レズゲーム



小杉雅也は下着女装が趣味だった。
学校に来るときでも女性のショーツを身につけていた。
もちろん体育のある日は男物を穿くように注意を払っていた。

きっかけはちょっとした偶然だった。
そもそも雅也はそれほど目覚めのいい方ではなかった。
だから起きるとまず頭をスッキリさせるためにシャワーを浴びることが日課だった。
その日もいつものように起きてすぐにシャワーを浴びた。
寝ぼけていた頭もシャワーを浴びたことによってようやく起き出した。

「さて今日も頑張るとするか」
自分で自分を励ますかのように独り言を言いながら脱衣場に行った。
するとさっき脱いだはずの下着がなくなっていた。
「母さん、俺のパンツは?」
「あら、ごめんなさい。パジャマと一緒に洗っちゃったみたいね。ちょっと待って。今持っていくから」
バタバタと足音が聞こえたかと思うと、母がバスタオルと下着を持ってきてくれた。
「バスタオルくらい自分で持っていきなさいよ」
「いいんだよ。いつもパジャマで拭いてるから。無理にタオルを汚す必要ないだろ」
雅也は渡されたバスタオルで身体を拭いてから置いてある下着を見た。
自分のブリーフとともにカラフルなショーツが置いてあった。
それは姉の季美代のショーツだった。
「母さん、間違えて一緒に持ってきやがったんだ」
白地にライトグリーンのボーダーのショーツだった。
横の部分の幅が1センチくらいしかない。
(姉貴の奴、こんなの穿いてるんだ)
手に取って見ていると穿きたい誘惑にとらわれる。
(こんなの穿いたら変態じゃないか)
そう思っても一度感じた誘惑から逃げることはできなかった。
(誰が見てるわけでもないし、間違った母さんが悪いんだし、寝起きでボゥーッとしてたことにすればいいか)
自分で自分に言い訳をしながら、そのショーツに脚を通し、腰まで上げた。
それほど大きくないと思ったショーツだったが意外と自分の腰にフィットした。
いつものブリーフにはない感覚が新鮮だった。
ただ女性の下着を身につけたせいか股間のものが興奮して大きくなってしまった。
(これじゃ本物の変態みたいじゃないか)
雅也は深呼吸して何とか自分のものを元の状態に戻した。
元の大きさになると股間に挟み込むようにしてからショーツをあげた。
(ちょっと膨らみはあるけどこれだと何とか見れるな。でも毛は少し剃る必要があるな)
雅也はショーツの感覚を今日一日楽しもうとショーツの上からブリーフを穿いた。
(ひとつくらいなくなったって分かんないだろう)
そう思ってそのまま自分の物にしたのだ。
その日は学校でもずっとドキドキしていた。
女性の下着をつけてることが誰かにばれそうな気がするのだ。
そのドキドキ感に異様なほどの興奮を覚え、翌日もそのショーツを穿いて学校に行った。
今度はブリーフは穿かずに、下着はショーツだけで、そのままズボンを穿いた。
こうなるとズボンの前のチャックが開いていると、すぐにばれてしまう。
前の日以上の緊張感でそれが雅也にとっては予想以上の興奮を覚えた。

さすがに2日も続けて同じ下着をつけると汚れも目立つので、風呂に入ったときに風呂場でそのショーツを洗って自分の部屋で乾かした。
乾くのも待ち遠しく雅也は生乾きの状態で、次の日も、そのまた次の日も穿き続けた。
こうして雅也は下着女装にはまってしまった。



「何のために勉強なんかしなくちゃいけないんだろう?」
「もう小杉ったらそんな愚痴ばかり言ってる暇があったら勉強したら?」

いつものように雅也は矢野由布子とつまらない言い合いをしていた。
由布子とは中学校からの腐れ縁だった。
雅也は由布子のことが好きだった。
下着女装を始めたと言っても別にホモになったわけじゃない。
性的対象は女性のままだった。
一方、由布子も雅也のことは嫌いではなかった。
しかし、思春期特有の屈折した愛情表現から会えばお互いつまらない言い合いをするという仲になってしまっていた。

「勉強して、一流大学入って、公務員にでもなるのか?」
「別に公務員にならなくてもいいけど、やっぱり大学はいいところに入った方がいろんな可能性が広がると思うけどな」
「お前は何のために勉強するんだ?女なんていい男捕まえて専業主婦になったら勉強なんて全然関係ないじゃないか」
「ああ、女を馬鹿にしたぁ。アンタみたいな馬鹿な男が女をダメにするのよ」
由布子は雅也の肩を軽く小突いた。
「いってぇ…」
雅也は急に腹を押さえてうずくまった。
「もう小杉ったら。そんなに強く叩いてないでしょ」
「腹が痛い…」
雅也は脂汗を流しながら本当に痛いようだった。
「えぇ、お腹?大丈夫?」
「あんま…大丈夫じゃない……」
「保健室行く?」
「そうする」
雅也は由布子に助けられて保健室に行った。
保健室には保健の先生の田崎光子がいた。
田崎は30歳になったばかりの魅力的な先生だった。
当然男子生徒からの人気は高かった。
「田崎先生、小杉くんが急にお腹痛いって」
「じゃあ、そこのベッドに寝かせて」
雅也は由布子に助けられてベッドに横になった。
「あとは私に任せて。もうすぐ授業が始まるから矢野さんは教室に戻りなさい」
「分かりました。じゃ小杉、また後で来るからね」
由布子は雅也のことを気にしながら教室へ戻っていった。

