アナザーワールド



靄がかかって相手の顔が見えない。
しかし俺はその相手のペニスをおいしそうにしゃぶっていた。
どうして俺が男のモノをしゃぶらないといけないんだ?
頭ではそう考えているのだが、その行為をやめることはできなかった。
口の中でピクピク動くペニスの反応が楽しかった。
俺は亀頭溝に舌の先を這わせた。
男が微妙に腰を動かしたのを感じた。
感じてるんだろうと思い、俺は執拗にその部分を舐めた。
やがて口の中に苦いものを感じた。
出される!
そう思ったときだった。

俺は目が覚めた。
横には妻の恵美が幸せそうな顔で眠っていた。
どうしてあんな夢を見たんだろう?
潜在的に俺は女になりたいんだろうか?
女になって男に抱かれたいのだろうか?
俺は自分が見た夢が理解できなかった。
恵美とは結婚してまだ3ヶ月だ。
俺は妻を愛してるし、性的には充分に満たされている。

「慎吾くん、おはよう」
鬱々と考えていると恵美が目を覚まして声をかけてきた。
「ああ、おはよう」
俺は恵美に挨拶を返した。
そうだ、考えたって仕方がない。
俺は意味の分からない夢だったと忘れることにした。
起き上がろうとしたときに、下半身に違和感を覚えた。
パンツの中で夢精していたのだ。
何年振りだろう。
俺はパンツを穿き替えて、何事もなかったように会社に出掛けて行った。


その日の夜、俺はいつも以上に恵美を求めた。
自分の性的嗜好が正常なことを確認するためだ。
恵美はそんな俺の態度を訝った。
いつもの俺ではないというのだ。
当然と言えば当然だろう。
しかし俺は恵美のそんな気持ちをわざと無視した。
そしてセックスに没頭した。
いつも以上に独りよがりで、かつ、充実したセックスだった。
俺は自分の正常性を確認できて、安心して眠りにつくことができた。

しかしその夜も同じような夢を見た。
そのときは男に入れられたところから始まった。
「あああああああ………」
覆い被さっている男の顔は見えないが、その男のペニスが俺の腹の中を掻き回していた。
それが経験したことのない快感を生み出すのだ。
俺は喜んで男の腕を掴んで自ら腰を振っていた。
男の抽送は長時間に及んだ。
俺は両脚を男の腰に回し、男が離れられないようにした。
途中でやめて欲しくない。
俺の中で男の精液を放って欲しいのだ。
俺はボォーッとした頭で、それでも腰を強く振った。
「出るぞ…」
男の言葉に俺は意識的に膣口を締めた。
「早く…来てぇぇぇ…」
男の動きがさらに速くなった。
身体がバラバラになりそうだ。
もうすぐいけそうだ。
「い…いくぅ…」
俺は声を上げた。


そのときに目が覚めた。
また最後までいけなかった。
ものすごく惜しいような気がした。
それでもやはりパンツの中で夢精していた。


それから毎晩のように何度も夢の中で男に犯された。
当然俺は女だった。
いつも最高に感じさせてくれた。
でもいつも最後までいけなかった。
それでも恵美との現実的なセックスよりずっと良かった。
俺は少しずつ恵美との行為を避けるようになった。
そして夢の中の行為に嵌っていった。


ある日、会社からの帰宅途中自宅のすぐ近くで男とすれ違った。
俺より少し年下でハンサムな男だった。
何となく会ったことがあるような気がした。
どこかで会ったと思うんだけど…。
しかしいくら考えても思い出すことはできなかった。

その夜も夢を見た。
夢の中では俺は女だった。
俺は男とキスをしていた。
長い長いキスだった。
男は俺の口の中で舌を這わせた。
俺もその舌に呼応するように舌を絡ませた。
息をすることも忘れて俺はキスに没頭した。
俺はキスしながら股間を濡らした。
早く入れて欲しい。
そういう気持ちを込めて男の股間に手を伸ばした。

ようやく唇が離れた。
そのとき初めて男の顔がはっきり見えた。
さっき会った男だった。
嘘だろ……。
俺はこの男に抱かれていたのか…。


その日はそこで目が覚めた。


次の日から夢の男性の顔がはっきり見えるようになった。
もちろん前の日に出会った男だ。
俺はその男のペニスをしゃぶり、その男に貫かれた。
いつもいつも感じさせてくれた。
それでもいつも最後までいけなかった。
その点だけが不満だった。


