虐めの復讐



九鬼龍太。
九鬼という姓はそれなりに歴史のある姓らしい。
しかし子供にとってはそんなものは関係ない。
名前に入った「鬼」と「龍」。
この名前のおかげで小さい頃から虐めの対象になった。
幼いころは泣かされてばかりだった。
しかし、小学校に入る前には反撃することを覚えた。
からかう奴らには絶対に挑みかかった。
とにかく喧嘩をした。
相手の身体がいくら大きくてもビビることはなかった。
小学校高学年になると同じ町の中学生でも負ける奴はいなくなった。
中学生になると、町全体に悪名が広まっていた。
親でさえ見て見ぬ振りだ。
高校生になると警察にも睨まれるようになっていた。

「君が九鬼くんかい?」
そのころは腫れ物に触るように扱われていて、人から話しかけられるなんて皆無だった。
龍太は珍しそうに男の顔を見た。
眼鏡をかけ、白衣を着た、いかにもインテリぶった男だった。
龍太は無視した。
「君の親御さんに頼まれたんだよ」
「親?知るか、そんなの」
龍太は視線も合わせず、吐き捨てるように言った。
「まあそう言わずに少しだけ時間をくれないかな」
龍太は無視し続けた。
「まあ、無視されることは想定内なんだけど…。仕方ないか」
男がそう言うと、腕に軽い痛みを感じた。
「何を…した………」
急速に意識が遠ざかってきた。


何もない部屋だった。
窓もなかった。
広さは結構広い。
卓球くらいならできそうだ。
扉は2つあり、1つ扉の向こうにはユニットバスがあった。
もうひとつは開けることもできなかった。
外の様子が分からないので、朝か夜かも分からない。
そして龍太は衣服を取られていた。
室温が保たれているようで、それほど寒さは感じなかった。

「おはよう。よく眠れたかい?」
部屋のどこかに仕込まれているらしいスピーカーからさっきの男の声が聞こえてきた。
「俺をどうするつもりだ」
龍太は静かに言った。
「もう少し泣き喚いてもらえませんかね?そうでないと面白くない」
「泣き喚いたってしゃあないだろ。殺すんだったら早く殺れよ」
「それも解決策のひとつかもしれませんが、それじゃ面白くないでしょ?」
すると天井から何か服のようなものが落ちてきた。
「とりあえずそれを着てもらえませんか?」
それは首から下全体を覆うようなベージュのレオタードのようなものだった。
龍太はチラッとそれを見ただけで、何の行動も起こさなかった。
「さすがに一筋縄ではいきませんね」
室温が下がってきた。
部屋を寒くして、これを着せようということなのだろう。
その分かりやすすぎる仕掛けが龍太を白けさせた。
ここで意地になって寒さを我慢するなんてことは龍太の考えにはなかった。
黙ってそのレオタードを手に取った。
首のところが意外に伸びた。
そこから脚を入れてシワを伸ばしながらレオタードを着た。
全身ピタッと身体を覆っていたが、一点余裕のあるところがあった。
それは胸筋のあたりだった。
その部分だけが妙に膨らんでいた。
まるで女性の乳房のようだった。

「着てくれましたね。よく似合ってますよ。それじゃ始めましょうか」

男の言葉とともに、着ていたレオタードが全身を締め付けてきた。
あまりの痛みに立っていられなくなった。
床に横たわると、天井全体が動き出した。
天井の一部が鏡になっていた。
その鏡に横たわった龍太の姿が映っていたのだ。

龍太は身体の痛みに耐えながら、天井の鏡に映った自分の姿を認めていた。
必死に痛みに耐えている自分が映っていた。
やがて痛みは少しずつひいていったが、身体は自由に動かせなくなっていた。

龍太は大の字になって、鏡に映った自分の姿を見ていた。
着ていたレオタードは少しずつ色を失ってきているようだった。
その証拠に少しずつヘソが見えてきていた。
胸の膨らみの先端には乳首らしいものが見える。
しかしヘソの下部にあるはずのものはなかなか見えてこなかった。
いや正確には陰毛は見えていた。
しかしそこにあるはずのものがないのだ。
そう言えば陰毛の形が変だ。
ネットでしか見たことはなかったが、女性のもののように見えた。

やがてレオタードは完全に消えた。
そして龍太の首から下は女性の身体になっていた。

扉が開いた。
そして何人かの男たちが入ってきたようだ。
身体を動かせない龍太は足音や話し声でそのことを感じていた。
「九鬼のやつ、マジで女の身体になってるじゃん」
「あの話って本当だったのか」
「信じられねえ」
10人以上はいるようだ。

「龍太、いい樣だな」
龍太の視界に入ってきたのは三雲和彦だった。
その背後に数人の男がいることが天井の鏡に映っていた。

三雲和彦は龍太が何度か喧嘩した相手だった。
和彦は龍太を殴り倒すことで、自分の名をあげようとしたのだろう。
何度となく龍太に挑み、その度に龍太に負けていたのだ。
「三雲、お前の仕業か、これは?」
「俺のことを虐める奴がいるってオジキに相談したら、面白い物を作ったからそれで懲らしめてやろうかって言ってくれてよ。だからお前に虐められてた奴らと一緒に様子を見に来たんだよ」
和彦の背後に知った顔が現れた。
同じ中学の奴らだった。
龍太はこいつらを虐めたことなんてなかった。
和彦のほうが虐めをしていたのだ。
どうせ今日も暴力か何かで脅されて連れてこられたのだろう。
そのとき入ってきたときの言葉を思い出した。
"あの話って本当だったのか"。
確かそう言ってたはずだ。
きっと女になった俺の姿を見せてやると言われたに違いない。

ふと男たちの視線がおかしいことに気づいた。
そのときになって自分の身体が女の身体になっていたことを思い出した。
若い男が女性の裸を目の前にして興奮しないわけがない。
そこにいる全員が龍太に邪な視線を浴びせてきた。
龍太はその視線から逃れようと、何とか身体を動かそうとした。
まだ完全に動くことはできないが、少しだけ脚を動かすことができた。
もう少しで身体を動かすことができそうだ。

「おや、そろそろ身体が動くようになったみたいですね。和彦、隣の部屋からベッドを持って来なさい」
スピーカーから男の声がした。
「おい、お前ら」
和彦が男たちに命じた。
数人の男たちが部屋を出て行き、ベッドを運んできた。
そのベッドには両手両脚を留めるためのベルトがついていた。
「オジキ、ここに寝させて、手足を留めればいいんだな」
龍太はベッドに移動させられ、両手両足を拘束具に繋がれた。
両手両脚を大きく広げたような体勢だった。
どさくさ紛れに和彦が龍太の乳房に触れようとした。
「まだ触るな!」
スピーカーから怒りの声が響いた。
「別にいいじゃん。減るもんじゃないし」
そう言って、龍太の胸の膨らみを掴んだ。
「痛い!」
龍太は思わず叫んだ。
「和彦!」
「分かったよ」
スピーカーからの声に和彦が渋々手を引っ込めた。
龍太はそのときの痛みで胸についている膨らみが確かに自分のモノであることを思い知らされた。

「スゲェ…」
そんな男たちの呟きが聞こえてきた。
男たちが自分の下半身を見つめているのだ。
男たちは龍太の下半身、おそらくは女性器を覗き込んでいるのだろう。
乳房が本物であるのなら、女性器もできていると考えざるをえない。

「おい、誰か、彼にも見せてあげなさい」
「どうやって見せるんだ?」
「隣に鏡があります。それを脚の間に置いてやればいいんです」
誰かが鏡を持ってきた。
それをわざわざ和彦が受け取り、龍太の脚の間に置いた。
「どうだ?これで見えるか?」
龍太は見たくもなかったが、一方ではどうなっているのか確認したいとも思っていた。
龍太は目の端で鏡に映ったモノを見た。
そこには見慣れない女性器が映っていた。
さすがに乳房以上のショックだった。
「嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁ………」
無意識に龍太は叫んでいた。

気がつくと、辺りには人の気配はなかった。
どうやら自分の女性器を見て、ショックのあまり気を失っていたようだ。
手足の拘束は外されていた。
龍太は上半身を起こした。
白いガウンを着せられていた。
さっき見たのは見間違いだった。
そうあってほしいとガウンの紐を解いた。
そして股間に目をやった。
視界に髪の毛が入ってきた。
「?」
龍太は自分の髪を触った。
鎖骨にかかるほどの長さになっていた。
引っ張ると痛い。
ウィッグではなさそうだ。
いつの間にこんなに伸びたんだ?
身体を女にされたんだ。
髪を伸ばすくらい簡単にできるのだろう。
そう思い、あらためて下半身に目をやった。
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EXTENDED BODY:
下半身には白い薄い下着を穿かされていた。
女性のショーツだ。
そこにはまったく膨らみはない。
ショーツの中を見るまでもない。
龍太のペニスはなくなったのだ。

