強姦魔



俺は梶山諒。
32歳。
平凡な公務員だ。
決して優秀な人間ではない。
どちらかというといてもいなくても分からない影の薄い存在だ。
できるだけ目立たないように、無難に言われただけの仕事しかしない。
5時になったら、即職場から出て行く。
趣味のためだ。
それは決して他人には言えない趣味だった。
強姦。
それが俺の趣味だった。

俺の手口は、行き当たりばったりの方法ではない。
きちんと計画を立ててから実行するのだ。

まず俺の好きなタイプの女を新宿駅で物色する。
好みの女が見つかれば尾行する。
一人暮らしでなければ、ターゲットから外す。
一人暮らしだと判断すると、1〜2ヶ月くらいかけて裏を取る。
徹底的に尾行する。
休日には一日をかけて監視する。
平日何時に家を出るのか
何時くらいに帰ってくるのか。
大抵の人間は行動はパターン化されている。
そのパターンが分かれば、次は実行するのみだ。

帰宅した瞬間を狙うこともある。
隣に越してきたように装うこともある。
宅配業者を装うこともある。
とにかく犯行のシナリオを念入りに作ってから犯行に及ぶのだ。
犯行の瞬間がもちろん興奮の頂点だが、その前の準備段階も俺にとってはターゲットをじわじわ追い込むかけがえのない時間なのだ。

こういうペースだから犯行は3〜4ヶ月に1度の周期になる。
犯行後にすぐに次のターゲットを捜すこともあれば、数ヶ月のブランクが空くこともある。
これまで襲った女はようやく二桁になったところだ。

初めて強姦したのは28歳のときだった。
いや、最初のアレは正確には強姦にはならないのかもしれない。
俺はただ見ていただけだったのだから。
相手は俺を振ってどこかの御曹司に走った元カノだった。
このときは5年以上付き合った女だから、生活パターンなど調べる必要はなかった。
返さないで持っていた彼女のマンションの鍵を使って部屋に入った。
まだ彼女は帰ってきていない時間を狙って、だ。
やがて、彼女が帰ってきた。
俺は彼女が開けることがないクローゼットで息を潜めてじっとタイミングをうかがっていた。
彼女が風呂に入ったときに行動を起こした。
浴室のドアの影に隠れて、彼女が出てくるのを待った。
彼女が胸の辺りにバスタオルを巻いて、頭にタオルをキャップのようにして出てきた。
俺は素早く背後からクロロホルムを含ませたタオルを口に当てた。
すぐに女は気を失った。
俺はその女をベッドに運んだ。
持ってきたロープで女の手と脚を広げるような形に固定した。
口に女のパンティを詰め、バスタオルで顔全体を覆った。
女の股間にゼリーを塗り、どでかいバイブを挿入した。
そうしてビデオカメラを設置した。
女の股間に入っているバイブがよく見えるところだ。
女が気がついたようで、「うぅぅ…」と呻き声をあげた。
俺はバイブのスイッチをつけ、ビデオカメラをスタートさせた。
女は初めは意識が朦朧としているようだが、やがてこの異常事態に気がついたようだった。
女は顔を思いっきり左右に振り、顔を覆っているバスタオルから逃れた。
そして口に入っているパンティを吐き出した。
「やめて〜!とめて〜!」
女は大声を出した。
このマンションは防音設備が整っており、ちょっとやそっとの声は漏れない。
俺は気にすることなく、女の醜態を見守った。
ロープで結んでいる手足を激しく動かしたせいで手首と足首がミミズ腫れのようになった。
女は腰を浮かせ、軽く痙攣した。
一回行ったようだ。
しかし、俺はバイブを動かし続けた。
女は声にならない声を出して、首を激しく左右に振っていた。
口からは涎が垂れていた。
その後、5〜6回絶頂を迎えたようだ。
やがてあまりの快感に気を失ってしまった。
その全てを記録に残した。
心優しい俺は彼女を固定していたロープを外してやった。
後日、動画投稿サイトにその映像を投稿し、そのアドレスと共にDVDを彼女のマンションの郵便受けに入れてやった。
しかし、女ってのは強いものだ。
何事もなかったかのように今でもその御曹司の妻でいやがる。
そのうち旦那にあの映像を見せてやろうかと思っている。
さぞ楽しい結末が待っているだろう。