その男にはその後も時々家の近所で見かけた。
注意していると、その男は俺の家から出て来るように思えた。
時には俺の家を見ているようだ。
そんな男の行動を見ているうちに俺は男が恵美と会っているような気がしてきた。
そう考えれば男の行動パターンにも合点がいく。
恵美に会いにいくときや帰るときに俺と出会ってしまうのだ。
やがて俺はその男と恵美の関係を疑うようになった。
疑い出すと被害妄想は止まらなかった。
俺には恵美と男ができているとしか思えなかった。
俺は嫉妬でおかしくなりそうだった。
その嫉妬が、俺の妻を奪った男への物か、それとも俺の(夢の中の)男を奪った妻への物なのか。
そのことだけが自分でもよく分からなかった。

俺の嫉妬は次第に強くなっていった。
そしてそれはやがて憎しみに変わった。
その憎しみは恵美に向かっていた。
やがてその憎しみが爆発してしまう日がやってくることになる。


その日、俺は家に帰るとすぐ何かに取り憑かれたように行動を起こした。
キッチンから果物ナイフを取り出し、そのままリビングでくつろいでいた恵美に突き立てた。
「キャーーーーーーーーーー」
俺は恵美の悲鳴を聞きながら、何度も恵美を刺した。
返り血なんか気にせず何度も何度も。

気がつくと目の前の恵美の死体が消えていた。
俺は中空に対してナイフを振り下ろしていたのだ。
それにしてもこの手についた血は確かに人を刺した証だ。
……?
よく見ると手が変だ。
指が細くて白い。
指にはサファイアの指輪が光っている。
この指輪は恵美の物だったはずだ。
どういうことなんだ?
俺には状況がつかめなかった。

俺はゆっくり立ち上がった。
脚に柔らかい布が触れた。
スカートだった。
どうして俺がスカートなんか穿いてるんだ?
俺は庭に面した窓ガラスに自分を映した。
外はすでに暗い。
窓ガラスは充分鏡の役目を果たすことができるのだ。
そこに映ったのは恵美だった。
俺は恵美になっていたのだ。

どういうことだ?
潜在意識で女性になりたがっていたせいなのか?
それとも恵美の祟りなのか?

俺は改めて部屋を見渡した。
いつもの部屋だ。
特に異常はない。
床が血で汚れているということはもちろんない。
さらにさっきまでついていた手の血が綺麗になくなっていた。
それでもついさっきまで突き刺していた感触は手にしっかりと残っている。
俺が恵美を刺し殺したのは確かな事実のはずなのに…。

狐につままれたようだ。
何がどうなったって言うんだ。
俺は半ばパニックになった。

時間が経っても状況に変化はない。
恵美の死体が出て来るわけではないし、僕の身体が戻るわけでもなかった。

とりあえず眠ろう。
やや現実逃避気味ではあるが、眠れば元通りになるかもしれない。
こんな馬鹿な幻覚を見るほど僕は疲れすぎているのだ。
俺はそう言い聞かせて眠りについた。


目が覚めた。
やはり俺は恵美のままだった。
しかもいつの間にか恵美のパジャマに着替えていたのだ。
服のまま寝たはずなのに。
昨日から訳の分からないことばかりが起こっている。
いずれにせよそんな原因の究明は後回しだ。
それよりこれからのことだ。
俺はこれからどうすればいいのかが大問題だ。
とりあえず会社に電話をしよう。
こんな姿で会社に行けるわけがない。
そう思い、受話器を取った。
しかし……音がしない。
ダイヤルトーンが聞こえないのだ。
すなわち電話がかけることができない。

仕方なく外に出てみることにした。
そのために着替えないといけない。
恵美はズボンを持っていない。
恵美がスカートを好きだったことに加えて、俺がスカート以外を許さなかったのだ。
とりあえずタンスを開け、置いてあったスカートを適当に取った。
ピンクのドット模様のミニだ。
それは日常的によく穿いているスカートだった。
俺はそのスカートを穿いた。
服も適当な物を着た。
ファッション的な組み合わせなんて俺に分かるわけない。
とりあえず外に出て行けさえすればいいのだ。

