自業自得な入れ替わり



「結婚してください」
寺居俊和は恋人の高橋夏帆にプロポーズした。
「でも、あたしは…」
夏帆は明確な返事ができなかった。
「僕は夏帆がそばにいてくれるだけでいいんだ」
俊和は懇願するように夏帆の顔を覗き込んだ。

俊和と夏帆は大学のサークルで知り合った。
夏帆は色白でおとなしく、とても可愛い女性だった。
俊和にとってまさに一目惚れだった。
それまで内気で、自分の気持ちを表に出すこともできず、女性と交際すらしたことのない俊和だった。
しかし、夏帆にはなぜか積極的に交際を申し込むことができた。

思いもかけないYesの返事をもらえた俊和は、その日から夏帆を中心とした生活が始まった。
学部が違うため授業に一緒に出ることはないはずなのだが、自分の授業をサボってでも夏帆と同じ授業を受けることもあった。
昼食はもちろんいつも一緒。
サークルが終わっても行動をともにした。
とにかく少しでも長く夏帆と同じ時間を過ごしたかった。

そして社会人になったことをきっかけに、当然のようにプロポーズしたのだった。
夏帆はなかなか思い切れないようだった。
「これからの僕の人生に夏帆が絶対に必要なんだ」
俊和は夏帆の手を握った。
「本当にあたしでいいの?」
「もちろんだよ」
「だってあたし、俊ちゃんの気持ちを100%受け止めることができないんだよ。それでもいいの?」
「夏帆が僕のそばにいてくれればいんだ」
「ホントに?」
「うん」
「ホントにあたしなんかでいいの?」
「夏帆じゃなきゃダメなんだ」
「そんなにあたしのことを…」
夏帆は何かを思い切ろうとしているように見えた。
そして次の瞬間、飛び切りの笑顔で答えてくれた。
「はい、よろしくお願いします」
こうして俊和と夏帆は結婚した。

結婚しても二人の仲の良さは続いた。
しかしそれはプラトニックラブのようなものだった。
夏帆は昔 親戚の叔父にレープされたことがあった。
それがトラウマとなって、男性との接触に極度に緊張する傾向があるのだ。
しかし、俊和に対しては普通の男性に対して抱く警戒心を全く持たなかった。
それは俊和が優しく綺麗好きで粗野なところのない男性だったこともあるのだろう。
そしてそれが夏帆が俊和からの交際の申し込みに応じた理由だった。

しかし、つき合うようになって何回目かのデートのときだった。
俊和がデートのときに夏帆の手を握ろうとした。
それは好きな男の子が好きな女の子の手にそっと触れる程度のものだった。
その瞬間、異常なまでの悲鳴が辺りに響いた。
それは警察が駆けつける騒ぎにまでなった。

やがて落ち着きを取り戻した夏帆から昔の事件を聞いた。
「あたしのこと嫌いになったでしょ?」
夏帆は目に涙を浮かべていた。
しかし俊和の気持ちは全く揺らぐことはなかった。
「そんな嫌な過去のことなんか忘れようよ。僕は今の夏帆が好きなんだから」
俊和の言葉に嘘がないことを悟った夏帆は俊和の胸に飛び込んだ。

結婚してからも、そんな状況は続いていた。

結婚すれば夏帆に心的な変化が起こることを俊和が期待していたことは否めない。
しかしそれは見事に裏切られた。
軽く抱きしめるくらいなら問題はなかった。
しかし夏帆の自由を奪うように強く抱きしめるとパニック状態になった。
唇どうしが軽く触れ合う程度のキスなら問題はなかった。
セックスを想像させるような濃厚なキスなどできそうもなかった。

それでも毎晩寝るときには二人で手をつないで寝ていた。
「ごめんね」
「いいんだ、僕は夏帆が一緒にいてくれるだけでいいから」
毎晩同じ会話の繰り返しだった。
俊和は幸せだったが、大好きな夏帆を抱くこともできず欲求不満でもあった。



結婚して半年ほどが過ぎた夜だった。
いつものように「ごめん」「いいんだ」という不毛な会話があった後に夏帆が思わず呟いた。
「あたし、俊ちゃんの赤ちゃんが欲しいな」
「えっ?」
「あたし、俊ちゃんの赤ちゃんを産みたいの」
「………」
「今の自分じゃ到底無理なことは分かってる。でもあたし俊ちゃんの子供が欲しいの」
夏帆は俊和の胸に顔をあて泣きじゃくった。
俊和が欲求不満を抱えていたのと同様に夏帆も自分の思いを吐露できずに苦しんでいたんだ。
そう思うと、夏帆の肩に手を置いただけで俊和は何も言えなかった。