「じゃ小杉くん、ズボンのベルトを緩めて、ズボンを少し下げて」
「ええ、そんなのいいです」
「恥ずかしがってる場合じゃないでしょ?盲腸だったらどうするの」
田崎の勢いに押され雅也はベルトを緩め、ズボンのフォックを外した。
「それじゃ少しだけズボンを下げるからね」
田崎は雅也のズボンを下げた。
当然雅也の穿いているショーツが見えた。
「あらっ?」
すぐに田崎が気がついた。
「小杉くんってこういう男子だったんだ。小杉くんって可愛いもんね」
雅也は恥ずかしさで田崎の顔を見ることができなかった。
「それより盲腸かどうかを調べないとね」
田崎は雅也の右下腹を押さえた。
「どう?痛い?」
「別に痛くないです」
「盲腸じゃないみたいね。じゃ何かな?もう少しズボンを下げていい?」
「…はい……」
田崎は雅也のズボンを完全に剥ぎ取った。
「あっ」
雅也は抵抗することができなかった。
田崎の前に女性ショーツがあらわになった。
男を示す膨らみのない女の子のような股間に田崎は驚いていた。
「どうやって隠してるの?まるで何もないみたいじゃない?」
田崎は雅也のショーツの前の部分に手をあてた。
「どうなってるの?小杉くんって女の子だったの?」
「タックっていう方法があるんです。インターネットで調べたんです」
雅也は田崎に簡単にタックについて説明した。
「へぇ、そんな方法があるんだ。ちょっと見せてもらっていい?」
「そんな…。こんなとこじゃ…」
「そりゃそうね。いつ誰が来るか分からないもんね。仕方ないね。でもその方法はあんまり身体には良くないわよ。特に睾丸を体内に収納するのはあまり長時間やらないこと。どれくらいその状態でいるの?」
「えっと…一昨日の晩からです」
「そんなに長いとも思えないけど、痛みの原因としては考えられないことはないわ。先生は向こうに行ってるからすぐに普通の状態に戻しなさい。分かったわね」
「はい」
田崎が見えないところに行ったのを確認して、雅也はタックを外し、普通の状態に戻した。
痛みがほとんどなくなり、随分楽になった。
ショーツをあげ、ペニスをショーツの中に納めた。
そしてズボンをあげたところで、田崎が戻ってきた。
「どう?痛みは治まった?」
「はい、どうやらタックが悪かったみたいです」
「まあ、個人の趣味だからとやかく言わないけど、タックってのはあんまり身体に良いみたいだから長時間やり続けないようにね」
「はい、分かりました」
「念のためにもう少し横になっていたら?」
「それじゃ、そうします」
雅也はもう少しの間眠ることにした。

次の休み時間になると、由布子がやってきた。
「田崎先生、小杉くんはどうですか?」
「ちょっと疲れてたみたいね。少し休んだら元気になったわよ」
由布子は雅也の方を見た。
「小杉、本当に大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫。心配かけて悪かったな」
「今日はどうするの?早退する?」
「いや、そこまでしないでも大丈夫だから。もうちょっとしたら教室に戻るよ」
「そう?じゃ、先に教室に戻っておくね」
由布子は雅也のことを気にしながらも教室に戻って行った。

「矢野さんって可愛いわね?付き合ってるの?」
「いえ、そんなことは…」
「付き合ってないんだったら、学校が終わっても時間はあるわよね?今日、先生の家に来ない?」
弱みを握られている雅也にとってその言葉は命令でしかなかった。
「はい、分かりました」
そう返事せざるをえなかった。


雅也は田崎に言われた通り、駅前で待っていた。
すると赤の軽自動車が近寄ってきた。
田崎の車だった。
雅也は周りの目を気にして急いで車に乗り込んだ。
「ごめんね、待ったかな」
「いいえ、そんなには」
雅也は田崎に気を遣って返事をした。