ドアを開けた。
外は濃い霧が立ち込めているかのようだった。
2メートル先すらも見えない。
何だ、これは?
これでは外に出て行くこともできない。
仕方ない。
俺はそのまま家にいることにした。


夜になった。
男が来た。
あの男だった。
「だ、誰だ?」
俺はそいつのほうに向かって聞いた。
「ん?」
男が不思議そうな顔をしている。
「お前、誰だ?」
男がそう言った。
やばい、ばれた?
俺が恵美の姿になっていることがばれるとややこしいことになるかもしれない。
恵美の振りをしないと。
「私、恵美よ」
俺は小さな声で言った。
「自分から話すなんて初めてだな」
「どういうこと?」
俺は警戒しながら言葉を少なめにして聞いた。
「ここは俺の世界だ。俺が自分の妄想の中で生み出した世界だ。ここでは俺の望む人物しか存在しない。やるのはセックスだけだ。現実のあんたを見ながら、おれはここであんたと犯りまくった。ここでは犯るだけで、こんな会話なんてありえないんだ」
「えっ!」
どういうことだ。
この世界は男の妄想が生み出した世界だというのか。
「女は殺された、あいつの旦那にな。もしかしたら旦那に殺されて、女の魂がそのまま俺の世界に紛れ込んだのかもしれないな」
男は何かを考えているようだった。
「そうするとおとなしくしてるのは納得できない。大抵女というものは騒ぎ立てるものだからな。そう言えば逮捕された旦那は魂が抜けてしまったような状態だということだ。ということはあの女の旦那か?旦那の魂が紛れ込んできたのか?それにしてもまさかこの世界に人間の魂が紛れ込んでくるとはな」
「………」
俺はどう言い返せばいいのか思いつかなかった。
「その反応…どうやら図星みたいだな。男のくせに女の姿になってるなんて変態だな」
「うるさい!」
「冗談で言ったんだが、本当に女の旦那なのか……。これは面白い。それにしてもどうして女になってるんだ?女になって俺に抱かれたかったのか?」
当たっているのかもしれない。
俺の歪んだ欲望がこいつの世界に共鳴したのかもしれない。
そう考えていたが、俺は表情に出さないように気をつけた。
「そんなわけないだろ。俺を自由にしろ」
「そんなこと言ったって俺にもどうすりゃいいか分かんないよ。それよりこの世界ではやることはひとつなんだ。さっさとやろうぜ」
「そんなことできるか!」
「ここは俺の世界だって言ってんだろ?この世界では俺に反抗的な態度を取らないほうがいいぜ」
「反抗的な態度を取ったら、どうだって言うんだ!」
「無理矢理にでもしたがってもらうしかないな。まあいずれにしても何もかも俺の思うがままだ。ひとつ確かめてみようか」
「何を確かめるっていうのよっ。……えっ、どうしてこんな話し方になるの?私、普通に話しているはずなのに」
俺は急に女の話し方しかできなくなった。
「この世界は俺の世界なんだから、こんなことも簡単にできるんだよ。それじゃいつものように始めようか」
男が俺の前に仁王立ちになった。
俺はその前に跪いた。
そんなことをするつもりは全くない。
しかし行動を止めることができなかった。

男のズボンのベルトを緩め、ズボンのボタンを外した。
そしてファスナーを下げ、男のブリーフをずらした。
ブリーフの中ですでに屹立していた。
俺はそれを取り出して、愛おしそうにそれを指で撫でた。
「銜えたかったら銜えていいぜ」
「嫌よっ」
そう言いながら、俺は男のペニスを銜えた。
「男のくせに男のモノを銜える気分はどうだ?」
「んんん……」
俺は悔しくて涙が出てきた。
「やっぱりいいな、本物の魂は。いつもとまるで違う。本当に生きてる女にフェラしてもらってるみたいだ。その涙もそそるしな」
俺は自分の意思と関係なく男のペニスを舐めていた。
まるで最近見た夢のようだ。
…夢?
そう言えばこの状況って最近見る夢と同じじゃないか。
俺は男の夢の中に入り込んでしまったのかもしれない。
このとき初めて男が自分の世界と言った意味が分かったような気がした。
俺はこの男の妄想の世界に共鳴してしまっていたのだ。
それが夢という形で見ていたのだろう。