龍太は立ち上がった。
その拍子にガウンの前が完全に開き、胸も目に入ってきた。
膨らんだ乳房は白いブラジャーに覆われていた。
「どうしてこんな姿になっちまったんだ…」
そう呟いたときに、ドアが開く音がした。

「龍子ちゃん、気がついたんだ」
入ってきたのは和彦だった。
「誰が龍子ちゃんだ!」
龍太はそう言いながら、ガウンの前を締め直した。
和彦の視線が気になったのだ。
「ちょっとだけ見えてた下着が可愛かったのに、どうして隠すんだよ?女の恥じらいか?」
和彦はニヤニヤ笑っていた。
「うるさい。お前の視線がいやらしいからだ」
「だって龍子ちゃんがそんなにセクシーなのが悪いんだぜ。おかげで、ほら」
そう言って和彦は股間を指差した。
そこはズボンの下に隠れているモノが自らの存在を主張するかのように盛り上がっていた。
「お前、何考えてんだ!俺は男だぞ」
「そんなエッチな身体して『男だぞ』って言われても説得力ないぜ」
和彦が龍太の腕を掴んだ。
「痛いっ、離せ!」
龍太は和彦をなぐろうとした。
しかし簡単にかわされ、手首を強く握られた。
龍太はその手から逃れようともがいた。
しかし今の龍太の力では和彦に立ち向かうことは不可能なようだ。
和彦に腕を掴まれ、龍太の自由は奪われたままだった。

「さっきはオジキに止められたが、今は誰も見ていない。龍子ちゃんをたっぷり可愛がってやるからな」
和彦がガウンの紐を解き、龍太からガウンを奪い取った。
ブラジャーとショーツだけになってしまった。
龍太は反射的に身をよじった。
「そんな龍子ちゃんの姿っていろっぽいよ。身も心も女になったってことなのかな」
和彦が下卑た笑いを浮かべながらズボンを脱いだ。
ペニスがパンツからはみ出ている。
「本当は咥えてほしいけど、今の龍子ちゃんだったら咬みちぎられそうなんで、我慢するよ」
そうして和彦が龍太を抱きしめた。
全然身動きできない。
このまま和彦に犯されてしまうのか。
龍太は覚悟した。

「和彦!」
あの男の声が部屋中に響き渡った。
「ちぇ、あとちょっとだったのに。見つかっちまったか…」
和彦はそうつぶやき、そしてスピーカーに向かって叫んだ。
「オジキ、べつにいいじゃん。俺、こいつに虐められてたんだぜ。仕返しくらいさせてくれたっていいだろう?」
「ダメだ、すぐに戻ってこい!」
和彦は「オジキを怒らせると怖いから」と言って部屋を出て行った。

部屋には再び龍太独りになった。
和彦に続く輩がまた入ってくるかもしれない。
しばらくの間はそう警戒して、ドアを睨みつけていた。

30分ほど警戒をしていたが、もう入ってくるような奴はいないようだ。
龍太は警戒を解いて、目を閉じた。

いつの間にか眠ってしまったらしい。
気がついたときには、目の前に全裸の女の子が立っていた。
アイドル顔負けの可愛い女の子だ。
だが龍太は自然と身構えた。
まだ敵か味方か分からない。
「誰だ?」
「俺だよ、三雲和彦だ」
思いもよらない答えが返ってきた。
和彦だと?
まず身長が全然違う。
和彦は180cmほどの身長があったが、目の前の女は160cmにも満たないだろう。
それに声が全然違う。
完全に女の声だ。
それもアニメに出てくるような声だ。
「お前が三雲のわけ、ないだろ?」
「俺を男のままにしておくと、いつまたお前を襲うか分からないから襲えなくしてやるって言われて、こんな姿にされちまった」
「そんなこと言っても、顔も身長も全然違うじゃないか」
「お前が着せられたのはボディスーツみたいなもんだろ。俺はほとんど着ぐるみみたいなもんを着せられたんだ。それで気がつくと、こんな女になっていたってわけだ。声まで変わってたのには驚いたぜ。この姿だったら、お前に会ってもいいって言われたんだけど、この姿で仕返しなんかできるわけないし」
「本当に三雲なんだな」
「だからそう言ってるだろうが。分かんねえ野郎だな」
仕草そのものは確かに野郎そのものだ。
きっと言っていることは本当なんだろう。
「三雲だって分かった。とりあえず何か服着てくれないか?」
「どうしてだ?せっかく女の身体になったんだ。たっぷり楽しまなきゃ損だろうが」
そう言って、自分の乳房を揉み始めた。
「あっ、すごいぞ。感じるぞ」
「勝手にやってろ」
和彦は龍太に見せつけるように、目の前で喘ぎながら乳房を揉んでいた。
顔は背けたが、喘ぎ声からは逃れられない。
龍太の精神も、和彦の自慰行為の空気に少しずつ浸食されつつあった。

龍太の手が無意識のうちにブラジャーに触れた。
(やめろ。三雲に流されてどうする)
そう思うが、和彦の喘ぎ声から逃れる術はなかった。
龍太はブラジャーの中に指を滑り込ませた。
そして隆起した乳頭に触れた。
「ぁ…」
無意識に声が出た。
和彦に聞かれたかと思ったが、和彦は自分の行為に集中しているみたいだ。
左手で胸を、ショーツの中に右手を入れていた。
女性器を弄んでいるようで、クチュクチュと音を立てていた。
龍太が何をしても眼中にないようだ。

龍太は声を出さないよう注意しながら再び乳頭に触れた。
まるでペニスの先が胸についているようだ。
それほど気持ちいい。
目を閉じて声を出さないようにしてその行為を続けた。

「龍子ちゃんもやってるじゃん」

急に声がした。
龍太はあわてて目を開けた。
目の前にはニヤニヤと笑いながら可愛い女の子が龍太を見ていた。
それが和彦だと認識するのに少し時間が必要だった。
それに気づくと龍太は顔が急激に赤くなっていくのを感じた。
「う…うるさい。近くであんなことされたら、普通の男が我慢できるわけがないだろ」
「そうそう、我慢はいけないよね。だったら一緒に楽しもうぜ」
そう言って龍太の肩を掴んだ。
龍太は蛇に睨まれた蛙のごとく動くことができなかった。
可愛い女の子の顔が近づいてきた。
それが和彦だと分かっていても、龍太は逃げることができなかった。
そしてついに唇を重ねられた。
やがて舌が龍太の口の中に入ってきた。
それでも龍太は動けなかった。

そのままゆっくりと後ろに寝かされた。
ブラジャーの上から手で龍太の乳房を揉まれた。
「や…めろ…」
そうは言ってみたが、抵抗する様子は見せなかった。
女どうしだ。
犯されることはないはずだ。
何より興味があった。
この女の身体の感じ方に。

和彦は龍太のブラジャーのフォックを外した。
そしてブラジャーをずらして乳房に直接触れた。
「龍子の胸、とても綺麗よ」
和彦は女のような話し方をした。
そのせいでさらに警戒心が失せた。
「…三雲……」
「三雲はやめて。李奈って呼んで」
(なんだよ、李奈って)
そうは思ったが、龍太はそれを口にしなかった。
和彦が龍太の乳房に舌を這わせ始めた。
時々、舌が乳首に当たる。
その度に電気が流れるような快感を感じ「ぁ…」という声が漏れた。

やがて和彦は優しく乳頭を口に含んで舌の上で転がすようにした。
「李奈…、やめろ…、おかしくなる………」
龍太は初めて感じる強い快感に本当におかしくなりそうだった。
息をするのも忘れるほど感じた。
苦しいほどだった。
それでも暴力的な行動は起こさなかった。
されるがままにされていた。
それほど女としての快感に飲み込まれていたのだ。
この快感を感じ続けていたかった。

どれくらいの時間、乳房を愛撫されていたのだろう。
龍太は自分がどれほど乱れていたのか覚えてなかった。
ずっと快感の渦の中で溺れていたような気がする。
1分なのか1時間近くなのかすら分からなかった。
時間の感覚がおかしくなるほど快感に流されていたのだ。
我に返ったのは和彦の指が股間に伸びてきたためだった。
「やめろ!」
龍太は和彦を突き飛ばした。
和彦は後ろ向きで倒れた。