朝になった。
二人はいつの間にか眠ってしまっていた。
俊和は目覚めたときにある考えが浮かんだ。
「夏帆、赤ちゃんが必ず授かるという子授神社に行ってみないか?何かご利益があるかもしれないだろ?」
俊和と夏帆は赤ちゃんが授かるといわれている子授神社を参拝した。
「どうかあたしと俊ちゃんに可愛い赤ちゃんが授かりますように」
夏帆は真剣にお祈りした。
俊和はそんな夏帆の横顔を見ながら思った。
何とかして夏帆の願いを叶えてあげたいと。

その晩、夢を見た。

俊和と夏帆は霧の中を歩いていた。
どのくらい歩いただろう。
長い距離を歩くと、目の前に漫画に出てくるような頭の禿げた白い髭の仙人のような老人が立っていた。
「どんなことをしてでも子供が欲しいんじゃな?」
仙人のような老人は何の前触れもなく急に切り出した。
「はい」
夏帆は何の躊躇いもなく答えた。
「じゃがアンタは男に抱かれることはできない」
「はい」
夏帆は悲しそうだった。
「じゃったらおぬしが抱かれるしかなかろう」
仙人のような老人はおもむろに俊和の方を向いた。
「えっ?」
俊和は老人の言っている意味が分からなかった。
「あの行為ができんと言われたらさすがのわしも打つ手がない。何とか交わるようにすることを考えるしか仕方がなかろう」
老人はニヤリと笑った。
「じゃったら、抱かれることに抵抗のない者が抱かれればよかろうということじゃ」
「僕が女になるってこと?」
俊和は自分なりに理解したことを聞いてみた。
「一生とは言わん。子作りが終わるまでの辛抱じゃ。アンタらは妊娠したら元通りに戻れる。どうじゃ、やってみるか?」
「ねえ、やってみようよ。あたし、俊ちゃんの赤ちゃんが欲しいんだもん」
何にも代えがたい夏帆の笑顔だった。
この笑顔のためだったら何でもできると思えた。
「分かったよ、どうすればいい?」
俊和は仙人のような老人に聞いた。
「わしがお膳立てするからあとは頑張るだけじゃ、ふぉっふぉっふぉっふぉっ」
不思議な笑い声を響かせ、老人の姿は少しずつ見えなくなっていった。

俊和は目を覚ました。
枕元のデジタル時計は午前1時7分を示していた。
(まだ1時か)
再び寝ようとしたときに隣に寝ている姿が目に入った。
隣では"自分"が眠っていた。


「えっ?」
俊和は身体を起こした。
目の前に長い髪が落ちてきた。
慌てて自分の身体を見た。
暗くてよく分からないが夏帆のパジャマを着ていた。
胸には柔らかな膨らみを感じた。
「うわぁぁぁぁぁ」
俊和は叫んだ。
その叫び声に隣に寝ている"自分"が目を覚ました。
「どうしたの?こんな真夜中に」
上半身を起こした"自分"はまるでおかまだった。
「夏帆か?」
俊和は恐る恐る聞いた。
「えっ、あたしがいる?」
「僕だよ、俊和だよ」
「えっ、俊和なの?じゃ、あたしは?」
「夏帆は僕になっている。僕たち、入れ替わったみたいだ」
「えぇ、うそぉー」

俊和は自分が見た夢の話をした。
驚くことに夏帆も同じ夢を見ていた。
「それじゃ夢の中のおじいさんが言ってたお膳立てってこのことだったのね?」
俊和の姿をした夏帆が言った。まるでおかまみたいだ。
「じゃ、おじいさんのお膳立てに応えて、やってみる?」
「何を?」
「セックス」
「いやよ」
「でもそれじゃ元に戻れないよ」
「それもいや」
「そんなわがままばかり言ってたらどうしようもないよ」
俊和は夏帆を抱きしめた。
いつものように身を硬くしている。
しかしいつもほどではなさそうに感じる。
俊和はゆっくりと唇を合わせた。
舌で夏帆の唇に沿って舐めてみた。
拒絶されるかと思ったが意外と問題なさそうだ。
夏帆は唇が半開きになった。
夏帆のペニスが大きくなっていることがパジャマ越しに感じられる。

「夏帆、横になって」
俊和は夏帆に覆いかぶさって抱きしめた。強く強く。
しかし夏帆がパニックになる兆候は全く表れなかった。
やはり男の身体であることは夏帆の心理に大きな影響を与えているようだった。
俊和は唇を押し当て、夏帆の口に割って入るように夏帆の口の中を舐めまわった。
10分近く激しいキスを続けた。
その間夏帆は俊和の行為に応え続けた。
もうパニックになることはないだろうと思い、俊和は夏帆のパジャマのボタンを外した。
そして乳首を舐めた。
男の乳首を、しかも自分の乳首を舐めることになろうとは思いもしなかった。
「夏帆、気持ちいい?」
「ぅ…ん……」
俊和は右胸の乳首を舐めて、右の手のひらで左胸の乳首を転がすようにした。
「んん………気持ちいい……」
俊和は右手を股間に持っていった。
パジャマの上からそのいきり立ったペニスを握ったり揉んだりさすったりした。
ペニスがまるで生き物のようにピクンピクンと反応する。
元々自分のものなのだが、俊和にとってはそれが面白かった。