俺は口を窄めて顔を前後させた。
さらに男のペニスをしごいてやった。
男のペニスがピクピクと動いた。
出される!
夢だとここで終わるはずだった。
しかし今回は違った。
男のペニスから勢いよく精子が放たれた。
俺はそれを飲み込んだ。
美味しい。
なぜか俺はそう思った。
喉を通るとき、あんなに気持ち悪かったのに。
「よく飲んだな」
男が俺の頭を撫でてくれた。
「今日はここまでだ」
気がつくと男の姿はなかった。


次の日、男は来なかった。
この世界にいる限り空腹感なんてものはなかった。
尿意も便意もなかった。
あるのは性欲だけだった。
男の言った通りこの世界はセックスだけの世界なのだ。

俺の身体は疼いていた。
俺は自分の指で自分の身体を慰めた。
乳首を摘み、クリトリスに触れ、膣に指を突っ込んだ。
そんなことをしても疼きは治まらなかった。
アレが欲しい。
無意識にそんなことを考えていた。
俺は一睡もせず男のペニスを思い浮かべながら自分の身体を甚振った。


次の日は男がやって来た。
「昨日は一人でオナってたみたいだな」
隠しカメラでもあるのだろうか?
俺は辺りを見渡した。
「ここは俺の世界だって言ったろ。俺の世界で何が起こっているかなんて簡単に分かるんだよ」
それなら隠し事なんてできないな。
それだったら今欲求不満なこともばれているかもしれない。
「それにオナニーなんかじゃ全然満たされなかっただろ?ここでは俺とやらないと満たされないんだよ」
「それだったら…」
そう言いかけて言うのをやめた。
やめさせたのは男のプライドだ。
「"それだったら"って何なんだよ。言いかけてやめるのは身体に悪いぜ」
「もういい」
「"それだったら毎日来てくれ"か?それとも"それだったらフェラでやめないで最後までやってくれ"か?」
ある意味、どちらも正解だ。
しかしそれを認めるのは躊躇われた。
俺は黙っていた。
「答えたくないのか。まあいい。やりたければお前の意思で始めていいぜ」
男がベッドで仰向けになって、俺の顔を見ながらニヤニヤ笑っている。
男は全裸だ。
すでに俺も全裸になっていた。

俺の視線の先には男のペニスがあった。
最初は耐えていた。
しかし我慢するには限界があった。
俺はフラフラと男のそばに行き、ペニスを手に取った。
そして手で、指で、口で男のペニスに刺激を与えた。
やがて男のペニスが大きくなった。
俺は男の腰に跨った。
男のプライドなんて微塵も残っていなかった。
俺は男のペニスに手を添えて、そのまま腰を落とした。
「…あああ……いいぃぃ……」
男のペニスを受け入れた。
「どうだ?気持ちいいか?」
男が下からニタニタ笑っていた。
「気持ち良くなんか…ない……ぁんっ」
男が腰を軽く突き出したのだ。
それだけで俺は甘い声をあげた。
「気持ちよければ気持ちいいって言っていわないと身体に悪いぜ」
俺の腰を持って上下させた。
なおも男が俺の腰を上下させ続ける。
「や…やめて……」
快感の底なし沼に飲み込まれてしまいそうだった。
「ぁぁぁぁぁぁぁ……いい…おかしくなりそう……」
俺は髪を振り乱して快感を貪り続けた。
「そういや今日は妙に女っぽいな。今日は何も暗示なんかしてないんだけどな」
男が腰を動かし、俺の腰を上下させながら言った。
おそらく夢の中の経験がイメージトレーニングのような成果を生んでいるのだろう。
セックスの最中は自然と女らしくなってしまうのだ。
俺はなおも自ら腰を動かしていた。
「もう女の快感に溺れやがったのか。適応力ありすぎだ」
男の言葉が俺には届いてなかった。
「あああ…。やめて………おかしくなりそう…」
俺は強い快感に翻弄されていた。
すると男が動きを止めた。
そして俺の腰を掴み、動かせないように固定した。