和彦は起き上がった。
「痛いじゃない」
相変わらず李奈の話し方をしてくる。
あくまでも李奈の振りを続けるつもりのようだ。
「うるさい!いくら女の振りをしてても、お前は三雲だ。これ以上やったらブン殴る!」
「えええっ、わたしは李奈よ」
そう言いながら、再び乳房に触れようとしてきた。
「やめろって言ってるだろ!」
龍太は和彦の頬を拳で殴った。
「いってぇ…。ホントに殴りやがったな」
ついに本性を現しやがった。
「だからさっきから言ってるだろ。人の忠告は素直に聞くもんだ」
「せっかく女の快感を教えてやろうとしているのに、どうしてだよ」
「何が女の快感だ。俺は男だ。そんなもんを知る必要はない」
「ちくしょう。覚えてろよ」
ついには敗北者が最後に言うお決まりの一言を残して、和彦は部屋から出て行った。
龍太もすぐ後に続いて部屋を抜け出そうとしたが、できなかった。
すぐに扉が閉まり、開けることはできなかったのだ。

女の身体にされて、自分を見失っていた。
しかし、もう大丈夫だ。
いつもの九鬼龍太に戻れた。
これから何か起こってもそれなりの対応をすることができるだろう。
そう思う。

グゥ〜〜〜〜

腹が鳴った。
そう言えばこの状態になってから、何も食べていない。
こんな身体になってからいろんなことがあった。
しかし今まで空腹であることを意識しなかったということは、さほど時間が経っていないのかもしれない。
そう言えばトイレにさえ行っていないのだ。
それほどの時間が経っているはずがない。
すべての感覚がおかしくなっていたようだ。

「おい、どこかで俺を見てるんだろ。腹が減ったから、なんか食う物をくれないか」

しばらく待っていると、男がひとりサンドイッチと飲み物が置かれたトレイを持って入ってきた。
見覚えのある顔だ。
おそらく中学から一緒だったやつなんだろう。
しかし名前は知らなかった。
龍太にとって和彦だけが唯一名前を知っているやつだったのだ。

男は龍太に近づこうとせず、入り口の近くにトレイを置いた。
「九鬼くん、ここに置いとくよ」
「おお、サンキュー」
男は驚いたような表情を浮かべた。
きっと龍太が礼を言うとは思ってもみなかったのだろう。
龍太は売られた喧嘩は買うが、むやみに喧嘩することはなかったはずだ。
それなのになぜか誤解されている。
あれだけ喧嘩ばかりしてたら仕方がないのかもしれない。
普通の人間にとっては、龍太は乱暴で恐ろしい人物であることに変わりはないのだから。

龍太はトレイのサンドイッチを手に取った。
もしかしたらおかしな薬を入れられているかもしれない。
そう思うが確かめる術はない。
どうせ俎上の魚状態だ。
ジタバタしたって仕方ない。
龍太は手に取ったサンドイッチを口に入れた。
美味い。
一気に食べて、ジュースを一気に飲んだ。
しかし何も起こらなかった。
遅効型の薬かもしれないが、考えても仕方がない。

腹が満たされると、トイレに行きたくなった。
しかしトイレに入って便器の前で戸惑った。
今の姿では立ってはできない。
龍太は便座を下ろし、ショーツを下げて座った。
着せられたレオタード状のものがどういう仕組みになっているのか分からないが、"普通に"小便することができた。
"普通に"と言っても、"女性として普通に"ということだが。

これから先、自分はどうなるのだろう。
きっと三雲の奴は女になった俺を犯して恥ずかしい思いをさせたいんだろう。
自分から喧嘩をしかけたくせに負けたらそれを"虐め"として周りに吹聴しやがった。
そんな卑怯な奴に負けるわけにはいかない。
どんな姿になっても俺は勝つ。

龍太は女のように用を足しながら、あらためてそう決心した。

トイレから出て、しばらくすると和彦がやってきた。
「トレイを片付けに来てやったぜ」
和彦ひとりではなかった。
あと2人いた。
何か企んでいるに違いない。
3人がかりで龍太を犯そうということなのかもしれない。

「さっさと持っていってくれよ」
しかしなかなか出ていく様子はない。
龍太はあえて3人を無視することにした。

「龍子ちゃん、オジキが仕事だとか言って海外に行っちゃったもんで2週間ほどいないんだ。せっかくの機会だし、俺たちと遊ぼうぜ」
そう言って和彦へ手を伸ばしてきた。
「やめろ」
龍太はその手を払いのけた。
「殴られたくないんなら、さっさと出ていけ」
「そんな身体にされて何ができるんだ?」
「三雲が俺に仕返しをしたいのは分かる。しかし、他のやつらには何もしてないだろう。俺は理由もなく喧嘩はしない。三雲に命令されて無理してるんだったら、サッサと出ていけ。後悔しても遅いぞ」
三雲以外の2人がお互いの顔を見合わせた。
「こいつらは俺を慕ってるんだ。俺の手助けをしたいから、こうして手伝ってくれてるんだ。なあそうだろう」
一瞬迷いの表情が浮かんだが、渋々といった感じで肯いた。
「それじゃやれ!」
男たちは意味のない叫び声をあげて、殴りかかってきた。
女の身体になっていても龍太は龍太だ。
しかも2人なら大したことはない。
掴みかかってくる男たちを簡単にかわした。
めげずにやってくる男たちの足を払って倒した。
何度も何度も同じように倒すと、やがて起き上がってこなくなった。
大したダメージはないはずだ。
おそらくバテただけだろう。
あるいはこれ以上頑張ることの無意味さが分かったのかもしれない。

「あとはお前だけだぜ。どうする?」
龍太は和彦に言った。
無意味な喧嘩はしたくはなかった。
しかし和彦はそれほど利口ではなかった。
「くっそぉ」
和彦が突進してきた。
龍太は簡単にかわした。
それでも和彦は何度も挑みかかってきた。
簡単にかわし続けたが、やがて和彦の振り回した手が龍太の腹に入った。
単なるラッキーパンチだ。
しかし女性の身体になった龍太に軽くないダメージを与えることができた。

「うっ」
龍太は思わずうずくまった。
和彦はうずくまった龍太を素早く仰向けに倒し、腰の辺りにまたがるように座った。
「おい、お前ら、こいつを押さえろ」
転がっていた男たちがゆっくりと起き上がり、龍太の両手を押さえた。

「やめろ、離せ!」
龍太が足をバタつかせた。
しかし腰の辺りに座っている和彦はビクともしなかった。
「そう邪険にするなよ。一緒に楽しもうぜ」
そう言って、ガウンの紐を解いた。
和彦の前に白い裸体が現れた。
「やっぱりいい身体してるな」
和彦がブラジャーの上から龍太の乳首を摘んだ。
「んっ」
思わず龍太の口から声が漏れた。
「しっかり感じるみたいだな。お前に快感を感じさせてやれて楽しいよ」
和彦がブラジャーを上にずらした。
乳房があらわになった。
和彦の手が乳首に触れるか触れないかの感じで触ってきた。
否応なしに感じてしまう。
龍太は声が出そうになるのを必死にこらえた。
声を出してしまうと、和彦が心理的に上になってしまう。
そうなれば和彦が調子に乗ってくるに違いない。

やがて和彦が乳房や乳首を舐め出した。
声が出そうになるのを必死に抑えた。
いつの間にか両手を押さえつけていた
龍太は自分の腕を噛むことで声を抑えた。
その隙に男たちにショーツを取られた。
そして男二人に脚を掴まれ、大きく広げられた。
和彦は屹立したペニスを龍太の股間にあてた。
「やっとお前を犯すことができそうだな」
和彦が腰を突き出した。

和彦のペニスが入ってきた。
胸が膨らんだのは理解できる。
しかし存在するはずのない膣ができるなんて理解できない。
いったいどういう仕組みになってるんだ?
ペニスを突っ込まれながら冷静にそんなことを考えていた。
しかしペニスが入ってきているのは間違いない。
異物が入ってくる感覚は決して気持ちのいいものではなかった。
ただ痛みはない。
しかし快感もない。
所詮偽物の女の身体だ。
感じるなんてことはないのだろう。
龍太はそう考えていた。

「ついに龍子ちゃんの処女をもらったぜ」
和彦が腰を動かし始めた。
それとともに、身体の中から湧き上がってくるものがあった。
少しは感じるが、快感と言えるほどではなかった。
それでも油断すると声が出そうになる。
「ん…んんん…」
わずかに声が漏れた。
「感じてるんだったら声出してもいいぜ。女の快感は男のよりすごいらしいからな。我慢すると身体に悪いぜ」
和彦が下卑た表情を浮かべていた。
龍太は何も言い返さなかった。

「俺が声を出させてやるぞ」
和彦の腰の動きが早くなってきた。
龍太は湧き上がってくる感覚に戸惑いながらも声を出さなかった。
ついに和彦が龍太の中で射精した。
和彦の方が声をあげた。