20分ほど走ったところに田崎のマンションはあった。
「どうぞ、全然片付いてないけど。適当に片付けて座って」
雅也はソファに散乱している雑誌を一方に追いやって座った。
「小杉君はコーヒーでいいかな?」
田崎は雅也の返事を待つことなく、雅也の前にコーヒーを出した。
「小杉くんは女装は興味ないの?」
田崎は単刀直入に切り出した。
「僕は女性の下着の肌触りが好きなだけで、女装の趣味はありません」
そう言いながらも、雅也は田崎の持っている物が気になっていた。
「そうなの?女性の下着が似合う小杉くんだから、きっとこれも似合うと思うんだけど」
田崎は手にセーラー服を持っていた。
「これ、先生が高校生のころに着てた制服なの。小杉くんに着て欲しいな。絶対に似合うと思うんだけど」
「そんなの…着れないですよ」
「一度だけだから、着てみて。お願い」
田崎の執拗な願いは雅也にとっては避けがたい命令のように響いた。
「一度だけですよ。着たら許してもらえますか?」
「許すって何か人聞きの悪い言葉ね。別に先生は脅したりしてないわよ」
田崎はふふふと笑った。
「じゃあ、下着だけになってくれる?」
雅也は言われた通り、女物のショーツ一枚になった。
「それじゃブラジャーをつけてあげる」
雅也は差し出されたブラジャーのストラップに腕を通した。
「カップの中にはこれでも入れといてね」
田崎は使い古したようなパンストを2つ雅也に手渡した。
雅也は言われた通り、パンストを丸めてそれぞれのカップに押し込んだ。
「じゃあ、次はスカートね。はいるかしら?」
雅也はスカートに脚を通して留めようとしたが、少しきつかった。
「ちょっときついみたいです」
「どれくらいかな?…う〜ん、これだと無理に留めるのも苦しそうね。ちょっと待って」
田崎は雅也からスカートを取り上げた。
裁縫箱を取り出し、慣れた手つきでホックの留め金を位置を調整した。
「たぶんこれでいけると思うわ」
田崎の見立て通り、今度は留めることができた。
「どう?ピッタリでしょ?」
「でも少しきついです」
「そりゃそうよ。スカートってそういうものなの。女の子はみんな我慢してるんだから少しくらい我慢しなさい」
続いて雅也はセーラー服を着た。
「結構似合うじゃない。仕上げするからこっち来て」
雅也は田崎に化粧をされて、ウィッグを被せられた。
「はい出来上がり。じゃあ、こっちに来て」
雅也は全身が映る鏡の前に連れて行かれた。
「これが……僕?」
鏡に映ったのは雅也の好みのタイプの女の子だった。
「やっぱり先生が思った通りね」
雅也は鏡に映った自分に見惚れていた。
「どう?気に入ってくれた?」
「あっ…はい…」
「小杉くんが自分で恥ずかしいことをやってくれたから、先生も小杉くんにわたしの恥ずかしいことを言うわね」
田崎は雅也の両肩に手を置いた。
「先生はね、レズビアンなの。今の田崎くんのような可愛い女の子しか愛せないの」
田崎は雅也の背中から雅也を抱きしめた。
雅也は自分の背中に田崎の豊満な胸が当たるのを感じて、ドキドキしていた。
「先生にとって、今の小杉くんは女の子なの。分かった?」
まるで諭すように静かに言った。
「小杉くんはここでは雅美ちゃんね」
「まさみ…ちゃん?」
雅也はもはや自分を見失いつつあった。
「そう、雅美ちゃん。雅美ちゃんはもちろん女の子よね?」
「僕が女の子?」
「ううん、"僕"じゃなくて"あたし"よ、"あたし"」
「あたしは女の子?」
「そう。それで先生と雅美ちゃんは恋人なの」
「恋人?」
半ば催眠状態になったようにおうむ返しをするだけだった。
「だからね」
田崎はそう言うと雅也の身体の向きを変えた。
雅也は抵抗することなく田崎に唇を重ねられた。
雅也にとって初めてのキスだった。
「こんなふうにキスもするし」
田崎は意識的に言葉を切った。
「セックスだってするのよ。一種のゲームみたいなものと思ってくれればいいわ。雅美ちゃんとあたしはレズ友達で、雅美ちゃんは私に抱かれるのよ。言わばレズごっこというかレズゲームね」
再び田崎は雅也に唇を重ねた。
今度は舌を入れてくる激しいものだった。
雅也は田崎に舌に答えるように必死に自分の舌を絡ませた。
長いキスだった。
…やがて、長いキスがやっと終わった。
「雅美ちゃん、ベッドに行きましょうね」
田崎は雅也の背中を軽く押した。
「はい…」
雅也は催眠術にかかったように田崎にしたがった。
命じられるままベッドに仰向けになって横になった。
雅也のペニスは勃起してショーツからはみ出ていた。
スカートの裏地にペニスの先端が当たって痛かった。
田崎はスカートを捲り上げ、ショーツからはみ出ているペニスを握った。
「大きなクリちゃんね」
田崎は雅也のペニスの先に指を這わせた。
「…ん…んん……」
「気持ちいい?」
「はい…先生…気持ちいいです…」
「先生のことは"お姉さま"って読んでくれる?」
「お姉さま?」
「そう、お姉さまよ。雅美ちゃんは私の可愛い恋人なの?」
「あたしがお姉さまの恋人?」
「そうよ。雅美ちゃん、気持ちいい?」
「はい、お姉さま…気持ちいいです…」
雅也は田崎の指の動きに完全に翻弄されていた。
「あぁぁ……あ…ん……い…い……」
まるで女のように喘ぎ声をあげた。
田崎の指だけで雅也は最後を迎えた。
雅也は完全に田崎の術中に落ちた。



次の日雅也はどうしても自分の欲求を抑えられずに朝すぐに保健室に足を運んだ。
「おはようございます」
「おはよう。小杉くん、今日は早いのね」
「はい、それで…」
「ふふふ、今日も来る?」
田崎は雅也の心が分かっているように誘った。
「…はい……」
「あら?今日は素直なのね。もしかしたら気に入ってもらえたのかしら?」
「…はい……」
雅也は授業が終わるのが待ち遠しく授業も上の空だった。


「今日は私の昔の服なんだけどどうかしら?」
細い肩紐のキャミワンピースだった。
雅也は身体にあててみた。
太ももが半分以上見える短い。
「これを僕が着るんですか?」
「ここでは女の子でしょ?」
「…でもちょっとスカートが短いから……」
「とにかく一度着てみて。ブラジャーはこれをしてね」
肩紐がなく、カップの中にパッドが縫い付けられていた。

