文字通りゴロゴロしているだけの毎日だった。

達郎(知香)は自分の仕事に忙しくそんな知香(達郎)の姿も気にしないようにしていたが、さすがに目に余ってきた。
「なあ知香、毎日ぐうたらしてないで外にでも行ったらどうだ?」
「外って言ってもなあ。女ってどこか行くにも化粧したりしなくちゃいけないだろ?邪魔臭くって」
「一生この部屋で過ごすわけにもいかないだろ?」
「分かったよ。明日にでもどこか探しに行ってくるよ」

次の日、知香(達郎)はカルチャースクールに行ってみると言って家を出た。
化粧も満足にできない知香(達郎)は口紅をつけただけで出かけていった。
化粧なんてものはそのうち覚えるだろうと達郎(知香)も放っておいた。

「ボクササイズをやろうと思うんだけど」
帰宅した達郎(知香)に向かって知香(達郎)が言った。
「ボクササイズ?ボクササイズってボクシングでダイエットするってやつか?」
「別にダイエットとかどうでもいいんだけど、カルチャースクールってやつは面白そうなものはひとつもなくてさ…」
知香(達郎)の声は久しぶりに活き活きしているように響いた。
「ブラブラしてるとボクササイズて看板が見えてさ、『体験入学受付中』って書いてあったんで、ちょっとだけやらせてもらったんだ。久しぶりに身体を動かしたら何か気持ちよくってさ。明日からも行くつもりなんだけどいいかな?」
「ああ、もちろん。知香が元気になるのが一番だからな」

久しぶりに休みを取れたのだが、達郎(知香)は何をして過ごせばいいのか分からなかった。
それで知香(達郎)が通っているジムを探しに街をブラブラすることにしたのだ。
「あっ、知香だ」
遠くに知香(達郎)を見つけた達郎(知香)は近づこうとした。
ところが知香(達郎)のそばには見知らぬ男がいることに気づいた。
(何だ、あの男は?)
達郎(知香)はしばらく様子を見ることにした。
男は知香(達郎)の腰辺りに手をあてて親しげに談笑しながら歩いていた。
(まさか?…そんなことはないよな?)
達郎(知香)の心配をあざ笑うかのように二人はラブホテルに消えていった。