「最後まで声を出さなかったな。そんな我慢がいつまで続くかな」
そう言って和彦は、脇の二人に声をかけた。
「お前らも可愛がってやれ」
二人も加わって、龍太を犯した。
二人が終われば、また和彦が抱いてきた。
結局、和彦は3度も龍太の中で射精した。
「お前ら、いつか復讐してやるからな」
男たちが出て行く背中に向かって、龍太が静かに言った。
和彦以外の二人は立ち止まり、震え上がったように見えた。
和彦だけは違った。
「そんな強がっても、女の身体で何ができる。明日からも可愛がってやるよ。そのうち自分から脚を広げるようになるさ」
そう言って高笑いしながら出て行った。

男たちが出て行くと、龍太はすぐにシャワーを浴びた。
龍太はシャワーを直接股間に当て、徹底的に綺麗にしようとした。
男たちはかなり溜まっていたようだ。
大量の精液が内腿をつたって流れ出た。
なかなか終わりそうにない。
「まさか妊娠なんてしないだろうな」
思わずそんな言葉が口から出てきた。
言ってみてから不安になってきた。
そもそもありもしない膣ができているくらいだ。
身体の中に子宮や卵巣ができていないという保証はないのだ。
しかし悩んでも仕方がない。
悩んだところで正解は分からないのだ。
そのうちあの男に聞いてみればいいだけだ。
2週間ほど先になるが。
ようやく男たちの精液が出尽くしたようだ。
龍太はバスタオルを胸元で巻き、浴室から出た。
机の上にコンビニ弁当が置かれていた。
とりあえず生かさず殺さずといったところだろう。
龍太はバスタオル一枚の姿のまま、その弁当をたいらげた。
女の身体になったせいかわずかなコンビニ弁当で腹がいっぱいになった。
おそらく明日もやつらはやってくるんだろう。
とりあえず今日はおとなしく寝よう。
そう考えて、龍太は眠りについた。

次の日、やってきたのは和彦を含めて8人だった。
和彦以外の男は昨日の男たちではなかった。
そして男たちの手にはスタンガンが握られていた。
ひとりの男が龍太のところにやってきた。
龍太に触れようと手を伸ばしてきたが、龍太はその手を振り払った。
すると男の持っていたスタンガンを当てられた。
「痛っ!」
龍太がひるんだ隙に下着だけにされた。
男がさらに下着を脱がせようとしたが、龍太は抵抗した。
顔にパンチを浴びせたのだ。

すると男は狂ったようにスタンガンを当ててきた。
龍太は痛みで動くことすらつらくなった。
そうなるとあとは男にされるがままだ。
下着を取られ、全裸にされた。
男は乳房を舐めてきた。
しかし龍太は男に乳房を触られても何も感じない。
まだスタンガンの痛みが身体に残っていたためだ。
男が自分のペニスを龍太の中に入れようとした。
しかし男を迎え入れるほどには股間が湿ってはいなかった。
男が無理やりに入れようとするが、なかなか入れることはできなかった。

「上田、もっと濡らさないと無理だ。唾でもつけてみろ」
少し離れたところから声がした。
そこには和彦がいたのだ。
(こいつ、上田っていうのか…)
龍太は男の顔と名前を記憶にとどめようとした。
上田と呼ばれた男は、自分の手に唾をつけ、それを龍太の股間につけた。
(汚ね)
上田はそのまま龍太の股間を指でまさぐった。
龍太は上田の手から逃れようと腰を動かした。
上田は感じていると思ったのだろう。
いやらしい笑みを顔に浮かべながら、執拗に股間をまさぐってきた。
「そろそろいけるかな…」
上田がペニスをあてて、いれようとした。
今度はすんなりと入れることができた。
「やった!これで僕も童貞卒業だ!」
そう言って、喜んでいた。
「おい、まだ待ってる奴がいるんだぞ。早くやってしまえ」
「あ、わ…分かった」
上田は慌てて腰を動かした。
10秒も経たず、龍太の中で射精した。

「それじゃ次、松原やれ!」
男たちは和彦に指示された順に龍太を犯した。
その後、松原、田島、笹岡、山川、野中、小島に犯されたのだ。
前戯もそこそこにただただ突っ込むだけのセックスだ。
龍太はほとんど感じることはなかった。
それでも男たちは夢中になって龍太を犯した。
上田と田島と山川には3回、松原と笹岡と野中には2回犯されたのだ。
小島だけが1回だった。

和彦はただ見ていただけだ。

やがて男たちがひとりふたりと部屋から出て行った。
そして最後に和彦が龍太に近寄ってきた。
「今日も声を出さなかったな。もしかしたら不感症になったのか?俺が李奈になったときはあんなに感じていたのにな」
そう言って部屋から出て行った。

ひとり残された龍太は、全裸のまま横たわっていた。
身体を綺麗にしたい。
そんな気持ちはあったが、動く気にもならなかった。
このままの状態でいても、明日になれば同じように犯されるだけだ
部屋は男たちの出した精子の匂いで充満しているんだろう。
できれば部屋を開け放して空気すべてを入れ換えたい。
しかし、窓すらない。
ドアは自由に開けられない。
空気を入れ換えることすらできる部屋ではないのだ。
だから龍太は動くことすらしようとしなかった。

ふと人の気配を感じた。
龍太はその方向に視線を動かした。
そこには以前サンドイッチを持ってきた男が立っていた。
急に龍太が動いたせいか男は驚いたような顔をしていた。

「あ、九鬼くん、起きてたんだ」
男は慌てて視線をそらせてそう言った。
手にはコンビニ弁当らしきものを持っていた。
「お前か。また弁当持ってきてくれたんだ」
「うん、それが僕の役割だから」
「昨日テーブルに置いてくれたのもお前か?」
「うん」
「ありがとな」
龍太はゆっくりと起き上がった。
男は龍太の方を見ようとしない。
女性の裸を見るのが恥ずかしいのだろうか。

「そういやお前は俺を抱きに来ないな」
「だって九鬼くんは九鬼くんだろ?僕、九鬼くんを抱きたいなんて思わないから」
「でも他のやつらは女の身体をしてたら、中身が男だって気にしないみたいだぜ」
「…僕は気になるんだ」
「そうか。その方が普通かもしれないな」
「それじゃ僕はこれで。あんまり話してると何言われるか分からないし」
「ああ、そうか。それじゃ」
男が出て行こうとした。
「おい、お前、名前、なんて言うんだ?」
「谷川、谷川圭人」
「谷川か。覚えとくよ」

龍太は圭人が持ってきてくれた弁当を食べた。
それほど腹が減っている感覚はなかったが、食べ始めるとあっという間に食べ終わった。
自分が感じていた以上に空腹だったようだ。

空腹が満たされると、そのまま浴室に向かった。
そして身体にまとわりついた男の匂いを洗い落とした。
どうせまた明日になれば男たちに抱かれるのだろう。
それでも綺麗にせずにはいられなかった。
龍太にとって自分の身体が女性になっていることはすでに普通のことになっていた。
乳房をたたくシャワーが心地よかった。
それにしてもいつまでこんな日が続くんだろうか。
和彦が「オジキ」と呼んでいた男が戻ってくるまで続くのだろうか。

次の日、やってきたのは11人だった。
龍太が少しでも反抗的な行動を起こすと有無を言わせずスタンガンを当てられた。
その日も何度か抵抗していたが、やがて抵抗する気力をなくした。
龍太は男たちに無抵抗で抱かれていた。
別に快感などない。
ありもしない穴にペニスを入れられて、男たちが勝手に果てていくだけだった。

そして次の日も…。
さらにまた次の日も…。

何日経ったのだろうか?
その日はめずらしく最初に和彦が龍太のところにやってきた。
「おい、龍子ちゃんよ、もうちょっと反応してくれないと面白くないって皆が言うんだよ。そういうわけで今日は趣向を変えてフェラから始めようと思ったわけだ。龍子ちゃんの初フェラはやっぱり処女をいただいた俺じゃねえかと思ってさ」
そう言って和彦が自らのペニスを龍太の口に押し込んできた。
反撃をするのは今しかない。
龍太は思い切り和彦のペニスを噛んだ。
「痛ぇ!何しやがるんだ!」
その後は思い切りスタンガンを当てられた。
しかし龍太はペニスを噛み続けた。
全員のスタンガンを当てられ、そして殴られた。
やがて龍太の意識はなくなった。

意識が戻るにつれ、身体の痛みが襲ってきた。
全身にスタンガンを当てられたせいだろう。
あるいはそれ以上に殴られたせいか。
いずれにせよ身体中が痛い。
龍太はゆっくりと目を開けた。