「今度は僕を気持ちよくさせて」
「わかったわ」
今度は俊和が仰向けに寝て、夏帆が上になった。
俊和は黙ってパジャマのボタンを外した。
綺麗な乳房がプルンと顔を出した。
夏帆は自分がされたように乳首に舌を這わせた。
「ぁ…ふん……」
俊和は思わず声を出してしまった。
夏帆はそんな喘ぎ声は聞こえないかのように一心不乱に乳首を舐めた。
「あっ、もうおかしくなりそう」
俊和は胸から全身に広がる快感に翻弄されていた。

単調で執拗なまでの乳首への愛撫に、下着の中では十分すぎるほどの湿り気を帯びていることが感じ取れた。
「夏…夏帆。もういいよ。僕の準備ができたようだから入れてみて」
「いやっ、そんなことできない」
「だってそうしなきゃ子供はできないんだよ」
「そんなこと言ったって無理よ」
「仕方ないなあ」
再び俊和が起き上がり、夏帆が仰向けになった。
俊和はパジャマを脱ぎ、自分の愛液で濡れたショーツも取り、全裸になった。
そして、夏帆のブリーフを剥ぎ取った。
そこにはやや柔らかくなった夏帆のペニスがあった。
そのペニスの先に指で刺激を与えた。
夏帆のペニスはすぐに元の硬度に戻った。
俊和は膝で立った状態で、夏帆のペニスの上に跨った。
「行くよ」
俊和は右手でペニスの位置を固定し、そこにゆっくりと腰を沈めた。
おしりにペニスの先が当たると膣口の位置にペニスの先を定めた。
さらにゆっくりと腰を沈めた。
「ぅんん………」
本来あるはずのない器官に異物が入ってくる感触に俊和はとまどっていた。
少しの痛みがあり、しかも、何とも言えない違和感があった。
「あたしの中ってあったかくって気持ちいい」
夏帆は恍惚の表情を浮かべていた。
「夏帆、動くよ」
俊和は腰を上下に動かした。
しかし自分が動く度に押し寄せてくる違和感にうまく身体を制御できなかった。
一度動く度に腰砕けのようになってしまう。
それでも何とか踏ん張って腰を動かし続けた。

「俊ちゃん、今度はあたしが」
見るに見かねたのか夏帆が身体を起こした。
「みゃん」
その拍子にペニスが俊和の中から抜け出し、思わぬ感触に俊和は不思議な声をあげた。
夏帆は入れるべき場所が分からなかった。
俊和は手でペニスを自分の膣口に導いた。
「そのまま腰を前に出してみて」
「こう?」
夏帆は一気にペニスを突きたてた。
「ぁうっ」
「ごめんなさい。痛かった?」
「あっ、いやっ、大丈夫、大丈夫だから。夏帆、腰を動かしてみて」
「えっ、こう?」
夏帆は腰をゆっくりと動かした。
「ああん」
「ごめんなさい」
「いや、大丈夫から続けて」
「ううん」
夏帆はゆっくり抽送を始めた。
少しだけ痛みがあったが、それはすぐに快感に変わった。
「あっすごい俊ちゃんがあたしのを締め付けてる気持ちいい」
「夏帆…あっ……い…いいんんっ………」
夏帆の腰の動きが激しくなった。
俊和は何かを考えられる状態ではなかった。
「んっんっんっんっんっ………」
「俊ちゃん何か出そう」
「あ…夏帆……来てぇぇぇ………」
夏帆が激しく腰を打ちつけ急に動きを止めた。
その途端、俊和の中に熱いものが放たれたのを感じた。
「ああぁぁぁぁ………」
俊和は痙攣して身体を反らすようにした。
夏帆は全てを出し尽くしたためか力が入らないようだった。
「立場は変わったけど、これで僕と夏帆は結ばれたんだね」
「うん、嬉しい」
俊和と夏帆は再び熱いキスをした。
そして二度目のセックスに突入した。



「このまま元に戻らなかったら明日からの会社はどうしよう?」
何度も交わってクタクタになったときに俊和が呟いた。
「あたし、俊ちゃんの代わりなんてできないわ」
「誰かにフォローしてもらうしかないね?」
俊和は少しの間考えを巡らせた。
「先輩に頼んでみようと思うんだ」
「先輩って?」
「原田さんっていうんだけど、僕のこと可愛がってくれてるんだ。だからお願いしたらうまくやってくれるかもしれない」