強姦という意味では次の女が最初のターゲットになった。
名前は西田春子としておこう。
当然念入りの下調べをしているので、正しい名前は知っている。
しかし、本名を書いたところで、特に何も得することはない。
女性への配慮ということで、仮名を使わせてもらおう。
この西田春子はとにかく目立つ。
身長は170センチくらいはある。
モデルのように美しい。
実際調べてみたらモデルだった。
髪は腰まで伸ばして、綺麗な黒髪だ。
元カノを襲った後で、その興奮が体内に残っていた。
そんなとき新宿駅で彼女を見つけ、どうしても衝動を抑えられなかったのが強姦魔の始まりと言える。

彼女の生活は不規則だ。
朝早く出かけることもあれば夕方まで寝ていることもある。
何日か留守にすることもある。
とにかく読めないタイプだった。
しかし、ずっと継続的に生活を観察することで得るものもある。
彼女はマンションの最上階に住んでいた。
最上階と言っても7階だ。
最上階という安心からなのか夏は必ず窓を開けて寝る。
最上階は屋上からすぐに降りれるところなので、侵入するにはもってこいということをこの女は知らないらしい。
となると侵入経路は簡単だ。
屋上からベランダを通り、侵入すればいい。

後は誰かが、特に男が一緒だったりすると厄介なことになるから、その可能性の検証だ。
ずっと意識して見ていたが、この女は人を呼ばないタイプのようだ。
この部屋にいるときは全くの一人だ。

ここまで調べると後は決行日を決めるだけだ。
しかし、すでに書いたようにこの女の行動パターンが分からない。
事前にスケジュールでも手に入れば別だがそこまで踏み入るのは難しいし、危険だ。
ここは勘で決めて、そのときに窓が開いていれば決行、閉まっていればまた別の日くらいの気持ちでいくべきだろう。

とりあえず決行日を7月の最終週の日曜の夜にした。
理由は日曜は休みの可能性が高いことと次の日に備えて早く寝るだろうということだ。

果たして7月の最終週の日曜の夜、彼女の部屋の電気が点いていた。
俺は道具を入れたリュックを背負い、マンションの屋上に上がった。
彼女の部屋は電気は12時前に消えた。
数分経って再度点いたが、すぐまた消えた。
目覚ましの設定か何かを確認するためだろう。
俺はすぐにでも押し入りたい衝動を抑え、1時過ぎまで屋上で息を潜めていた。

時刻が1時15分になったとき、俺は今だと思い侵入を開始した。
逸る気持ちを抑え、ロープを使って物音を立てないように慎重に彼女のベランダに降りた。
窓はいつものように10センチ程度開けてあった。
俺はゆっくりと窓を開けて、彼女の部屋に忍び込んだ。

可愛い寝息を立てて彼女は寝ていた。
俺はクロロホルムのついたハンカチを彼女に鼻に当てた。
これでしばらくはおとなしいはずだ。
抵抗している女を襲いたい強姦魔が多いと思うが、俺は余計なことはごめんだ。
静かにやって、静かに消えていきたい。
俺は持ってきた鋏で彼女のネグリジェを下から上へジョキジョキと切った。
この時点で俺のムスコはいきり立っていた。
女は大抵寝ているときにはブラジャーはしない。
この女も同じだった。
ネグリジェを切ると、形のいいふくよかな乳房が顔を出した。
俺はショーツの両サイドを切った。
これで女の部分も拝めることになった。
なかなかいやらしいオマンコだ。
俺は持ってきたゼリーをたっぷり塗りつけ、俺のムスコを彼女のオマンコに挿入した。
相当に締りがいい。
まるで処女のようだ。
女は無意識の中にも何かを感じているようで声にならない声を出した。
俺にとってはこれが興奮のもとになる。
俺は激しく突いた。
女の中は俺のムスコをこれでもかこれでもかと締め付けてくる。
なかなかの名器だ。
俺はフィニッシュに向けて激しく突いた。
やがて俺のザーメンが女の中に注ぎ込まれた。
女の身体は痙攣したような動きを見せた。
無意識の中でも絶頂を感じたんだろう。
それにしても、もし今日が危険日だとしたら、これだけ濃厚な物を入れられたらまず間違いなく妊娠するだろう。
女は俺のムスコから最後の一滴まで吸い尽くすように締め付けてくる。