目の前に和彦が「オジキ」と呼んでいた男がいた。
そして弁当を持ってきてくれる谷川も。
「大丈夫ですか?」
オジキが相変わらず丁寧な口調で聞いてきた。
「…ああ、一応死んじゃいないみたいだ」
「かなりひどいことをされたみたいですね」
「ああ、アンタのせいでな」

「和彦には必ず脱がせるように言っておいたんですけどね…。こんなに長い間、これを着てるとダメかもしれない」
「ダメってどういうことだよ。脱がせられないっていうのか?」
「はい、そうです。このスーツは肌との親和性が良すぎるんです。だからあまり長い間着ているとスーツと肌の境目がなくなってしまう。つまり一体化してしまうんですよ。一体化してしまっていたら、スーツ自体が君の肌になってしまったということです」
「う…嘘だろ…」
「調べてみましょうか」
オジキは龍太の首のあたり、そして背中を調べているようだった。
そして深いため息をついた。
「やっぱりダメみたいです」
「無理矢理剥ぐことはできないのか?」
「スーツを溶かす薬剤はありますが、君の肌を傷つけるだけでしょうね」
「それじゃ元の俺の身体のスーツを着るってのはどうだ?」
「スーツの上からスーツを着ても、どういうわけか密着しないんですよ。薄いスーツを着ているだけで、全然身体とフィットしません」
「ということは打つ手なし…か?」
「はい、今のところはそういうことです」
「今のところはって?」
「研究成果によっては脱がせられるかもしれないし、スーツの上からでも変身できるスーツができるかもしれないってことだけです。それが1年先か2年先かも分かりませんし、もしかしたら永遠に不可能かもしれません」
「それじゃ俺はこの姿で生きていくしかないってことになる…」
「…申し訳ないですが、そういうことです」
どうやらこの身体で生きていくしかなさそうだ。
龍太は覚悟を決めた。
「なら、この身体で生きるための金をくれないか?こんな田舎だと変な噂を立てられるだろうから、東京にでも行って、女として生きていくから」
「分かりました。それくらいはしないと申し訳ないですからね。あと女性として生きていくのなら、それに必要な措置をしますね」
「何だよ、それ?」
「女性ホルモンですよ。そうしないと、すぐに肌が老化してしまいますから」
「具体的には何をするんだ?」
「擬似の卵巣と子宮を作ります。と言っても、妊娠することはありません。あくまでも女性ホルモン供給のためです」
「しなくちゃいけないのか?」
「しないと1年もしないうちにおばあちゃんみたいな肌になってしまいますよ」
「それじゃやってもらうしかないな。女として生きていかなくちゃならないんだったら。ただし変なことは絶対するなよ」
「そこは信用してもらうしかありませんね。あと戸籍も準備しましょう」
「戸籍?」
「ないといろいろと不便ですよ。働くことも難しいでしょうし、部屋だって借りられない」
「確かにそうだな。なら頼む。それと俺からの頼みだけど、俺を犯した奴らに仕返しをしたいんだ」
「仕返し。気持ちは分かりますが、暴力はちょっと…」
「暴力は使わない。ちょっと脅すだけだ」
「あんまり目に余ることをしたら、私が止めますよ」
「ああ、それでいい」
龍太は頷きながら言った。

龍太は谷川を見た。
「おい、手伝ってくれるか?」
急に自分に話が振られて驚いたのか、谷川は固まった状態になり、何も言えなかった。
「おい、どうなんだ?」
龍太はもう一度言った。
谷川はようやく我に返った。
そして「あ、はい、分かりました」と返事した。
「それじゃ今日からお前のとこにやっかいになるぞ」
「えっ、どうして?」
谷川は話の展開についていけなかった。

「こんなことにいたら、和彦たちがまた襲ってくるかもしれないじゃないか」
「いや、それは大丈夫ですよ。和彦には開けられないように鍵を変えますから」
オジキが言った。
「あいつのことだ。何とかして開けようとするだろう。それよりもこれだけ犯されたことの仕返しのために身を隠したいんだよ。だからいいだろ?」
龍太は谷川に向かって言った。
谷川はオジキの方を見た。
オジキは黙って頷いた。
「分かりました。僕のところでいいですよ。親はほとんど家にいないし」
谷川がそう言うと、すぐに龍太は立ち上がった。
「それじゃすぐに行こうか」
「えっ、すぐ?」
「ダメか?善は急げって言うじゃないか」
そう言うとオジキが龍太の腕を掴んだ。
「それじゃさっき言った措置をしましょう」
龍太は部屋から連れ出された。
部屋から出たのは久しぶりだった。
連れて行かれたのは病院の診察室のような部屋だった。
龍太はそこにあるベッドに寝かせられた。
「それじゃ脚を広げてくれますか」
龍太は少し気恥ずかしさを感じたが、黙って脚を広げた。
オジキが脚の間に身体を入れてきた。
「ちょっと気持ち悪いですけど、我慢してください」
ゴムの管を挿入された。
そして何かが入ってくるのを感じた。
「はい、これで終わりです。あと何時間かしたら卵巣と子宮ができます。エコー撮影くらいでは偽物とは分からないレベルのものですから安心してください。そこでこれから30年以上女性ホルモンが作られ続けます。おまけとして28日ごとに生理のような出血もどきもありますので、本当の女性だと思われるでしょう」
「そんな余計なことはしなくていいんだよ」
「こういう細かいところにこだわってこそ、女らしくなれるんですよ」
「別に俺は女になりたくてなったわけじゃない」
「確かにそうなんでしょうけど、これからの人生、女性として生きるわけですから…」
「それもそうだな。いざというとき女という証拠になるかもしれないしな」
龍太は身体を起こした。
「女の人の服はないので、とりあえずそれでも着てください」
置かれていたのはブリーフとTシャツとジーパンだった。
龍太は黙って、その服を着た。
お尻が大きくなっているせいかジーパンが穿きづらかった。
お尻の部分は小さく、ウェストのところはブカブカだったのだ。
ノーブラのせいで、乳首が擦れるのが気持ち悪かった。
それでもさっきまでの服よりマシだった。

「よっしゃ、それじゃ行こうか」
龍太は谷川に声をかけた。
谷川は「はい」と一言返事をし、歩き出した。
「戸籍が準備できたら、連絡しますね」
「ああ、頼む」
龍太は谷川のあとについていった。

谷川の家は歩いて20分ほどのところにあった。
確かに両親はいないようだった。

「それじゃ早速仕返しを始めようか」
「暴力だったら協力しませんよ」
「お前ってそういうとこ頑固だな」
「暴力が嫌いなだけなんです」
「あいつにも言ったように暴力は使わない。ちょっとビビらすだけだ」
龍太は谷川からPCを借り、復讐用のメールアドレスを手に入れた。
「俺を犯したやつらのメルアド分かるか?」
「うん、分かるけど」
「それじゃ書いてくれ」
谷川は13人のメルアドを書いた。
「こいつらにこの文章を送りつけるだけだ」
龍太はPCに入力した文章を谷川に見せた。

『俺は必ずお前に復讐する。
 外に出るときは十分注意することだ。
 俺はいつもお前のそばにいる。
             九鬼龍太』

「これ、かなりビビりますよ」
「だろ?あと頼みなんだが、明日学校に来た奴らの写真を撮ってきてほしいんだ」
「写真?」
「できれば学校の外で。後ろ姿で十分だから」
「分かりました」

龍太は全員に同じ内容のメールを送った。

次の日、効果はすぐに出た。
13人中8人の人間が学校を休んだそうだ。

龍太は谷川から学校に来た5人の男たちの写真を受け取った。
学校から下校している写真だった。

龍太はその5人に写真を添付してメールを送った。
『お前の近くにはいつも俺の目があることを忘れるな。
 明日にでも復讐してやるから首を洗って待っとけ』

また登校しなかった8人にも念のためメールを送っておいた。

『これからずっと家にいるつもりか。
 早く俺の前に姿を現せ。
 俺に復讐をさせろ』

次の日になると、和彦も含めて全員家から出なくなったそうだ。
少なくとも全員恐怖を感じているということなんだろう。
もしかすると、このまま閉じこもりになる奴がいるかもしれない。
1週間も経たずに普通の生活に戻る奴もいるかもしれない。
おそらくそれくらいの効果なんだろう。
龍太はそれで十分だと思った。
別にこいつらの人生をむちゃくちゃにしたいわけではないのだから。

それから2日後にオジキから戸籍が手に入ったとの連絡が入った。
新しい名前は倉木涼香という名前だった。
「倉木涼香か。わざわざ俺の名前に寄せてくれたのか」
「いくつかの名前があったんだが、君の名前に近い方がすぐになれるかなと思ってね」
「確かに近いけど、全然印象が違うな。完全に女の名前だ。その方が俺だとバレなくていいか」
「あとこれ女物の服を用意しておきました」
「いろいろありがとうな。それじゃ明日にでもここを離れることにするよ」
「何かあればここに連絡してください」
龍太はオジキから連絡先の書かれた紙を受け取った。