俊和は先輩の原田真一に電話をかけた。
「もしもし、原田先輩ですか?」
「あっ、ああ、原田だけど、君は?」
「僕ですよ、寺居です」
真一の声を聞いたことで、俊和は自分が夏帆の姿になっていることを忘れてしまっていた。
「寺居?俺が知っている寺居って男だけど、君、女の子だろ?」
一瞬真一の言葉の意味が分からなかったが、すぐに今の状況を思い出した。
「あっああ…そ、そう寺居の妻の夏帆と言います。主人がいつもお世話になってます」
俊和は仕方なく夏帆の振りをすることにした。
まずは会えるようにすることが先決だと判断したのだった。
「ああ、寺居の奥さんでしたか?で、何か?」
「少し相談事がありまして」
「相談事?相談というと寺居が何か?」
「電話じゃちょっと…。直接お会いして相談させていただきたいので、原田さんのお宅にお邪魔してよろしいでしょうか?」
「いいですけど、奥さんは俺が住んでるとこ、ご存じないですよね?どこかで待ち合わせしましょうか?」
「いえ、できればあまり人目につかない方がいいので。ぜひ原田さんのところにお邪魔させていただけないでしょうか?」
「それじゃ場所を説明しましょうか」
「いえ、主人と一緒に参りますので。主人は存じ上げてますでしょ?」
「あっ、ああ、寺居は俺の家、知ってますから大丈夫だと思います」
「ではあと1時間ほどしたらお邪魔しますので、よろしくお願いします」
「あぁ、はい。それじゃ」
俊和は電話を切った。

「それじゃ行こうか」
俊和は夏帆に向かって言った。
「うん」
二人は服を着ようとした。
「あっ」
「だよね?」
二人は入れ替わっているのだから、服装も入れ替えないといけない。
それに気がついたのだ。
俊和は夏帆のショーツを手に取った。
愛液がついていて穿く気になれなかった。
それを察知したのか夏帆は新しい下着を出してくれた。
「俊ちゃん、下着はそれを着てね」
夏帆はすでに俊和の服を着ていた。
俊和は言われるままに夏帆の用意した下着を身につけた。
「はい、パンスト」
「これも穿かないといけないのか?」
「ええ、もちろん。伝線にならないようにきちんと丸めてね」
「はいはい」
俊和は夏帆に見られながらパンストを穿いた。
生まれて初めて身につけたが何とも言えないいい感触だった。
「服はこれね」
準備されたのは白いブラウスと白いジャケットとスカートだった。
「スカートはやめてくれよ」
「だって知らない人のところに行くのに変な格好できないでしょ?それにあたしスカートしか持ってないもの」
「夏帆のそういうところは好きなんだけど、僕までそうする必要はないだろ?」
「でも俊ちゃんは今あたしなのよ。あたしとして恥ずかしくないようにしてね」
「でも……」
「何?」
「分かったよ」
俊和は夏帆の視線が恐く、仕方なく夏帆が出したスカートを穿いた。
「それじゃお化粧するからここに座って」
「はいはい」
俊和は食卓の椅子に座った。
「はい、それじゃ、じっとしててね」
目の前のおかまの自分が化粧道具を持って自分の顔をいじり回している。
それを考えると笑いそうになった。
「笑わないでじっとしてて」
夏帆から注意された。
俊和は何も考えないようにしてじっとすることに専念することにした。
「はい、できあがり」
何となく顔の表面が薄い膜に覆われたみたいな感じだった。
唇には変な油を塗られたように感じた。
しかし鏡を見るといつもの可愛い夏帆の顔があった。
「歩くときはあまり大股にならないように気をつけてね」
「分かったよ」
「それじゃ行きましょうか」
玄関に置かれた靴を見た。
「ハイヒール?」
「もちろんよ」
「分かったよ」
俊和は夏帆の肩を借りながらハイヒールを履いた。
なれないハイヒールは歩きづらく、ずっと夏帆の腕にしがみついていた。
周りから見るととても仲の良いカップルに見えていた。