俺には途中でやめた理由が理解できなかった。
男が下からニヤニヤ笑っていた。
「お前がやめてって言ったからやめてやったんだぜ。俺って優しいだろう」
こんな状態でやめられるのは、まさに生殺しだ。
俺は何とか動こうと必死だった。
しかし女の力では男に抗うことは難しかった。
「頼む、動いてくれ」
「なんだ、その言い方は!まだ男のつもりなのか?」
この世界では男に抗うことは所詮無理なのだ。
男の言うことを聞いたほうがいいのだろう。
「……お願い、…動いて」
「その言い方ももうひとつだなあ」
俺は男が喜びそうなフレーズを考えた。
「お願い。あなたのチンポで私をぐちゃぐちゃにして」
「何だ、ちゃんと相応しい言葉を言えるじゃないか」
男が上半身を起こし、俺の胸を舐めた。
「…ぁ…ぃゃ……」
予想していなかった男の行動のせいで俺は身体を動かしてしまった。
そのため挿入されたペニスが俺の中で微妙に動き、その刺激で声をあげてしまったのだ。
男は俺の腰を掴んで上下させながら、なおも俺の胸を舐めた。
俺は乳房と女性器からの快感に大きな声をあげ続けていた。
「あああああ……いいいい………早く来て……ぁぁぁぁぁ…」
「男のくせによがるんじゃねえ…」
「そ…そんなこと言っても……おかしくなりそう……」
「男に射精なんかできないな。俺、ホモじゃねえし」
「私は女よ…、だからあなたのザーメンが欲しいのぉぉぉ……」
「ははは、すっかり淫乱女になりやがったみたいだな」
男が俺を蔑むような笑みを浮かべた。
俺にとってはそんなことはどうでもよかった。
男の熱いものが欲しいだけだった。
俺は男の頭を思い切り抱き締め、腰を動かしていた。

男が俺の上半身を押し倒した。
もちろん俺の膣口は男のペニスを銜え込んだままだ。
男が膝で立つ体勢をとったため、俺の腰が少し浮くような体勢になってしまった。
肩甲骨辺りがやっとベッドについていた。
すぐに男は腰を動かし出した。
俺は前後左右さらに上下に揺すられた。
俺はすぐに昇りつめた。
男は強く速く俺を貫いた。
俺は何度も意識がなくなった。
それでも男の動きは止まらなかった。
「わああああああああああああああああ…………」
俺の口は半開きで、ただただ声をあげていた。
やがて声が出なくなり、口からは涎が流れ出ていた。
「そろそろフィニッシュにしようか」
男がさらに強く突いてきた。
やがて男のペニスから熱い精液が俺の身体の中に放たれた。
(ああ…すごい…。最高……)
俺は夢では経験できなかった最後までいくことができ満足だった。
男が疲れ切ったのか倒れ込むように俺の身体に覆い被さってきた。
重かったが、それすら心地よかった。
それにしてもこんなにすごいとは。
セックスでは女のほうが圧倒的に得だと思った。


それから俺は何度も男に抱かれた。
男が複数になることもあった。
俺がコスプレさせられるときもあった。
時々男が来ない日があると俺は一日中自ら慰めていた。
半年もすると、女言葉で男に媚び自ら腰を振るようになっていた。
ただ男が与えてくれる性的快感のみを求めて。

俺はこのまま男の世界で一生拘束されたままなのだろうか。
それでもいいかと考えている。
この世界には実世界では避けることができない人間同士の摩擦や仕事のストレスなんてものはない。
あるのはセックスの喜びだけ。
しかもこの世界では俺は女だ。
女として男よりずっと強い快感を何度も何度も感じることができる。
嬉しいことに煩わしい生理も妊娠もない(男が望めばあるかもしれないが)。
永遠に続く理想的なセックスワールドなのだ。
俺はその中の1ピースに過ぎないのだ。


実世界の"俺"は恵美殺害後すぐに逮捕された。
殺害した後その場から逃げなかったのだ。
逮捕の際は何も抵抗しなかった。
取調べにおいて一言も話さなかった。
とにかく外界からのあらゆる反応を示さなくなっていた。
精神的に問題を抱えているということで精神病院に強制入院させられた。
そこでもほとんど行動しなかった。
何も話さず何も動かず。
その姿はまさに生ける屍だった。


俺は今どこにいるのか?
そもそも生きているのか死んでいるのかすら分からない。
……考えても無駄だ。
分かるわけがない。
そんなことはどうだっていい。
俺がやることは男の前で脚を開くことだけなのだから。


《完》

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