龍太はすぐに谷川のところに戻った。
「圭人、明日東京に行くことにする。こんなところにいて見つかったら、また仕返しされるかもしれないしな」
「ああ、そうですね」
「最後に世話になった礼がしたいんだが」
「そんなの別にいいすよ」
「お前って最後まで俺に手を出さなかったな。俺ってそんなに魅力ないのか?」
「というか龍太さんは龍太さんじゃないですか。僕、男の人に手を出す趣味はありませんから」
「そうだな、いつまでも九鬼龍太じゃダメだな。実は倉木涼香という名前をもらったんだよ。だから今から倉木涼香という女になる。男だった龍太は捨てる。……絶対に笑うなよ」
龍太は思い詰めたように黙った。
谷川も緊張しているように見えた。

「圭人、最後にわたしを抱いてほしいの」
龍太は思い切って言った。
谷川は固まっていた。
龍太は谷川に近づき彼の股間に手をあてた。
そこはすでに硬くなっていた。

龍太に股間を触られても、谷川は固まったままだ。
まったく行動を起こそうとしなかった。
龍太は少し意地になってきた。
何としても圭人から行動を起こさせてやる。
そんなふうに考えていた。

龍太は跪き、谷川のズボンのファスナーを下げた。
上から谷川がジッと見ている。
龍太は谷川の顔を見ながら、ペニスを取り出した。
予想より大きい。
ペニスを握り、親指で先を擦る。
谷川は感じているようだ。
龍太から触られている感覚を確認するかのように目を閉じていた。

龍太はさらに円を描くようにゆっくりとペニスの先を擦った。
透明で粘り気のある液体が分泌されてきた。
それでも谷川は行動を起こそうとしない。
龍太は少し考えて、谷川のペニスの先を舐めた。
そしてそれを咥えた。

「龍太さん、なにを!」
谷川が腰をひいて、龍太の口からペニスを抜いた。
「龍太じゃなくて、涼香だって言ったでしょう?」
「りょ…涼香さん、いくらなんでもフェラするなんて」
「だって圭人がなかなか抱いてくれないから」
「本当にいいんですか?もっと自分のこと、大事にした方がいいですよ」
「いいの、わたしの気持ちなんだから」
谷川は龍太と視線の高さを合わせるように跪いた。

そして肩を掴み、キスしてきた。
女の姿になっていた和彦とはキスしたことがあった。
何度も犯されたが、男とキスしたことはなかった。
考えてみれば、これが男とする初めてのキスだった。
意外と嫌悪感はなかった。
唇を重ねながら、龍太はゆっくりと寝かされた。
谷川の手が恐るおそる服の上から龍太の乳房に触れてきた。
あまり力を入れてないせいかあまり感じなかった。
龍太は谷川の手を服の下に導いた。
谷川の手が直接乳首に触れた。
電気が流れたような快感を感じた。
「早く抱いて…」
その言葉に谷川が反応した。
急いで龍太の服を脱がせようとした。
しかし谷川が不器用なせいか、慌てたせいか、うまく脱がせることができなかった。
龍太は自ら服を脱ぎ全裸になった。

谷川が龍太に覆い被さり、龍太の全身に舌を這わせた。
谷川の手が龍太の股間をまさぐった。
男たちに犯された条件反射なのか強く脚を閉じてしまった。
「やっぱりやめときましょうか?」
「ううん、やって」
龍太は脚を開いた。
谷川は龍太の脚の間に身体を入れ、ペニスの先で龍太の女性器をこすった。
やがて谷川のペニスが入ってきた。
龍太はそれだけでイきそうになった。
谷川が腰を振っているときは快感で出てくる声を抑えることができなかった。
それほどの快感が身体中に駆け巡った。
谷川が中で射精したときは全身が痙攣してしまった。
意識も飛んだ。

これほど気持ちがセックスの感じ方に影響するなんて思わなかった。
あのときはあんなに抱かれても感じなかったのに、谷川とのセックスは違った。
ものすごく感じた。
そして初めてイクことができたのだ。
セックスには気持ちの繋がりが何よりも大事だということを知った。

龍太は幸せそうに眠っている谷川を起こさないように起き出した。
そしてオジキからもらった女性の服を着た。
初めてのスカートは頼りなかったが、今の自分に似合ってると思った。
「いろいろありがとうな」
谷川の頬にキスをして、家を出た。

東京に生活の拠点を移してからも谷川とのメールのやりとりがしばらくの間はあった。
今回のこの事態になった元凶の和彦は1週間も経たずに復活したらしい。
さすが和彦だ。
それからは復活する者が続き、大半の者が普通の生活を取り戻したらしい。
しかし3人はひと月経っても家から出られない状態が続いているとのことだ。
龍太の影に怯えて外に出ることができないらしい。
それもやがて普通の生活を取り戻すだろう。
そんな他愛のないやりとりは時間の経過とともにフェードアウトしていった。

そして年月が経った。
涼香は27歳になっていた。
※筆者注:これから先は"龍太"ではなく"涼香"と記します。

涼香は東京に出てから、すぐにキャバクラで働き出した。
女性を売りにするのは気が引けたが、学歴も身分保障もない状況で、働けるところは限られていた。
しかし、そのキャバクラで働くことで、女っぷりは否応なく上がった。
ただでさえ美人だったのが、女としての駆け引きを揃えた。
それに加えて、中出しさせても妊娠の心配がない身体だ。
金を持ってる客とは迷わず寝た。
おかげでかなり金を稼げた。
しかし店ではトップにならないように細心の注意を払っていた。
女どうしの醜い争いに巻き込まれたくなかったからだ。
キャバクラの内情を何も分かっていないときにうっかり1位になってしまったときがあった。
そのときの嫌がらせはひどかった。
1位から落ちると嫌がらせが止んだ。
ビギナーズラックということで、さほど厳しく見られていなかったことが、嫌がらせが短期で治まった大きな要因だった。
それからは常に上位争いをするほど売り上げを稼いではいたが、絶対に1位にならないようにしていた。
2位にすらなることもできるだけ避けていたほどだ。
ただしあくまでも表向きの売り上げだけの話だ。
個人的な努力による収入は確実に手に入れていた。
とにかくその店で涼香は自分の居場所を築いていた。

そんな店に三雲がやってきた。
あれから10年ほど経っていたが、店に入ってきたときに三雲だと分かった。
常連の男性に連れられてやってきたのだ。
「坂下さん、この店のナンバーワンの涼香ちゃんだ」
「涼香です、よろしく」
男性は三雲のことを「坂下」と呼んだ。
三雲ではないのか?
「さすがに東京の女性は綺麗ですね」
坂下と呼ばれた男は涼香のことを知らないようだ。
涼香は三雲だという自信が揺らいだ。
いろいろと話をしていると、坂下はすでに結婚していることが分かった。
どうやら思い違いのようだ。
それでも確かめずにいられなかった。

「お店が終わったら、遊びに行っていい?」
「えっ、…もちろん」
坂下は涼香の誘いに簡単に乗ってきた。
宿泊しているホテルの部屋番号を教えてくれたのだ。

キャバクラの営業が終わり、坂下から教えられたホテルに向かったのは1時前だった。
教えられた部屋のドアをノックした。
中からガウンを着た坂下が顔を出した。
「本当に来てくれたんだ。入れよ」
「ありがとう」
坂下は涼香を中に招いた。
「本当に来るとは思ってなかったよ。君っていつも初めての客にこんなことするのか?」
「まさか。そんなことしてたら身体が持たないでしょ?」
「それじゃどうして俺なんだ?」
「昔の彼氏に似てるから、じゃダメ?」
「ははは、ありきたりの理由だな。ま、いいか。そういうことにしておこう」
そう言って、すぐに抱こうとしてきた。

「仕事帰りなのよ。シャワーくらい浴びさせてよ」
「俺は少しくらい汗が残ってるくらいの方が好きなんだよ」
坂下は涼香をベッドに押し倒した。
「服にシワがついちゃうから、自分で脱がせて」
そんな涼香の言葉に「早くしろ」とだけ言った。
涼香は全裸になり、ガウンだけを身につけ、坂下のもとに戻った。