二人は真一の家に行き、呼び鈴を鳴らした。
「はい、今開けます」
中から真一の声がし、バタバタ走る音が聞こえたかと思うと扉が開いた。
「おぉ、寺居か。まああがれよ」
俊和は夏帆を先に入れた。
「お邪魔します」
二人は玄関先に立っていた。
「その辺に適当に座ってくれるか」
二人は靴を脱ぎ、適当に空いているスペースに座った。
夏帆は何も言わなかった。
仕方なく俊和が切り出した。
「あっ、あの先輩…」
「ん?」
「あの先輩から見ると僕は妻の夏帆に見えると思うんですけど、僕が俊和なんです」
「えっ、何だって?」
「僕が俊和で、そこにいる俊和の姿をしてるのが妻の夏帆なんです」
「言ってる意味が分からない」
俊和は子授神社のこと、夢のことを話した。
「で、目が覚めたら、入れ替わってたというのか?どこのどいつがそんな馬鹿げた話を信じるんだ?お前たち二人で俺をかつごうとしてるんだろ?」
「先輩、信じてください」
「信じろって言われてもな。まあ、いい。信じたとしよう。で俺に何をしろって言うんだ。言っとくが俺にはお前たちを戻すことはできないからな」
「そんな夢みたいなお願いをしにきたんじゃありません。もしこのまま元に戻らなければ夏帆に寺居俊和として会社に行ってもらわないといけません。でも彼女は会社のことは何も知りません。だから先輩にフォローをお願いしたいんです」
「なるほどな。至極現実的な対応だな。ということはやっぱり入れ替わったって話もあながち信じないわけにはいかないな」
「すみません。こんなことお願いできるのは先輩しかいません。よろしくお願いします」
俊和のそんな言葉にようやく夏帆も言葉を発した。
「よろしくお願いします。誰かがフォローしてくれないとあたしどうしていいか」
泣いているようだった。
そんな姿を見て真一は言った。
「まるでおかまだな。でも中身は奥さんだから仕方ないか。分かった、まだ信じたわけじゃないけど、何とか俺でフォローできることはフォローするようにしよう。ただし、会社の大体のことは今夜中にお前から奥さんに教えてやってくれ」
「分かりました。ありがとうございます」

俊和と夏帆はそのまま会社のある浜松町に行き、駅から会社までの道を夏帆に教えた。
ビルの保安室で事務所に入れてもらうようお願いして事務所に入れてもらった。
そこでは席や周りの社員の名前などを紙に書きながら教えた。
実際の職場を見たことで夏帆は少し安心したようだった。
「あとはなるようにしかならないわね」
「うん、だけど、その言葉遣いは何とかしないとな」
「そうね。でも俊ちゃんもね」
「そうだね」
ようやく夏帆に余裕が出てきたようだった。



次の日、夏帆が出勤する時間になった。
「夏帆、本当に大丈夫?」
「何とかなるでしょ。そう思わないとやってられないもん。大丈夫じゃない?それじゃ行ってくるわね」
「うん、気をつけて」
夏帆が出かけるのを見届けると俊和は真一に電話をした。
「あっ、原田先輩ですか?寺居です」
「ああ、寺居か?」
「今日からよろしくお願いします」
「ということはまだ入れ替わったままなのか?」
「はい、だからよろしくお願いします」
「ああ、分かってるって。任しときなって」
俊和は真一に再度お願いして電話を切った。

俊和が家で家事をしていてもなかなか落ち着かなかった。
軽い昼食をとっていると、電話がかかってきた。
真一からだった。
「おお俺だ、原田だ。お前のかみさん、なかなかうまくやってるぜ」
「そうですか」
「もしかしたらお前より仕事ができるかもな。とにかく心配はいらないみたいだから安心しな。うまいもんでも作って愛するかみさんの帰りを待ってればいいさ」
「はい、分かりました。連絡ありがとうございました」
「おぉ、これからもチョクチョク連絡入れるからな」
俊和は真一の心遣いが嬉しかった。

夏帆が帰ってきたのは8時過ぎだった。
「お帰り」
「ただいま。ああ、疲れた〜」
「どうだった?」
「何とかできたと思う。原田さんもいろいろフォローしてくれたし」
「ご飯食べる?」
「へぇ、作ってくれたんだ」
夏帆は食卓についた。
「おいしそう。すごいね、俊ちゃん料理上手じゃん。一生懸命働いて帰ってきたら、可愛い奥さんが晩ご飯を作って待っていてくれるっていいわね。あたし、このまま俊ちゃんのままでもいいかも」
「そんなの僕が困るよ。早く赤ちゃん作ろっ、ねっ?」

入れ替わりの生活は大きな問題もなく過ぎていった。
すっかり夏帆は俊和としてサラリーマンしていた。
時々連絡をくれる原田曰く「お前より仕事ができる」んだそうだ。
夜は夜で健全な夫婦生活に励んだが、一向に元に戻る気配はなかった。

「明日から週末まで大阪に出張になっちゃった」
入れ替わって3ヶ月が経ったときに、夏帆が帰ってきて開口一番こう言った。
「えぇ、3日も会えないなんて」
「俊ちゃんは一人で大丈夫?」
「ああ、大丈夫だと思う」
「油断しないでね。一応女性なんだから戸締まりはきちんとしてよ」
こうして結婚してから初めて俊和と夏帆は離ればなれになることになった。