雅也は言われた通りキャミワンピースを着た。
田崎に化粧をされ、ウィッグをつけると可愛い女の子になった。
雅也は自分の女装姿を全身の映る鏡に映した。
「昨日も気になってたのよね、この腋のもの」
田崎に言われるまでもなく雅也も気になっていた。
キャミソールを着ている可愛い女の子に腋毛は不要だ。
「綺麗にしちゃおうか?」
「はい…」
雅也は田崎に腋のところに何か冷たい泡状のものをつけられた。
「少し我慢すれば腋のものが綺麗になくなるわ。ついでだから脚も綺麗にしてあげようか」
しばらくするとすごくかゆくなってきた。
「お姉さま、すごくかゆいです。もう取っていいですか?」
「もう少しの我慢よ。美容のためには少しくらい我慢しなさい」
10分ほど我慢すると田崎は暖かいタオルで泡状の物ををぬぐってくれた。
「ほら綺麗になったわよ」
田崎に触れられることで無駄毛が綺麗になくなったことが分かった。
「やっぱりこういう服を着るのなら無駄毛は処理したほうが可愛いわね」
「…ええ……」
雅也は鏡に映った自分の姿を見てすごく嬉しかった。
そこには昨日以上に雅也が好きな女の子が映っていたからだ。
「ふふふ、何だか嬉しそうね?綺麗になったのがそんなに嬉しい?」
「はい、とっても嬉しいです」
雅也は自分の心が見透かされたようで恥ずかしかったが、素直に気持ちを言うことができた。
これも女の子になってるせいかしらと考えていた。
「やっぱり雅美ちゃんは女の子ね。自分が綺麗になるのがそんなに嬉しいなんて」
田崎は背後から雅也の肩に手を乗せた。
雅也は恥ずかしそうに目を伏せた。
田崎の手がスカートの中に入ってきた。
「でもここはすごく大きくなってるわよ」
田崎は雅也のペニスを握った。
「…ぁん……お姉さま…」
雅也は目を閉じてペニスに神経を集中した。
「ダメよ、雅美ちゃん。目を開けてなきゃ。自分が感じている表情を見るのよ」
雅也はうっすらと目を開けた。
鏡には恍惚の表情を浮かべた女の顔が映っていた。
(何ていやらしい顔をしてるんだろう。でも綺麗だ)
雅也は鏡に映ったその少女の表情から目を放せなくなった。
鏡の少女は田崎の指の動きで身をよじりながらも喜びの表情を浮かべている。
「雅美ちゃん、気持ちいい?」
「はい、とても」
田崎はなおも背後からスカートに手を入れてペニスをもてあそんでいる。
「感じてる雅美ちゃんってとっても綺麗よ」
「…お姉さま…嬉しい…」
田崎の指が雅也のペニスに絡みついているようだった。
「…ぁ…ぁ…ぁ…ぁ…」
雅也は急激に高まりを感じた。
「…あ…お姉さま……出そう……」
田崎はその瞬間にペニスを雅也の太ももに押し付けた。
雅也のペニスから放たれた精液は雅也の太ももをつたって流れた。



「ねっ小杉、今日時間ある?」
帰ろうとするところを由布子に呼び止められた。
「ああ約束あるけど、少しくらいならいいよ」
雅也は田崎のところに早く行きたいという気持ちを抑えながら返事した。
「じゃあちょっとだけお茶しない?」
「いいけど、何だよ。気持ち悪いな」
「そんな言い方しなくてもいいじゃん。とにかく一緒に来てよ」
雅也と由布子は駅前の喫茶店に入った。

雅也も由布子もオレンジジュースを頼み、すぐ出てきた。
雅也はストローを使わずに一気にオレンジジュースを飲んで、切り出した。
「で、何だよ?」
「今日、小杉、誕生日じゃん」
「そういやそうだっけ?」
雅也は覚えてはいたが忘れたふうを装った。
「もう自分の誕生日くらい覚えておいてよ。あ〜あ、何か張り切った私が馬鹿みたいじゃない」
「悪かったな」
「まあいいわ。これプレゼント」
由布子は雅也に小さな箱を差し出した。
「ありがとう」
雅也は少し驚いて受け取った。
「わたしたちって喋れば喧嘩ばかりじゃない。そろそろ自分に素直になろうかなぁって…」
「えっ、どういうことだよ?」
「分かんないの?わたしって男を見る目ないのかなあ。もうはっきり言わないと分かんないみたいね。わたしね、小杉のことが好きなの」
「えっ?」
「もう女の子が告ってるのに何なの?その態度。もう頭にきた。帰る」
由布子は隣の椅子に置いていた鞄を取って立ち上がった。
「ちょっと待てよ。僕もちゃんと返事するから」
雅也は慌てた。
「…えっ……いい…いいわよ…。別に返事もらわなくても」
言葉ではそう言いながらも由布子は再度座り直した。
「僕も前から矢野のこと好きだったんだ」
由布子がお尻の下に手をやりスカートを正すのを見ながら雅也は切り出した。
「でもいつも会えば言い合ってばかりいたから、てっきり嫌われてるのかと思ってた。だから急にそんなこと言われてもピンッと来なくって…。ごめん、ちゃんとすぐに言えなくって」
「…ううん、そんなこと……別にいい…」
由布子は顔を上げられなかった。
「それじゃあらためて…僕とつき合ってもらえますか?」
「…うん」
由布子はようやく顔をあげた。
目には涙がたまっていた。
それでも必死に笑顔を作ろうとしているのがとても可愛く見えた。
「ジュース、飲む?」
由布子は一口も飲んでいないオレンジジュースを雅也の前に出した。
雅也は由布子のオレンジジュースに自分のストローを入れた。
「一緒に飲もうか」
「えぇやだぁ。趣味悪い」
そう言いながらも由布子は嬉しそうだった。
「小杉ってそういう趣味してんだ。わたし、考え直した方がいいかも」
「考え直すんなら今だぞ」
そんなことを言い合って、ふたりはお互いのおでこをくっつけてジュースを飲んだ。
「わたしたちって恋人に見えるかな?」
「こんなことをしてて恋人じゃないなんてありえないだろ」
「へへへ、そうだね」
ふたりは喫茶店を出て、駅に向かって歩き出した。
雅也は思い切って由布子の手を握った。
由布子は一瞬驚いたように手をひっこめたが、すぐに躊躇いがちに手を重ねてきた。
駅に着いた。
「また明日ね」
「うん」
雅也と由布子は明日に会えるのが待ち遠しく思いながら別れた。
雅也は田崎のところへ向かった。
由布子に悪いような気がしたが、自分の欲求には勝てなかった。
(ばれなきゃいいよな)
そう思って自分に言い訳した。