坂下のガウンを解き、ペニスを取り出した。
そのペニスには歯型の傷跡が残っていた。
やっぱり三雲和彦だ。
涼香の見立てに間違いはなかったようだ。

「この傷、どうしたの?」
どういう言い訳をするのかを聞きたくて、そんなことを聞いた。
「昔ヤキモチを妬いた女が噛みつきやがったんだよ」
「坂下さんってやっぱりモテるのね」
そう言って、涼香は丁寧にペニスを舐めた。
「やっぱりプロの女性はうまいもんだな。男のツボを押さえてる」
坂下はすぐに口の中に射精してきた。
涼香はティシュに出されたものを吐き出しゴミ箱に捨てた。
「飲んでくれないのか」
「飲んだ方が喜ぶ殿方が多いのは分かってるけど、わたし、あんまり好きじゃないの」
「そんなんで大丈夫なのか?」
「大丈夫って何が?人気?それともキャバクラの売り上げ?」
「まあそんな感じかな?」
「これでもそれなりに人気もあるし、店の売り上げにも貢献してるのよ。それに今みたいに営業時間外の営業もマメにこなしてるし」
「えっ、これも営業なのか?」
「もちろん営業の一環よ。でも今日はわたしが誘ったからいいわ。もちろんお小遣いをくれるのなら遠慮なくもらうけど」
「それは相性しだいだ」
そう言って、坂下が涼香を抱いてきた。
坂下のセックスはお世辞にも決してうまいものではなかった。
前戯は雑で、女性が感じているかどうかはお構いなしといった感じだ。
それでも涼香は感じている演技をした。
それは仕事柄の習性のようなものだ。
演技をしようと思わなくても、そうしてしまう。

坂下が生で入れてきた。
「ダメよ、避妊して」
涼香が妊娠する可能性はまったくない。
それでも男を相手にするときにはこの台詞を言うことにしていた。
「大丈夫だ。出そうになったら抜くから」
涼香の言葉を無視して、ガンガン突いてきた。
やっぱり自分本位のセックスだ。
女が感じているかどうかなんて微塵も気にしていない。
それでも突かれるにつれ次第に高まりを感じてきた。
イキそう…。
そう思ったときに、坂下はペニスを抜いた。
そして涼香のヘソの辺りに精液を出した。
だが涼香はイケなかった。
おいてけぼりにされた気分だった。

涼香はティシュを取り、出された精液を拭き取った。
そして横で仰向けに寝ている坂下に話しかけた。
「生でなんかして、もし妊娠したら責任取ってくれるの?」
「だから外で出したじゃないか」
「万が一中で出してたら?」
「そのときはちゃんと責任取るよ」
「嘘ばっかり。坂下さんは東京の人じゃないんでしょ?だから二度と店に近づかなければいいくらい思ってるだけじゃない?」
「えっ、俺が東京の人間じゃないってバレてたのか?」
「坂下さんを連れてきた人たちって、大抵接待で連れてくるからそうなのかなって思っただけ」

「何だ、俺が田舎者っぽいってわけじゃないんだ」
「そうね、ちょっとカマかけてみただけよ」
「その通り、俺は東京の人間じゃない。東京には週に1、2回来るくらいかな。東京の取引先が結構あるんで、しょっちゅう来ないといけないんだ」
「へえ、きっとやり手なのね」
「これでも一応社長してるんだぜ」
「社長?すっごーい」
「それほど大きな会社じゃないけどね。社員は70人くらい、かな。カミさんが社長の娘で、そこに婿養子に入ったんだ」
そういうことだったのか。
苗字が「坂下」になったわけが分かった。
「逆タマなのね」
「だから経営なんて、ほとんど分かってない。そのときの勘で適当にやってるだけだ。カミさんにはもっと数字を勉強しろってしょっちゅう言われてるけど、数字なんて全然分からない。黒字か赤字かくらいだったら分かるんだけどな」
「社長も大変なのね」
「そう、大変。今日みたいに接待されるだけだったらいいんだけどな」
「あとアフターもつけば最高、とか」
「それは言えるな」

気楽なものだ。
それにしても自分を女に変えた主犯が社長になって社会的に成功しているなんて。
それに引き換え、自分はキャバ嬢をして、男に抱かれることで生活をしている。
この差はいったい何なのだ。
涼香は坂下に一矢を報いなければ後悔してもしきれないように思った。

そんなことを考えていると、隣から寝息が聞こえ出した。
坂下が眠ってしまったようだ。
坂下を起こさないように涼香はベッドから抜け出した。
そして坂下のスーツからスマホを取り出し、坂下の中指を当ててロックを解除した。
そうやって解除しているのを店で見ていたのだ。

スマホから坂下麻里子という名前を見つけた。
涼香はその電話番号をタップした。
呼び出し音が何回か鳴った後、女が出た。
「今何時だと思ってるの」
どうやら眠っていたらしい。
時刻を考えれば当然だ。
すでに2時をまわっているのだから。
「坂下麻里子さんですね」
涼香の声に相手が息を飲んだのを感じた。
「誰、あなた?どうして亭主の携帯から電話してるの?」
「…分かってるんでしょ?」
「どうせ浮気相手かなんかなんでしょ?欲しいんだったら、あんな奴、のしつけてあげるわよ」
「何だ、ご亭主の浮気に気がついてたんだ」
「あなたが誰か知らないけど、亭主と寝たんなら分かるでしょ?セックス下手だってことを」
「はっきり言うわね」
「結婚するまでは優しかったし、セックスってそんなもんだと思ってたけど、私もいろいろ経験しちゃったからね。あいつの独りよがりのセックスなんて相手をするのも嫌。だからそろそろ離婚してもいいかなって思ってたところ。いいわよ、いつでも別れてあげるから。ただし亭主が金持ちだと思って近づいたんならおあいにく様。私と別れたらあいつは社長じゃなくなるわよ。あんな奴に父の大事な会社を任す気なんてサラサラないから」
「そこまで言われちゃうとこっちも興醒めするしかないわね。…ねぇ、物は相談だけど、私たちでご亭主に復讐できるとしたら、力を貸してくれる?」
「復讐?面白そうね。で、どうするの?」

涼香は自分の計画を簡単に話した。
最初は驚いていたが、麻里子も興味を持ったようだ。
「面白そうね。ぜひやってみたいわ」
そして麻里子に連絡を入れることを約束して、電話を切った。

坂下こと和彦は幸せそうな顔をしながら眠っていた。
涼香と麻里子が良からぬ相談をしていることも知らずに。
和彦を起こさないように注意しながら、涼香は静かに部屋を出て行った。

「おい、麻里子。どうした?大丈夫か!」
目の前で急に妻の麻里子が腹を押さえて苦しみ出した。
「お…お腹が…」
「お腹が痛いんだな。待ってろ、今救急車を呼んでやる」
「待って。○○病院に連れて行ってくれれば大丈夫だから」
「分かった。それじゃ急ごう」
和彦は麻里子を抱きかかえながら車に向かった。
そして麻里子を助手席に座らせると、急いで車を発進させた。
隣では途中妻が病院に電話しているようだった。
苦しそうな声で「今から行きます」と言っていた。

病院に着くと、すでに医師らしき者が待機していた。
「先生、妻が」
和彦は窓を開けて叫んだ。
「分かってます。すぐ手術ができるよう準備してます」
「手術!妻は何かの病気なのですか?」
「とにかく急いで」
看護師らしき男性が麻里子を助手席から下ろし、ストレッチャーに乗せた。
そして急いで病院内に運んだ。
医師もそれに続いた。
和彦は慌てて車を駐車場に置いた。
そして彼らの後を追おうとしたが、すでに妻らの姿は見えなかった。
玄関にはスーツ姿の男がいた。
和彦は男に声をかけた。
「妻は?麻里子は?」
「坂下さんですね。ご案内します。どうぞ、こちらへ」
和彦は男の後についていった。
「妻はどういう病気なんですか?」
「私は事務員ですので、分からないんです。後ほど先生から説明があると思います」
男は『手術中』と点灯しているところまで和彦を案内した。
「しばらくここでお待ちいただけますか」
男はそれだけ言って、どこかへ去って言った。
和彦は手術室の前で待たされた。10分ほどすると中から看護師が出てきた。
「ご主人ですか?血液型は何ですか?」
「O型です」
「輸血をお願いできますか」
「もちろん」
和彦は手術室に入るよう促された。
和彦が手術室に入ると、麻里子は手術台に寝かされていた。
手術はまだ始まっていないようだ。

「こちらで横になってください」
和彦は言われるままベッドに横たわった。
「ちょっとチクッとしますよ」
何の注射か説明のないまま何かの注射を打たれた。
「それでは血液を採取させていただきます」
ようやく血液をとるための太い注射針を刺された。
血液が取られていく。
それとともに和彦の意識が遠のいていった。


「麻里子、気づいたか!」
誰かが何かを叫んでる。
「麻里子、安心しろ。お腹の子どもは無事だそうだ」
麻里子?
お腹の子ども?
何を言ってるんだ。
俺は和彦だぞ。
ボォーッとした頭でそんなことを考えた。