俺は女から抜け出た。
女の股の辺りは黒いシミができている。
俺は携帯を開いて、その光でそのシミの正体を確かめた。
血だった。
生理か?
いや、女は普通のショーツを穿いていた。
その日が近いなら生理用を穿くだろう。
とすると処女だったのか。
俺はその考えは正しいと思った。
少しの間の調査だったが、この女には男の影がない。
仲のいいのは女友達ばかりだった。
それをレズだと考えるといろんなことが納得いくような気がした。
これだけの美しさがあって、処女というのも納得がいく。
俺はひとりほくそえんだ。
レズの処女を強姦するなんて、なかなかできるもんじゃない。
すごくいい物にあたったような気がしたのだ。
俺は自分の持ってきた荷物をリュックに入れ、玄関から悠々と出て行った。

これは俺の強姦歴の中でも秀逸の獲物だった。
その後も何人かの獲物を襲った。

そんなある日のこと、その日は2ヶ月前から調査していた獲物をやる実行日だった。
この獲物はなかなか正体が分からず、実行にあたっても不明な点が多かった。
しかし、それ以上調べても、何も分からないような気がして、見切り発車のように実行することにしたのだ。
こんなことは初めてだった。
分からなければこれまでは中止していた。
今回は中止すらできない。
自分でもどうしてだか分からない。
ただこの獲物をやりたいという欲求に突き進んでいただけだった。

俺は獲物の部屋の鍵を持っていた。
この辺りの準備は抜かりない。
夜中になって、彼女のマンションの部屋に忍び込んだ。
真っ暗だった。
これまでのところはビデオや証明スイッチのインジケータや月明かりがあり、目を慣らすことで少しは視界が確保できた。
しかし、今回は本当に光が皆無だった。
しばらく目を慣らそうとジッとしていた。
しかし、何も見えない。
やばい!
俺の本能がそう教えていた。
俺は部屋から出ようとした。
しかしそこにあるはずのドアが存在しなかった。
俺はこの時点でパニックになっていた。
次の瞬間、甘い香りのガスが顔に吹きつけられた。
俺は気を失った。

気がつくと相変わらず真っ暗な部屋でベッドに寝かされていた。
動こうとするが動けない。
どうやら手足をベッドの四隅にロープか何かで固定されているようだ。
「うっ、何だ、これは?」
「気がついた、強姦魔さん」
黒闇から獲物にしていた女の声がした。
「俺をどうするつもりだ!?」
俺は恐怖を感じていたが、精一杯虚勢を張って言った。
「さあ、どうしようかしら?このやんちゃなおチンチンを切っちゃうってのはどう?」
「や、やめろ」
「あなた、自分の立場が分かってないようね。もっとちゃんとお願いしてくれなきゃ本当にやっちゃうわよ」
「や、や、やめてください。お願いします」
「これまであなたの犠牲になった女の子もそう思ってたのに、あなたは有無を言わさず襲ったのよね?」
「!?」
「どうして私が知ってるか不思議でしょうね。でも私は知ってるの。あなたは自分の罪のために、これから殺されるのよ、今までの女の子の恨みで」
「やめてください。もう絶対しませんから」
「もう遅いわ。あなたは多くの罪を重ねすぎたの。ちょっと腕がチクッとするけど、我慢してね」
俺は腕に注射の針が刺さったのを感じた。
「死ぬのは嫌だ…」
俺はすぐに気を失った。

俺は少しずつ意識を取り戻しつつあった。
股間が何か変だ。
何かが動いている。
手足を動かそうとしたが注射を打たれたときのように固定されているようだ。
しかも顔を何かで覆われている。
口には声を出せないようにするために、何かが入れられていた。
相変わらず俺の股間で何かがうごめいている。
俺は顔を思いっきり左右に振り、顔を覆っている何かから逃れた。
そして口に入っている物を吐き出した。
「やめて〜!とめて〜!」
俺は大声を出した。
(何だ、今の声は。まるで女じゃねえか)
俺は股間の異様な動きに快感を感じていた。
「…ぁ…ぁ…ぁん…ぁあん……やめて……」
俺は快感のままに身体を動かそうとしたが、ロープが食い込んで手足が痛い。
それでも襲ってくる快感の中、無意識に腰を浮かせ、やがて絶頂を迎えた。
一瞬気を失った。
しかし、なおも股間に入れられた物の動きは止まらない。
「もう…やめて……おかしく…なる……」
俺は闇の中、気味の悪いを笑みを浮かべている"俺"の顔を見つけた。
状況が分かった。
俺は元カノになって、彼女の経験したことを経験しているのだと。
女になって、"俺"に襲われているのだと。
ものすごい恐怖感だった。
しかし、相変わらず身体は経験したことのない快感に攻められてくる。
俺は、言葉にならない声を出して、首を激しく左右に振った。
心の中は恐怖心と絶望感だけが占めていた。
俺の口からは涎が垂れていた。
その後、5〜6回絶頂を迎えた。
やがて容量を越えた快感に気を失ってしまった。