「今日はちょっと違うことしてみようと思ってるの。きっと気に入ってもらえると思うわ」
いつものように雅也が女装すると、田崎はいかにも楽しそうに言った。
「何をするの?」
「だからちょっとした趣向よ」
雅也は目隠しされた。
さらに手錠をかけられた。
「変なことはしないでね」
「大丈夫。絶対雅美にも気に入ってもらえるから」
雅也はベッドに横にされた。
そして、手錠の鎖のところにロープを通されて、そのロープをベッドの端で固定された。
雅也は手錠をかけられ万歳している状態になった。
何が始まるのか不安だった。
それでもいつものようにペニスを触ってもらうと、これまで以上に雅也は感じた。

「それじゃ今日のスペシャルを始めるわね。ちょっとうつ伏せになってくれる?」
雅也の肛門付近に冷たいものが塗られた。
それが何をするのか雅也にはすぐに分かった。
「いやっ、やめて」
「こういう状態でもちゃんと女の子の話し方してくれるのね。嬉しいわ」
田崎は雅也にキスをした。
「今からこれを雅美の中に入れてあげるから」
田崎はそう言って、棒状の物で雅也の頬を叩いた。
そして、それを雅也の口に入れた。
「しっかり舐めてね。これが今から雅美の処女を奪うんだから」
雅也は口に押し込まれたものを舌で押し返そうとしたが、抵抗することもできずそのまま口に頬張る形になった。
雅也は仕方なくビデオで見たフェラチオを思い出して、ペニスを舐めるようにその物を口や舌でもてあそんだ。
「なかなかうまいじゃない。結構やってるんじゃない?」
しばらくフェラチオをしていると雅也自身これまでにないほど興奮してきた。
やがて棒状の物が口から抜かれたが、雅也は名残惜しそうにその物を追いかけた。
「何だかフェラチオが気に入ったみたいね。じゃ、これで雅美ちゃんの処女をいただくことにするわね。それじゃ、お尻をちょっとあげて」
「やっ…やめて……やめてください……」
田崎は雅也の言葉を無視して、その棒状のものを雅也のアナルにあてた。
「やめて…」
言葉とは裏腹に雅也はこれからの行為に興奮していた。
少しずつ雅也のお尻に棒状の物が入ってきた。
「うっ…」
雅也は短い呻き声を出した。
思ったより痛くない。
いや、むしろ気持ちいいくらいだった。
「意外と痛くないでしょ。さっき塗った薬には痛みを抑えて、感じやすくする成分も入ってるからね」
田崎はゆっくりと棒状の物を入れたり出したりした。
「ぁ…ぁ…ぁ…ぁ…ぁ…」
雅也は田崎の腰の動きに合わせて声を出した。
「どう、雅美?気持ちいいでしょ?気持ちいいのならもっと声を出してもいいのよ」
田崎の言葉に応えるように雅也の声が大きくなった。
「あ…あ…あ…あああ…」
「どう?いくんならいってもいいわよ」
田崎はさらに激しく雅也の中に出し入れした。
「あっ…ああ……い…いく……」
雅也のその言葉と同時にペニスから白い粘液が飛び散った。
しかし田崎は腰の動きをやめなかった。
「お願い…もう…だめ……もう…やめて……」
田崎は相当長い間抽送を続けた。
雅也はその間に5〜6回射精をした。
田崎が動きを止めたとき雅也は身体を動かすこともできなかった。



「今日さ、うちの両親が実家に行っちゃって留守なの」
由布子が学校で小声で話しかけてきた。
「へぇ、そうなんだ」
雅也は特に興味もなさそうな振りをした。
「遊びに来てね」
そんな由布子の言葉に雅也は期待に胸を膨らませて由布子の家に行った。

雅也が由布子の家に着くと由布子はちょうどシャワーを浴びたところだった。
何も身につけておらず、バスタオル一枚を胸のところでとめているだけだった。
いきなりの展開に雅也は少しとまどった。