9 教育


知香(達郎)が部屋に戻ると、部屋の電気が点いていなかった。
(あれっ、どこかに出かけたのかな?今日は休みだって言ってたのに)
知香(達郎)が電気を点けると、達郎(知香)が黙って座っていた。
「どうしたんだ、電気も点けないで?」
「今日はどこに行ってたの?」
久しぶりに聞く達郎(知香)の女言葉だった。
相当冷静さを欠いていることが勘の鋭くない知香(達郎)にも伝わってきた。
「どこってボクササイズだよ…」
「今日街で見かけたのよ。誰?一緒に歩いてた人?」
「コ…コーチだよ」
「コーチと一緒にラブホテルに行ったんだ」
「…見てたのか?」
「うん。どうして?」
「一度みんなで飲みに行ったことがあっただろ?あのときに何か意気投合しちゃって二人で飲んでたら、気がついたらホテルに行ってたんだ」
「それでボクササイズに行くってあたしに言って、毎日デートしてたのね?」
「ほとんどちゃんとボクササイズに行ってたよ。今日で3回目だよ」
「何でそんな3回も行けるわけ?信じられない」
「何か一生懸命なとこが可愛いかなって…」
「それであたしを裏切ったの?裏切ってるって思わなかったの?」
「…ごめん」
「もういいわ。別れましょう」
「そんなことしたら子供ができたときの1千万とかがもらえなくなるだろう?」
知香(達郎)がつまらないお金のことを言い出したので、達郎(知香)は何か白けてしまった。
「そんなお金はどうでもいいわよ。どうせビジネスさえ軌道に乗れば、その何倍も手に入るんだし」
達郎(知香)は知香(達郎)の馬鹿な言葉のおかげで少し落ち着きを取り戻した。
言葉遣いも男に戻った。
「知香はそれなりに可愛いんだから、コーチに振られても、金持ちの男を騙して玉の輿に乗ったらいいじゃないか」
「そんな言い方するなよ」
「知香が出て行かないのなら僕が出て行く」
「なぁ、そんなこと言わないでやり直そうぜ」
「お前が裏切ったんだろ?やり直そうなんて虫のいいことをよく言えるな」
達郎(知香)は部屋を出て行こうとした。
「何でも言うこと聞くから俺を捨てないでくれ」
一人になる不安から知香(達郎)は達郎(知香)にしがみついた。
「何でも?本当に何でも言うことを聞くんだな?」
「ああ、何でも聞く。本当だ」
「それじゃ、まずボクササイズはやめろ」
「ああ、明日にでも電話するよ」
「それから」
「それから?」
「女らしくなってくれ」
「女らしく?何だよ、それ?」
「知香になってだいぶ経つのに、全然女らしくないじゃないか。僕は知香にそれなりに女として成長して欲しいんだ」
「分かった、分かった。女らしくなってやるから」
「本当か?」
「うん」
達郎(知香)は知香(達郎)を抱きしめてキスをした。
「それじゃ、僕のを銜えてもらえるかな」
知香(達郎)は何を言われているのか理解できなかった。
達郎(知香)は知香(達郎)の手を握り、自分の股間に持っていった。
知香(達郎)はようやく達郎(知香)の言葉の意味を理解した。
「えぇ、嫌だよ」
「まだ自分の立場を分かっていないようだな。すぐにでも別れてもいいんだぜ」
「分かったよ。やりゃあいいんだろ?」
「"分かったよ"じゃないだろ?まだ自覚が足りないようだな」
「分かった…わよ」
「じゃ、やってくれよ」
達郎(知香)はベッドに仰向けに寝た。
知香(達郎)はベルトをゆるめてズボンを少しずらした。
そしてパンツからペニスを取り出した。
おしっこの臭いが鼻についた。
知香(達郎)は間近で見るペニスの大きさに慄いていた。
(こんなにでかいのかよ)
「早くしろよ」
達郎(知香)はニタニタしながら言った。
知香(達郎)は意を決して一気に目の前にあるものを口に入れた。
「痛いっ!何するんだよ」
達郎(知香)は知香(達郎)の頭を思いっきり殴った。
知香(達郎)は横に倒れた。
「いってぇ。男のくせに女を殴りやがって」
知香(達郎)は叩かれたところを押さえながら達郎(知香)を睨みつけた。
「文句言う前に、お前こそもっと気持ちをこめてやれよ」
達郎(知香)の迫力に今怒らせるとまずいと感じた知香(達郎)は仕方なく元の体勢に戻った。
そしてゆっくりと怒りで柔らかくなったペニスを掴んだ。
両手でそれを触っていると、あっという間に手の中で膨張してきた。
そんなペニスを見ているとさっき殴られたことも忘れて何となく愛おしさを感じてきた。
そしてペニスの先を舌でペロッと舐めるとビクンとした反応があった。
知香(達郎)は面白くなってペニスの先をペロペロと舐めた。
「…うっ……ん……」
達郎(知香)が感じているのが分かった。
知香(達郎)は執拗に舐め続けていた。
「早く銜えてくれよ」
達郎(知香)の求める声が聞こえてきた。
知香(達郎)は自分が優位に立ったような気がして焦らすことにして、なかなか銜えることはしなかった。
達郎(知香)は我慢できずに知香(達郎)の頭を押さえつけて銜えざるをえない状態にした。
知香(達郎)は喉の奥にまでペニスが入り、嘔吐きながら口の中でペニスに刺激を与えていた。
やがて、達郎(知香)は知香(達郎)の頭を掴み、上下に激しく揺すった。
知香(達郎)は自分の口の中でペニスが爆発するような感じを感じ取った。
「ん…んんん(やめろ)……」
と言ったが、達郎(知香)には伝わらなかった。
なおもしつこく知香(達郎)の頭を揺すり続けた。
「出…出そうだ……」
達郎(知香)は知香(達郎)の頭を自分の股間に動けないように押さえつけていた。
知香(達郎)は逃げることができず、口の中に精液を放出されてしまった。
半分以上は何とか吐き出したが、少しだけだが飲み込んでしまった。
「ゲホッゲホッゲホッ…何すんだよ…」
「男は自分の出したモンを女に飲んで欲しいんだろ?前に自分で言ってたじゃないか。それをやってもらいたかっただけさ」
「できるかっ」
「まあ今日はいきなりだったからな。明日からはしっかりと頼むぜ」
達郎(知香)はニヤニヤ笑って言った。
「それじゃ続きをやろうか」
「まだやるのか」
「当然だろ?もう一回大きくしてくれよ」
知香(達郎)は今日は反抗するのはまずいと思い、達郎(知香)の言葉にしたがった。
再びペニスに手をあて刺激を与えた。
しかし射精したばかりのせいかなかなか大きくならなかった。
「手で誤魔化そうとするなよ。ちゃんと口でやれ」
知香(達郎)は精液のついたペニスを再び口に入れた。
口に入れた途端、元通りの硬度を取り戻した。
「それじゃ自分で入れろよ」
知香(達郎)は手でペニスを持ち、自分の股間にあてがった。
そしてゆっくりと腰を沈めた。
「ああ…ん」
「さすがにこういう姿は艶っぽいな。ほら自分で動けよ」
知香(達郎)は腰を上下させた。
「どうだ?」
「子宮が……突かれてる……。気持ち…いい……」
「自分の胸を揉んでみろ」
知香(達郎)は言われるままに乳房を揉んだ。
「…あっ…あっ…あっ…あっ…」
そんな知香(達郎)の顔を見ながら達郎(知香)は微妙に腰を動かしていた。
「…あっ…あっ……い……いくぅ………」
知香(達郎)は仰け反ったあと、しばらくして達郎(知香)に覆いかぶさってきた。
達郎(知香)は知香(達郎)の頭を撫ぜながら知香(達郎)が
「いったのか?」
「うん、そうみたいだ」
「女らしく!」
「ごめん」
「今日はこれくらいにしようか。それじゃ最後に知香の口で綺麗にしてくれよ」
「調子に乗るんじゃねえぞ」
「女らしくしないか」
「いやだ」
「じゃあ別れるんだな」
「……それは絶対にいやだ……」
「だったらどうすべきか分かってんだろ?」
知香(達郎)はゆっくり身体を移動させ、すっかり元気のなくなったペニスに顔を近づけた。
達郎(知香)の精液と知香(達郎)の愛液とでグチャグチャになっていた。
知香(達郎)は屈辱を感じながら黙って舐め始めた。
知香(達郎)は自分の唾で達郎(知香)のペニスを綺麗にした。
その最中、達郎(知香)は小さないびきをかきながら寝入ってしまった。
知香(達郎)もペニスを握った状態で眠ってしまった。