次に気がついたとき俺は服を鋏で切られているところだった。
気がついたと言っても、身体の自由は聞かない。
意識は眠っている(眠らされている)が、俺の意識だけが覚醒しているようだった。
男が俺のネグリジェを切ると、男の前に乳房が現れた。
男はそれを一瞥しただけで、ショーツにも鋏を入れた。
そしてショーツを取り、冷たいゼリー状のものを俺の股間につけた。
そして間髪を入れず、俺の股間に男のペニスが入ってきた。
(痛い!)
俺は叫びたかったが、何も言えなかった。
俺の上で、男は激しく動いた。
俺は痛みに耐えた。
男が思いっきり突きあげたとき、不覚にも俺も感じてしまった。
(私の清らかな身体に乱暴したあいつを許さない、絶対!)
女の意識が俺の意識に入ってきた、見も知らぬ男に純潔を奪われた怒りが。
(結婚するまでは大好きな彼でさえ拒んできたのに)
俺はレズと思ったのだが、ただ単に身持ちが固かっただけのようだ。

俺は延べ13人の"俺"に犯された。
俺は女の恨みを実感し、自分の犯した罪の大きさに慄いた。
"俺"のやり方はどれも見事なまでにワンパターンだった。
単調なまでのワンパターン。
しかし犯された女の恨みは自分の想像したものより遙かに大きく、深かった。

気がつくと、手足の自由が戻っていた。
俺は上半身を起こそうとした。
しかしうまく起き上がれない。
俺は自分の身体を触った。
「!?」
下腹部が大きく出ていた。
臨月の妊婦のように。
(どうなってるんだ?なぜ俺のお腹がこんな状態になってるんだ?)
まさにパニック状態だった。
そのとき強い痛みを感じた。
(産まれる!)
俺はなぜかそう感じた。
(それじゃ元気な"女の子"を産んでね)
頭の中に俺を罠に陥れた女の声が聞こえた。
救急車の近づく音が聞こえる。
救急隊員が走ってくる。
「破水してるぞ」
という叫び声と共に俺はまた深い闇に落ちて行った。

次に気がついたときは手術室だった。
「お母さんの意識が戻りました」
看護婦らしき声が聞こえた。
「お母さん、現在非常に危険な状態です。このままでは母子共に危ない状況です。これから帝王切開によりお子さんを取り出しますので、お母さんも頑張ってください」
「…はい…」
全身麻酔がかけられたようで、少しずつ気を失っていった。
「おぎゃあ、おぎゃあ…」
元気な赤ん坊の泣き声が手術室に響いた。
「元気な女の子だ」
「お母さんの容態が!」
「すぐにICUに運べ」
「先生、お母さんの脈が止まりました」
「すぐに蘇生措置を」
手術室の中で人が慌ただしく走り回った。
俺は薄れゆく意識の中で周りの会話を聞いていた。
「……ダメだったか。赤ん坊だけでも助かってよかったというところか」
医者と看護婦の会話によると俺は死んだらしい。
死んだはずの俺だが、二人の会話は聞こえていた。
「この子の将来を考えると、元気に生まれたことが良かったのかどうか」
「先生、そんなことを言うもんじゃありません。この子は立派な人間になります」
俺の傍でそんなことを話していた。
(あなたは女性として一生をもって償うのよ。但し、男にいたぶられる人生だけど。自殺したくなるくらいつらいかもね。でも自殺しようとしても私が絶対死なせないけど)
俺を罠にかけた女の声が聞こえた。
俺は何も話すことができず、ただただ泣くばかりだった。

「本当に元気な女の子ですね、先生」


《完》

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