次の日、俊和は残り物で昼食を済ませ、晩ごはんはどうしようかなと考えていたときに電話が鳴った。
「おっ、寺居か?今日は旦那が大阪だろ?どうだ、久しぶりに飲みに行かないか?」
日ごろずっと専業主婦している俊和にとっては魅力的な誘いだった。
「はい、行きます。一人で家にいるのは寂しいと思ってたんです」
俊和は顔馴染みの真一との酒ということもあり、気を許して飲んだ。
しかし、夏帆の身体にはアルコールが多すぎたようだ。
やばいと思ったときはすでにやばい状態を通り越していた。
やがて、テーブルに突っ伏して眠ってしまった。
(据え膳食わぬは、だよな)
真一は俊和をラブホテルに連れて行った。


部屋に入ると真一は俊和を抱きしめてキスしようとした。
「先輩、やめてくらさいよ」
呂律の回らない状態で俊和は抵抗した。
真一は俊和を力強く抱きしめ唇を重ねた。
「んんんんん………」
俊和は何とか離れようともがくが、真一にしっかり抱きしめられて逃げることができなかった。
「もうっ、先輩ってホモれすかぁ?」
長いキスが終わって、ようやく口が自由になると俊和が文句を言った。
そんな言葉を無視して真一は俊和をベッドのほうへ押した。
「きゃっ」
可愛い声を出して俊和はベッドに倒れ込んだ。
スカートは捲くれあがりショーツが丸出しの状態になった。
真一は素早くショーツを脱がせた。
「後輩の男がこんないやらしいオマンコをつけてるなんてすっげえ興奮するな」
真一はオマンコに顔を近づけた。
「おしっこ臭くっていい匂いだ」
「先輩。やめてくらさい。恥ずかしいれす。明かりを消してくらさい」
俊和は口では恥ずかしがっているが、抵抗する様子はなかった。
「電気を消したらせっかくの寺居のオマンコが拝めなくなるじゃないか。オマンコを眺めながら、味見をしたいんだよ」
真一は俊和の脚を持ち大きく広げた。
そして割れ目に舌を這わせた。
「あぁらめ先輩やめてくらさい」
俊和は襲ってくる快感に流されてしまいそうだった。
それを防ぐかのようにシーツをしっかり握り締めていた。
『ペチャッペチャッペチャッペチャッペチャッペチャッ』
いやらしい音が長い時間続いた。
俊和は2度ほど意識がなくなった。
「お前のジュースの味は濃厚だな。それじゃそろそろ入れさせてもらおうか」
真一はペニスは何の抵抗もなく俊和の中に入った。
そして激しく抽送した。
「あっあっあっあっあっ………」
俊和は真一の腰の動きに合わせるかのように声を出した。
夏帆になってから何度も俊和になった夏帆とセックスしそれなりに感じてはいたが、真一とのセックスはこれまでに感じたことのないほどの快感だった。
俊和は真一との相性の良さを感じていた。
実際はアルコールのせいなのかもしれないが、冷静なことを感じられる状態ではなかった。
「寺居、お前のオマンコは最高だ」
「先輩先輩先輩………」
俊和は真一の性を欲していた。
真一の動きは激しさを増した。
「寺居もう我慢できない」
「先輩…中は…中はダメれす」
「ああダメだ。出るぅ〜〜〜」
中に出してはいけないという意識があったが、アルコールのせいか真一は自制がきかなかった。
真一のペニスから俊和の中に大量の精液が出された。
「熱いものが……あああああ……すごい…いくぅ……………」
俊和も絶頂を迎えた。

「寺居、もう1回いいか」
「はい」
俊和の頭には夏帆の存在はなかった。
もう一度抱いて欲しいという欲求だけだった。
俊和は全裸にされた。
今度は胸を執拗に愛撫された。
「先輩…あぁぁ……先輩………」
俊和は真一の頭を抱きしめた。
そして俊和は真一の刺激に声をあげ続けていた。
再び真一のペニスが俊和の中に入ってきた。
「気持ちいい…」
真一は腰を激しく動かした。
「あっあっあっあっ……すごい……きて…先輩………」
「出すぞ」
「きてぇ………」
もう二人にも自制心なんてものはなかった。
真一はありったけの精子を俊和の中に放った。
俊和は一滴も逃すまいというふうに真一のペニスを精一杯締め付けた。
「あぁぁ………先輩………」
俊和はこれまでで最も激しい快感に身も心も委ねていた。
快感はいつまでも続いた。
指一本動かすことすら面倒に感じた。
激しい息遣いがやがて静かな寝息に変わっていった。