「ねぇ、抱いて」
雅也は由布子に言われるまま由布子を抱きしめた。
「部屋に行こ♪」
そんな言葉に一緒に部屋へ移動した。
そして由布子をベッドに寝かせ、自分も裸になった。
気持ちはドギマギしていたが、ペニスの方は素直に硬く勃起していた。
雅也は由布子に覆い被さり、唇を激しく重ねた。
長いキスの後、雅也は舌を耳、首筋、肩、鎖骨、乳房に這わせた。
由布子は感じているように甘い声を出した。
乳首を舌で転がすとさらに大きな声を出した。
指を股間に這わせ、溝の間に滑り込ませると、由布子は身体をよじって逃げるようにした。
しかし雅也は少し強引に指を内部に入れた。
すると小さな突起物に触れた。
由布子は首を左右に振り何かに耐えているようだった。
(女の子ってすごく感じるんだ)
雅也は由布子がうらやましかった。
自分も由布子の立場でセックスがしたかった。
そう考えると自分の行っている行為に集中できなかった。
そんな自分の雑念を追い払うように由布子の女性の部分に荒々しく指を入れた。
「い、痛い……」
「ごめん」
「ん、いい。指でこんなに痛かったら、雅也のが入ってきたらすごいんだろうね」
雅也は慎重に少しずつ指を由布子の中に滑り込ませた。
そしてゆっくり抽送を始めた。
「…ん……ん……いや……動かさないで……ぁ……あん……」
由布子が感じれば感じるほど雅也は冷めてきた。
自分が由布子の立場になりたい思いで頭の中がいっぱいになっていった。
由布子とひとつになればそんな思いを振り切れるかもしれない。
そんな気持ちもあった。
「由布子、いいかな?」
「うん、きて」
由布子も雅也の表情でいよいよそのときがくるのを知った。

由布子はそのときはすごく痛いことを友達から聞いて知っていた。
自然と身体は緊張してしまった。
しかし、なかなか痛みが襲ってこない。
それというのもいざというときに雅也のペニスはなかなか大きくならなかったためだ。
「どうしたの?」
「…ん…いや…ちょっと……」
雅也は焦った。
しかし焦れば焦るほど雅也のペニスは大きくならなかった。
「ごめん」
「…別にいい…」
「……」
「わたしってそんなに魅力ない?」
「そんなことないけど」
「けど?」
「緊張しちゃってうまくいかないんだ」
「もしかしたらまだ神様が早いって言ってるのかもしれないね。…ねぇ、わたしのこと、好き?」
「うん、好きだ」
「じゃ、今日のことは許してあげる」
由布子は少しふざけたように笑った。

小杉は田崎に由布子とのセックスがうまくいかなかったことを話した。
「小杉くんは女の子として女の私に突かれないと感じない身体になったってことよね?」
雅也は田崎にアヌスを突かれて歓喜の声をあげた。
本当に気持ち良かった。
雅也には田崎の指摘は正しいことのように思えた。


雅也は由布子とデートをしつつも、田崎との秘め事にも身を預けていた。

そんなある日、いつものように女装をして目隠しされてアナルを突かれて喘ぎ声をあげていた。
すると「雅也…」と由布子の声が聞こえた。
「どう?あなたの大好きな小杉くんは私にこうされているのが大好きなの」
雅也は目隠しの向こうで考えたくない状況になっているのが容易に想像できた。
しかし田崎の抽送が繰り返され、雅也は考えることに集中できなかった。
「ぁ…ぁ…ぁ…ぁ…ぁ…」
雅也は精液を出して果てた。
「どう?小杉くんと私の間に矢野さんは入ってこれる?」
「ひどいっ」
由布子が飛び出して行く音が聞こえた。


「由布子!」
雅也は叫んだ。
「どうする?こんな姿を見られたら矢野さんとは顔を合わせられないんじゃなくて?」
「どうしてこんなことを…」
「あら?何が不思議なの?わたしは小杉くんを離したくない。だから中途半端につきあっている矢野さんと別れさせてあげようとしてるだけよ。当たり前でしょ」
雅也はあたかも当然のことのように言い放つ田崎に反発を感じた。
「もう先生のところへは来ません」
「あら?そうなの?ふふふ、まあいいわ。また抱いて欲しくなったらいつでも来ていいのよ。どれくらい我慢できるかしらね」
田崎には雅也が必ず戻ってくるという確信があった。
雅也にはもう普通に男性としての性行為はできないはずだからだ。
雅也は服を着替えて田崎の部屋を出た。
田崎のマンションを出るときにいつも以上に虚しさが襲った。
(もう絶対にここに来ない)
雅也は自分に言い聞かせるように頭の中で反芻した。
「雅也…」
マンションを出たところに由布子は立っていた。
「由布子…」
「ごめん。わたし、ああいうのって見たことがないから取り乱しちゃって」
「そんな…。僕こそごめん」
「でさ…」
次の言葉を発するのには勇気がいったのだろう。
少なくない沈黙の時間が流れた。
「今からわたしの家に来てくれない?誰もいないから」
雅也には由布子が何を言いたいのか理解できなかった。
自分を誘っていると分かっても、由布子がなぜ自分を誘うのか理解できなかった。
しかしとりあえず最悪の事態にはならないようなので由布子の言葉にしたがうことにした。
さすがに由布子の家に着くまで二人とも無言だった。