「おい、知香、出かけるぞ」
次の日、知香(達郎)がまだ寝ていると、達郎(知香)に叩き起こされた。
「えぇ、まだ眠い…」
「女らしくなるんだろ?その教育だ」
知香(達郎)は眠い目を擦りながら起き上がった。
「時間がない。すぐにそれに着替えろ。化粧は口紅だけでいい」
ベッドにパンストと白いワンピースが置かれた。
「ジーパンの方が…」
知香(達郎)が言いかけると達郎(知香)は無言で睨んだ。
知香(達郎)は言葉を飲み込んでおとなしく出された服を着た。
ドレッサーの前に座り、口紅をつけると
「じゃ、行くぞ」
待ちかねたように達郎(知香)が急かせた。

連れていかれたのは美容室だった。
「今朝電話した村上だが」
「はい、承っております。どうぞこちらへ」
知香(達郎)は奥の部屋で導かれた。
「じゃ僕はその辺で時間を潰してる。2時間後に迎えにくる」
達郎(知香)が出て行こうとした。
「えっ?」
達郎(知香)は一人残されることに不安を感じて達郎(知香)の方を振り返って見た。
「2時間したら迎えにくるから、それまでに綺麗になっていてくれよ」
達郎(知香)はそう言って、店から出て行った。
「さあ奥様はこちらへ」
知香(達郎)は奥の部屋に連れて行かれ、全身エステ、脱毛を受けた。
髪がセットされ、メークをされた。
全てが終了すると、すでに達郎(知香)が待っていた。
「お待たせしました」
「おお素晴らしい。綺麗になったな」
達郎(知香)はカードで支払いを済ませると、再び車を走らせた。