真一は寒さで目を覚ました。
(寒いな。そうか、あのまま寝ちゃったんだ)
何となく頭が痛い。
二日酔いのような痛みだ。
(昨夜はそんなに飲んでなかったよな?どうしたんだろう?)
部屋の電気はついたままだった。
真一は身体を起こした。
ベッドの横には鏡がある。
その鏡に映った女が自分を見ている。
(えっ?)
真一は自分の身体を見た。
乳房があった。
真一はその乳房に手を当ててみた。
胸から手に触られている感触が伝わってくる。
(本物だ)
鏡に映った女は自分だったのだ。
隣で気持ち良さそうに寝ている男の顔を見た。
「どっ、どうして?」
"自分"だった。
「おい、どうなってんだ?」
真一は隣に寝ている"自分"の身体を揺さぶった。
"自分"の身体から「う〜ん」といううめき声がして目を擦りながら上半身を起こした。
「あれっ夏帆じゃないか?僕たち、元に戻れたの?」
"自分"の身体をした男はそんなことを言った。
「何言ってんだ?俺だよ、原田真一だよ」
「えっ?先輩なんですか?」
どうやら俊和が真一の身体に入っているようだ。
「そうだ、原田だ。お前は寺居だよな?お前は今 俺になってる」
「僕が先輩に?」
それを聞いて、俊和は何かを考えているようだった。
「なるほど。多分ですけど、多分、先輩が妊娠したから"元に戻った"んですよ」
「元に戻ったってどういうことだ?」
真一は俊和が言っている意味が分からなかった。
「僕と夏帆は子供を作るために不思議な力で入れ替わったんです。入れ替わるときに見た夢で、妊娠したら元に戻るって夢の中の老人に言われたんです。だからセックスして妊娠したら夏帆と僕は再び入れ替わることになっていたはずなんです。言い換えると夏帆になった僕が妊娠したら相手の男性と入れ替わることになっていたんだと思います。さっきのセックスで夏帆になっている僕と先輩が入れ替わったのなら、今の夏帆の身体はさっきのセックスで妊娠したってことなんだと思います」
俊和は夏帆になった真一のお腹の辺りを見つめていた。
「この身体が妊娠?」
真一は自分のお腹に手を当てた。
「そうです。父親は先輩です」
「そんな!」
ちょっとした出来心で女になった後輩を抱いたばっかりに、女になってしまい、しかもその女の身体には赤ちゃんができており、その父親は自分だと言う。
真一は予想もしていなかった現実の前に愕然とした。


そんな真一を俊和が抱きしめてきた。
「先輩、僕まだ一度も夏帆を抱いたことがなかったんですよ。だから、いいですよね?」
「よせ、気色悪い」
抵抗しようと暴れる真一の両腕を押さえつけて俊和は真一の乳房に舌を這わせた。
「ぁ…やめろ……んんん………」
「先輩、気持ちいいでしょ?気持ちよければもっと大きな声を出していいんですよ」
「誰がっ……ぁん…」
「そんなに強がらなくてもいいじゃないですか。しっかり女の子の反応してるんだし」
俊和は真一の割れ目に指を滑り込ませた。
「先輩。今からクリトリスを触りますよ。僕が初めて触られたときは本当におかしくなるんじゃないかと思いましたよ」
俊和は小さな突起物に優しく触れた。
「あぅ…やめろ……」
「あんまり乱暴にすると痛いんですよね?だからこうして優しく」
「あああああ……すごい……やめろ…やめてくれ……………」
俊和は優しくクリトリスに刺激を与え続けた。
「すごく濡れてますね、まるでおもらししたみたいじゃないですか」
「………」
真一は言葉を発する余裕すらなくなっていた。
「それじゃいきますね」
俊和は真一の中にペニスを挿入した。
「んっ」
「やっと夏帆と一緒になれた」
「お前は満足でも俺は気持ち悪いんだ。早く抜いてくれ」
「もう先輩ったら。もっと夏帆らしくしてくれないと雰囲気ぶち壊しじゃないですか。動きますよ」
俊和は真一の締め付けを感じながら抽送した。
「先輩、気持ちいいですか?」
「誰がっ」
「素直になった方がいいですよ」
俊和は間断なく抽送し続けた。
「さすがにもう2回も射精したからなかなか出そうにないですね。まあゆっくりやりましょう」
「んっんっんっんっんっ……………」
真一は激しい快感に何も言うことはできなかった。
30分近く動かし続けただろうか。ようやく出そうな感じが出てきた。
「あっあっ…先輩…出そうです……」
「もう…早く出して………」
俊和は乱暴に腰を打ちつけ、そして真一の中に放出した。
「あぁぁぁぁぁ……す…すごい………」
真一はその瞬間、身体がしびれるような最高の快感が走った。
俊和のペニスが出て行っても身体の中の快感の波はなかなかひくことはなかった。
「女ってすごいんだな」
やがて真一は意識が戻ってきていた。
「でしょ?僕なんて男としての経験もないのにいきなり女としての経験でしたから、先輩と入れ替わっての今の経験が男として初めての経験です。僕としては男の感じ方のほうがいいですね、はっきりしてて」
「それは初めてだからそう思うんだろう。絶対女のほうが気持ち良さでは上だ」
「そんなもんですかね?」
「そんなもんさ。それより」
「何ですか?」
「もう一回やろうぜ」
真一の頭には妊娠したという現実はどこかにいったようだった。
ただただセックスの喜びを知ったメスでしかなかった。
もちろん、真一の申し出に俊和は応じた。
俊和も同じように単なるオスだった。
二人はその日はもちろん次の日も盛りのついた犬や猫のように何度も何度も交わった。