「ねぇ、雅也って女の子の格好するの好きなの?」
由布子の家に着いてふたりきりになると由布子が急に言い出した。
またしても雅也は由布子の言葉がすぐに理解できなかった。
(何のためにそんなことを聞くんだ?)
雅也が無言で立ちつくしていると由布子がさらに言葉を続けた。
「わたし、雅也の女の子の姿が見てみたいの」
「どうして?」
「…分かんない。でもそうすることで次のステップに行けるような気がして」
「分かった」
雅也は本心では全く理解できなかったが、由布子の気持ちを引き止めたくてそう言うしかなかった。
雅也は由布子が準備した服を借りて女装した。
ウィッグがないので化粧しても男のイメージが強かった。
「可愛い♪」
それでも由布子は雅也の姿を見てそう言った。
「待ってて。お母さんのところにウィッグがあると思うから」
由布子は手にボブのウィッグを持って戻ってきた。
それをつけると女性に見えるようになった。
「雅也って美人だったのね?こんなに美人になるんだったら女装にはまっても仕方ないかもね」
由布子は少し寂しそうに笑った。
「由布子、ごめん」
雅也はそう言って、由布子の顔をじっと見た。
やがてどちらからともなく唇を重ねた。
そして由布子を全裸にし、あの日と同じように愛撫を繰り返した。
雅也はショーツを脱いだだけだった。
自分が女装しながら由布子を抱いていることに倒錯的な興奮を覚えた。
そのためか今度は無事に挿入することができた。
「痛いっ」
由布子が自分の下で苦痛に顔をゆがめている。
それでも雅也に動くことを促した。
スカートから出ている女の子には存在し得ない物。
雅也はスカートの中で由布子と結合していることが不思議に感じた。
動くことで確実に高みに昇っていく。
いよいよ出そうになったところで、雅也はペニスを抜き出し由布子のお腹に精子をぶちまけた。
同時にスカートを汚してしまった。
「こんな形だけどわたしたち結ばれたんだね。わたし、今日のこと、忘れない。ありがとう」
由布子のその言葉に雅也は何も言えなかった。
これから由布子のことを愛し続けようと心の中で決心するだけだった。

その日から由布子は雅也は着せ替え人形のようにいろいろな服を着せた。
相手が田崎から由布子に替わってもなおも続くレズゲーム。
雅也は自分の嗜好が普通ではないと分かりながらも、由布子と自分の好きな関係を続けることができることに満足を覚えた。


やがて雅也は由布子の家だけではなく、女装して外出するようになった。
それはあたかも女友達のようだった。
二人で出かけるときにはちょっとしたルールを作っていた。
そこで最初に男に声をかけられた方が、その日は女性として抱いてもらえるというのだった。
大抵は雅也が勝った。
通信販売で購入したペニスバンドで、由布子が雅也を突いてくれるのだった。
由布子は雅也が喜んでるので嫌々やっていただけだった。
一方の雅也はそんなことには気がついていなかった。
女装と恋愛が両立できる今が最高に幸せだと思っていた。
雅也の女装はどんどん進んでいった。
学校以外では由布子と一緒であろうがひとりだけであろうが、必ず女装するようになっていた。
その方が気分が落ち着くのだった。


「ねえ、彼女ちょっといいかな?」
(またナンパだ)
雅也の女装は平均の女性のレベルを軽く超えていたので、よく声をかけられたのだ。
「ごめんなさい。今急いでるので」
「何だよ。ちょっと綺麗だからってえらそうにしやがって」
男が雅也の右腕を掴んだ。
「離してください」
雅也が声を荒げた時だった。
「おい、嫌がってるじゃないか。やめろよ」
男の背後に別の男が立っていた。
「何だ、お前は?」
男はその男に向かって言った。
「こいつ、知り合いですか?」
助けに入った男が雅也に聞いた。
「いいえ」
「じゃ、追っ払ってもいいんですね」
そう言うと男の腹にパンチを入れた。
男は反撃もせず捨て台詞を残し逃げて行った。
「あっ…ありがとうございました」
「あなたみたいな人がひとりでうろうろしてたら危ないですよ。近くの駅まででも送りましょうか?」
男は雅也を駅まで連れて行ってくれた。
「それじゃ、ここで。まっすぐ帰るんですよ」
「はい、ありがとうございました」
雅也は男が離れていくのを見て別方向に歩き出した。
(まだ帰る気分にならないし、明るいところを歩くように注意すればたぶん大丈夫だよね)
そう思ってウインドウショッピングをしながら歩いた。
1時間以上ウロウロしていると脚が疲れてきた。
コーヒーショップに入って少し休憩することにした。
そこでコーヒーを飲んでいると、ひとりの男が目の前の席に腰をかけた。
「こんばんは。やっぱりまっすぐ帰らなかったんですね」
さっき駅で別れた男だった。

「ひと晩で2回も会うなんて何かの運命みたいだから少しご一緒してもいいですか?」
「別にいいけど…。あなた、いい人みたいだから最初に言っておくけど、あたし、男よ」
「分かってましたよ」
「えっ?」
「実は僕は女性よりはあなたのような人を好きなんですよ。確かにあなたの女装は完璧だ。普通はばれないと思う。でも僕は感じるんですよ。あなたは男だって」
三枝と名乗ったその男は小さなITベンダーを経営していると言った。
経営と言っても友達3人だけでやっているのでまだまだ大変だと言うことだった。
そんな話をしながら目が輝いていることに好感を持った。
雅也は三枝の優しさの中に感じる強引さに惹かれるものを感じていた。
自分のことを男と分かりながら女性として扱ってくれている嬉しさもあった。