「今度はどこに行くんだ?」
「ん?」
達郎(知香)は軽く睨んだ。
知香(達郎)にはその意味が瞬時に分かった。
「…どこに行くの?」
仕方なく言い直した。
「会社だ。僕の部下にしばらく知香の教育係をやってもらおうと思ってる」
「会社って?」
「社長の妻が社長に代わって営業してもバチは当たらないだろ?」
「そんなこと…無理よ……」
「いいや、やってもらう。君は女性として見られ、女性として振舞っていくことで、女性を磨くんだ。時々マナー教室などの時間も取ってもらっている」

知香(達郎)は会社のあるオフィスビルの23階に連れて行かれた。
「宮本さん、今朝電話でお願いした件、よろしく頼むよ」
「はい、かしこまりました」
「知香、こちらが君の教育係の宮本小枝子さんだ」
「宮本小枝子です。社長にはいつもお世話になっております」
「知香です。よろしくお願いします」
「社長の指示は、奥様を共同経営者に相応しいようにせよということですので、社長の奥様であっても厳しくしますから覚悟してくださいね」
小枝子はチャーミングに笑った。
「じゃ、知香のこと、よろしくな」
「はい」
知香(達郎)はお茶の出し方、下げ方、お辞儀の仕方など厳しく指導された。
午後からはマナー教室に連れて行かれ、同じように立居振舞いを矯正された。
夜は夜で達郎(知香)に尽くすように言われ、それにしたがった。
そんな生活は最初は苦痛のように思えたが、社長夫人ということで会社ではそれなりに気を配ってくれるし、いろいろな人に会って美辞麗句を並べられることが多く、女性として振舞うことが楽しくなっていった。

そんな生活になって数日後、知香(達郎)の生理が始まった。
「生理でもフェラチオはできるだろう」
達郎(知香)のそんな言葉に知香(達郎)は仕方なく従った。
いつものように達郎(知香)のペニスを銜えていると、自分の中から激しい欲求が湧き上がってきて、どうしても抑えることができなくなるのを感じた。
「ねえ、あなた、入れて欲しい…の……」
「生理が始まったんだろ?」
「でもどうしても欲しいから…」
「どうしたんだ、いつもはそんなこと、言わないのに」
「自分でも分からないけど、どうしても我慢できなくて…」
「仕方ないな。ならいつものように入れていいぞ」
知香(達郎)は達郎(知香)にまたがって、自分の中に達郎(知香)のペニスを導きいれた。
「はぁぁぁん」
挿入したとき知香(達郎)はいつになく大きな声をあげた。
上下に動き始めてもいつになく大きな声で喘いだ。
そんな知香(達郎)の姿に達郎(知香)は興奮してきた。
「体勢を変えるぞ」
達郎(知香)は上半身を起こし、知香(達郎)を横たえた。
正常位で知香(達郎)を思い切り突いた。
「あああ、あなたぁ。いい……いいわ……もっと…もっと…激しくして……」
知香(達郎)のそんな言葉に達郎(知香)も必死に答えようと動きに激しさを増していった。
「ああ、出…出る……」
「いいわ、来て…来てぇ……」
二人同時に絶頂を迎えた。これまでで一番充実したセックスだった。

このセックスをきっかけにそれまで達郎(知香)が"主"、知香(達郎)が"従"であったのが、ほぼ対等のような関係になった。
周りから見てもいい関係の夫婦に見えるようになった。


10 懐妊


生理が終わらないうちに次の検査の日になった。
「ほぉ、無事に月経が来ましたね」
知香(達郎)は医者に生理中の女性器を見られてしまった。
何とも言えない恥ずかしさだけしか感じなかった。
「これであなたも赤ちゃんを宿すことが可能性になったわけです」
そんな医者の言葉に不安と期待を感じる自分が不思議だった。