夏帆が出張から戻ってくる日、俊和と真一は二人で夏帆の帰りを待った。
「ただいま。俊ちゃん、一人で大丈夫だった?」
部屋に真一の姿を見つけ、いつもと違う空気を感じたようだった。
「実は…」
言葉を発したのは真一の姿をした俊和だった。
「実は僕と先輩が入れ替わっちゃったんだ」
「えっ?どういうこと?」
「夏帆から見て原田真一に見えるのが寺居俊和で、夏帆の姿をしてるのが原田先輩なんだ」
「どうしてそんなことになったの?」
「それは」
俊和は言葉を選びながらこうなってしまった経緯を説明した。
「信じられない。信用してた二人一緒に裏切られるなんて。不潔だわ」
そう言って部屋を飛び出した。
俊和も真一も追いかける気力はなかった。

夏帆は会社に退職願を郵送していた。
さらに夏帆宛に離婚届が届いた。
届いた離婚届にはすでに夏帆が記入すべき欄が全て記入されていた。
俊和は自分の欄を記入し、真一が夏帆として離婚届を役所に提出した。
二人の離婚は成立した。

さらに予想通り、夏帆になった真一の妊娠が判明した。
それから半年後、真一は元気な男の子を産んだ。
そして俊和と真一は結婚した。

「もう一回妊娠したら元に戻るかもしれない」
真一はそう言って毎晩のように俊和とのセックスに励んだ。
もちろんそんな言い分は言い訳で、もはや女のセックスに溺れているだけだった。
真一は女性としてのセックスが好きだった。
元の自分のペニスに対してのフェラチオも躊躇なくやるようになっていた。
普段の生活の中でも少しずつだが女性らしさに磨きがかかってきた。
話し方を聞いても仕草を見ても、誰も男の精神が入っているとは思わないだろう。
真一には元々そういう素質があったのかもしれない。
予想通り元に戻ることなく、毎晩の営みが実を結んだ。
そう、真一は俊和との二人目の子供を宿したのだ。
二人目の妊娠が分かったときの真一の表情はとても幸せそうだった。

俊和はもうすぐ2歳になる息子を抱いて街を歩いていた。
隣には、臨月を迎え大きなお腹を抱えた真一がいる。
二人は仲良く手をつないでいた。

すると前の方から明らかにお腹に子供がいる可愛い彼女とその旦那らしい男が歩いてきた。
男は昔の自分だった。
(夏帆……)
俊和は思わず足をとめた。
「よっ、久しぶり」
俊和が声をかけた。
「おっ、おぉ」
俊和の姿をした夏帆は俊和の顔も見ずに答えた。
「奥さんか?」
「ああ」
「子供が生まれるんだな?」
「ああそろそろ6ヶ月になる」
「幸せなんだ?」
「ああ、もちろんだ。君らも幸せそうじゃないか。じゃあな」
夏帆はそう言うと、通り過ぎてしまった。
一緒にいた女性は軽く会釈をすると、慌てて夏帆を追った。
夏帆に追いついた女性は俊和になった夏帆に質問していた。
「俊ちゃん、今の人、どなた?」
「前の会社の先輩とその奥さん」
「奥さんって綺麗な人ね?」
「だろ?何てったって、元の僕だからな」
「えっ?何?元の何て言ったの?もしかして元カノなの?」
「まあ、そんなものかな?ははははは」
夏帆とその彼女のやりとりは痴話喧嘩のようなものだった。
そんなやりとりを聞きながら、俊和は夏帆になった真一の肩を抱いた。
「何?どうしたの?」
「いや、別に」
俊和は夏帆になった真一の顔を見て、幸せな気持ちになった。
(きっと僕たち一番いい状態で落ち着いたんだろうな)
そうなふうに思えた。


《完》

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