「いいですか?」
三枝は一軒のラブホテルの前で立ち止まった。
「そんな、まだあって数時間しか経ってないのに」
「恋愛に時間なんて関係ないですよ」
雅也の腰辺りに廻した三枝の手に力強さが加わり雅也はホテルの方へ促された。
雅也の心には迷いが強かったが、半ば強引に連れていかれた。
そんな強引さがこれほど心地いいものだと思わなかった。

部屋に入った雅也は三枝に抱きしめられた。
「三枝さん、苦しい…」
「あっ、ごめん。さっきから雅美のことを抱きしめたくってずっと我慢してたから余裕がなかったね」
三枝は抱きしめた腕を緩めて雅也の顔をジッと見た。
(キスされる)
雅也はそう感じて目をつぶった。
煙草臭い息が近づいてきたかと思うと、唇が重ねられた。

三枝はそれほどキスがうまくはなかった。
それがなぜか雅也には新鮮に感じた。

三枝のペニスが雅也のアナルに入ってきた。
これまで経験したまがい物と違い適当に柔らかく温かいペニスの挿入感は最高の快感だった。
雅也はこれまでで最高に感じ狂ったように喘ぎ声をあげた。
三枝のペニスが雅也の中で全てを放出したとき初めて気を失うほどの絶頂感を感じた。

気がつくと三枝はベッドに腰かけ、煙草を吸っていた。
雅也が気がついたことに気づいた三枝は雅也の髪に手を伸ばした。
「感じやすいんだな、君は」
「三枝さんが激しいから…」

別れ際に三枝が雅也の携帯に自分の番号を登録した。
「気が向いたらまた連絡してくれますか?」
「はい」
雅也はもう一度抱かれたら三枝に溺れるような気がした。
二度と会うことはないだろうなと思いながら三枝と別れた。


ある日いつものように由布子と女友達として買い物を楽しんでいた。
そして立ち寄ったカフェで由布子は神妙な面持ちで切り出した。
「今日はちょっと真面目な話があって」
「何よ、あらたまって」
「最近雅也のこと異性として見られなくなってきてるの」
「どういうこと?」
「もちろん雅也のことは好きなんだけど、最近"雅也"というより"雅美"としての存在が大きくなってきて」
「誰か好きな子ができたの?」
「そんなんじゃない。そんなんじゃないんだけど」
「…そう、分かった。由布子にとってあたしは雅美でしかないんだよね?」
二人は無言で目の前のものを食べた。

「今日で終わりにすればいいんだよね?」
雅也は思い切って別れを確認した。
「うん、ごめんね」
由布子は目も合わすことなく、それだけを搾り出すように言った。
「今までありがとう」
雅也は由布子の前に手を差し出した。
由布子は無言でその手に軽く触れたかと思うと、急に振り返って走り去った。
雅也の右手が所在なげに宙に残された。

実は雅也も徐々に由布子を同性のように考えるようになっていた。
でも自分たちはレズなんだからそれが当たり前だと思っていた。
だからこういう日がくることは全く考えていなかった。
急に訪れた破局に精神的に不安定になっていた。

そんな雅也の頭になぜか三枝の顔が大きく占めた。
雅也は三枝に電話した。
そしてすぐに会いたいとだけ伝えた。

「どうかしたの?」
久しぶりに会った三枝は優しかった。
「ううん、ただ会いたくなっただけ」
「それでも僕は嬉しいよ」
雅也は目の前の三枝の胸に飛び込みたかった。
しかし二度目でいきなりそんな行動に出ることは躊躇われた。
そんな雅也の気持ちを読み取ったかのように、三枝は雅也を引き寄せ静かに抱きしめた。
「三枝さん…」
雅也はそんな三枝の優しさが嬉しかった。

部屋に入ると三枝は荒々しくキスをした。
雅也は三枝のペニスを銜えた。
雅也にとって初めてのフェラチオだったが、三枝に喜んでほしくて何のためらいもなく銜えることができた。
ペニスの先に舌をあてるとビクンと反応する。
雅也は三枝の中で三枝と離れまいと決めていた。

雅也は卒業するとすぐ三枝のアパートに転がり込んだ。
24時間女の格好をして三枝の妻のように振る舞っていた。
実際隣近所からは「三枝さん」と呼ばれ、三枝の妻と認識されていた。
女性ホルモンを摂るようになり、小さいが乳房らしきものも形成されていた。
女性の身体に近づいていることはもちろん、抱かれたときの感じ方がずっと強くなったのが嬉しかった。

「それじゃ、あなた、行ってらっしゃい。早く帰ってきてね」
毎日三枝を送り出し、帰ってくるのを待つこと、そして三枝に抱かれること。
それだけが雅也の喜びだった。

三枝さえ許してくれれば、すぐにでも性適合化手術を受けたかった。
戸籍を女性にすれば結婚できるかもしれないからだ。
しかし三枝はそんなことは全然言ってくれる気配がなかった。
男の身体のままだから愛してくれるのかもしれない。
女性の身体になってしまえば、それは破局を意味するのかもしれない。
そう思うと何も言えなかった。

三枝と離れたくない。
この一瞬の幸せのため、男の身体のまま女性として着飾っているのだ。
結局は人と人との駆け引き。
それで、幸福と不幸は決まってしまう。
だって人生はゲームなのだから。


《完》

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