知香(達郎)は毎晩自ら進んでフェラチオをしてセックスをねだるようになった。
「ねえ、あなた、今日も抱いて」
知香(達郎)は、達郎(知香)が参ってしまうくらいに、毎晩何度も求めた。
「知香は本当にセックスが好きだな」
「うーん、そうよ。セックスは絶対に女の方がいいでしょ?あなたも嫌いじゃないでしょ?」
知香(達郎)は昼間の会社でのストレスを忘れたいように、夜はセックスに没頭しているかのようだった。

次の検査のときに知香(達郎)の妊娠が分かった。
「おめでとう。これまでの性転換ではできなかったことができるようになることが証明できて我々もとても嬉しい。約束通り、まず祝い金を送ることにしよう。大事にして元気な赤ちゃんを産んでくれ」
知香(達郎)にとって、自分が妊娠したということは良いニュースではなかった。
ストレスはあるが、楽しい仕事を中断せざるを得なくなる。
さらに、自分が出産しなければいけないという漠然とした不安があったためだ。
「本当に子供なんて産めるのかな?」
知香(達郎)は軽い鬱のような状態になった。
それに輪をかけるかのように悪阻もひどかった。
仕事どころではなくなり、相当早いが産休ということで、会社を休むことにした。
しかし、このひどい時期を乗り越えると、変化があった。
知香(達郎)に母性が生まれたのだ。
「悪阻はひどかったけど、おかげで母親になるという自覚が生まれたような気がする」
知香(達郎)は嘘のように元気になった。
専業主婦として家事もそつなくこなせるようになった。
さらにこんなことまで言い出した。
「ねえ、達ちゃん。赤ちゃん、元気に産まれるかな?」
「きっと元気に産まれるさ」
「赤ちゃんが元気に産まれてくれさえすれば他のことはどうでもいいわ。赤ちゃんが産まれることでお金をもらったりしたら何か汚れるような気がするから、どっちかって言うと断りたいくらい」
「じゃ、断る?」
「いいの?」
「知香が嫌ならもらわない方がいいんじゃないか」
「でもお金はあっても邪魔にならないんでしょ?」
「もらって嫌な物は断ればいいよ」
「じゃ断ろう。赤ちゃんがいればそれだけでいいから」
知香(達郎)はお腹に赤ちゃんを宿して意識が相当変わったようだった。

徐々に大きくなるお腹を抱えて知香(達郎)は本当に幸せそうに見えた。
「あっ、お腹の赤ちゃんが動いた」
知香(達郎)が自分のお腹を押さえて立ち止まった。
「どれどれ」
達郎(知香)は知香(達郎)のお腹に手を置いた。
「分かんないな。本当に動いたのか?」
「本当よ。ねっ、赤ちゃん」
知香(達郎)は自分のお腹に向かって言った。
「達郎にはこの喜び分かんないよね?」
「確かに分かんないな」
「妊娠が分かったときは正直不安だったんだけど、今本当に幸せだと思うわ」
「そうなんだ」
「自分のお腹に赤ちゃんがいる、こんな経験ができるなんて本当に女になれてよかった」
知香(達郎)は女の喜び、母になる喜びを毎日かみ締めているのだった。

知香(達郎)は臨月を迎えた。
知香(達郎)はちょっと動作を起こすだけでも大変そうだった。
「そろそろだな。大丈夫か?」
達郎(知香)は知香(達郎)のお腹を触りながら聞いた。
「うん、いつ産まれても大丈夫だと思う」
知香(達郎)は達郎(知香)の手に自分の手を重ねて言った。
「ところでね」
そう言って、知香(達郎)は少し間を置いた。
「やっぱりお金もらえないかな?だってお金はあった方がいいじゃない?そうでしょ?」
そう言ってにっこり笑った。
達郎(知香)は知香(達郎)のその笑顔に"女"を感じた。
知香(達郎)は本当の意味で女になったんだと思った。


《完》

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