少しずつ意識がはっきりしてきた。
目の前にいるのは和彦だった。
さっきから叫んでいるのは和彦だったのだ。
そうすると俺は…。

自分の手を見た。
白くて綺麗な手だった。
見慣れた手ではない。
おそらく女性の手だ。
恐るおそる胸に手を当ててみた。
予想通りそこには乳房があった。
俺は麻里子になってる。
どうやら間違いなさそうだ。
和彦は目の前にいる。
この状態で自分は和彦だと言ったら、どういう事態になるのだろう。
おそらく気が変になっていると思われるだけのような気がする。
しばらくは麻里子のふりをして様子を見たほうが賢明だ。
和彦はそう判断した。

「麻里子、大丈夫か?」
「ぇ.ええ」
和彦が発した声も確かに麻里子のものだった。

「お腹の子どもも大丈夫だそうだ」
「お腹の子どもって?」
「妊娠してたんならそう言っといてくれないと、いざというときに対応できないじゃないか」
「妊娠って?」
「何だ、お前もまだ気づいてなかったのか。お前のお腹には子どもがいるんだよ」
「えっ…、うそ…だろ……」
和彦は無意識にお腹に手をあてた。

昔着ぐるみみたいなもので女の身体になったことがあった。
今回もそれが考えられるが、さすがに妊娠はありえない。
だとすると、俺は妊娠した麻里子の身体に入り込んだというのか。
今目の前の俺が麻里子なのか?
いや、目の前にいる和彦は麻里子とは思えない。
絶対に俺自身だ。
そうなると今の自分はどういう状態なんだ?
和彦の意識の一部が麻里子の身体に入り込んだんだろうか?
そうだとすると、麻里子の意識はどこにいったんだ?
もしかすると麻里子の意識が混乱しているだけなのだろうか?
どういうわけか自分のことを和彦だと錯覚しているだけなのかもしれない。
とにかく状況が分かるまで様子を見るしかなさそうだ。
和彦はそう覚悟した。


話は少し前にさかのぼる。

復讐することの同意を麻里子から得た涼香はすぐに和彦のオジキに連絡をとった。
これも和彦のスマホから得た情報だ。
オジキの名前は三雲邦彦と言った。
ネットで調べると、美容整形の医者をしているらしい。
病院を3つも持っていて、かなり成功しているようだ。
確かにあの技術があれば理想の身体を作るのは簡単だ。
なんせ他人にもなれるし、性別だって変えることができるのだから。

涼香は自分の計画を話した。
最初邦彦は頑なに断っていた。
しかし涼香が自分のことを週刊誌にリークすると言うと揺らぎ出した。
さらに麻里子も同意していると言ったら、かなり驚いたようだ。
最終的には涼香の依頼を受けることしか邦彦の選択肢は残ってなかった。

それから2週間ほど後、涼香は麻里子とともに邦彦を訪ねた。
「邦彦さん、お久しぶり」
麻里子はにこやかに挨拶した。
「久しぶりです。でもどうしてあなたがこの人と…」
「手を組んだかって?あの人が好き勝手やりすぎたからよ。それでお願いしたものはできたの?」
「この中に…」
麻里子は渡されたカバンの中を確認した。
「へぇ、こんなもので変身できるんだ。すごいわね」
「このことはどこにも公表していないんです。絶対に誰にも言わないでくださいよ」
「分かってるわよ。どうせ言ったって誰も信じないわ」
邦彦と麻里子が話しているところに割って入った。
「それでもうひとつお願いしたことだけど」
「分かってる。でもそのためには麻里子さんから卵子をもらわないと」
「どうすればいいの?」
「とりあえずこれから病院へ来てください」
「あいつの精子ならいっぱいあるわよ」
涼香はクーラーボックスを差し出した。
「奥さんの前でなんだけど、あれからも何度か誘われたからストックしておいたわ」
邦彦はクーラーボックスの中を中を見た。
「これだけあれば十分でしょう。それじゃ麻里子さん、行きましょうか」
「無事に受精できたら連絡ちょうだい。その日を実行日にするから」
涼香は邦彦と麻里子を見送った。

「受精した」と連絡があったのは、それから2ヶ月が経ったときだった。
さらにもう少し受精卵の成長を待った。
ようやく復讐を実行する準備が整った。
そして麻里子の腹痛の芝居から、それは始まったのだった。


和彦の入院から3日が経った。
和彦は自分が麻里子になっていることに混乱しているに違いない。
それにもかかわらずなぜか騒がずおとなしくしている。
まるで和彦であったことを忘れてしまったようだ。
あるいは現状を受け入れるしかないのかもしれない。
いずれにしても少しくらい騒ぐ方が自然だ。
今の状態の方がよほど異常だ。
和彦が何を考えているのかまったく分からなかった。

一方、涼香は麻里子と麻里子の家にいた。
「第一段階はここまで順調みたいね」
今は和彦の姿になった麻里子が言った。
「そうね、彼もおとなしくしてるみたいだし。あなたこそその姿でその話し方は不気味よ。普段から男っぽくしておかないとバレてしまうかもしれないわ」
「それもそうね。あの人になり切らないといけないものね。とにかく乾杯しましょ」
涼香は麻里子と乾杯した。
麻里子の料理は美味しかった。
食事が終わると、麻里子に抱きしめられキスされた。
麻里子のキスは優しかった。
男とイヤという程キスしたことのある涼香だが、キスだけで感じてしまった。
キスからセックスの流れも自然だった。
そして和彦に比べて、セックスは格段にうまかった。
久しぶりに絶頂を感じた。
麻里子のペニスから出たザーメンが涼香の股間を流れ出た。
ザーメンまで出るんだ。
今さらながらスーツの精巧さに驚いた。
そして絶頂を感じたことで久しぶりに谷川圭人のことを思い出した。
女にされて初めて絶頂を感じた男性だった。
久しぶりに会いたくなった。
涼香は圭人にメールを出した。
即座に返信が来た。
「東京の会社に就職した。会えるのなら、すぐにでも会いたい」と。
涼香はすぐに返事を返した。
そしてその日の夜に会うことを約束した。

約束の場所に現れたのは爽やかな青年だった。
あのときの面影はあるが、十分大人になっていた。

圭人を前にすると、涼香は男たちを弄ぶキャバクラ嬢ではなかった。
どういうわけか日頃の自分と違って、全然余裕がなかった。
その姿はまるでひとりの恋する女性でしかなかった。
それから圭人と何度かデートした。
圭人はキスはしてくれるが、それ以上のことを求めてこなかった。
それでも会ってまもなくプロポーズされた。
すごく嬉しかった。
元々は男だったという意識はもうなくなっていた。
だが、涼香は本当の女性ではない。
脱げないコスプレをしているだけなのだ。
しかもキャバクラ嬢だ。
真面目な会社員をしている圭人には不似合いだ。
確かに女性の戸籍があるから、結婚はできる。
それにしても、絶対に合わない。
涼香は固辞した。
それでも圭人の意思は固かった。
どれだけ断ってもプロポーズされた。
結局涼香は折れた。
圭人と結婚できる喜びの方が勝ったのだ。

圭人のプロポーズを受けた日にようやく圭人に抱かれた。
麻里子とちがって決してテクニックがあるわけではないが、涼香は麻里子のとき以上に感じることができた。
セックスは精神的な繋がりが大切なことを思い出した。

麻里子からは東京に来る度に誘われた。
涼香も情報交換ということでそれに応じていた。
圭人に対する後ろめたさは確かにあった。
しかし実質は女どうしなのだからいいだろうと自分に言い訳をしていた。
麻里子とのセックスが好きだからという方が大きいことは自分でも気づかないふりをしていた。

その後も和彦からは自分の身に起こったことを問い質すようなことはないらしい。
和彦自身、どうすれば変身のような事態が起こるのか分かっている。
それなのに何も言わないというのはどういうことなのだろうか?
もしかしたら記憶喪失にでもなったんだろうか?
そうとでも考えないと和彦のその後の様子は理解できるものではなかった。

麻里子との関係を続けながら、圭人との入籍を果たした。
入籍とともにキャバクラは辞めた。
麻里子とも会うのを止めようとしたが、和彦の様子を知りたくてズルズルと関係が続いた。
そんな中、ついに和彦が無事に女児を出産したと麻里子から聞いた。

涼香は麻里子として過ごしている和彦の姿を一度見たかった。
そこで、圭人ともに和彦を訪ねることにした。

「奥さん、今日は突然すみません。東京で久しぶりにご主人にお会いして、お子さんが生まれたと聞いていたので、帰郷したついでにお邪魔させていただきました」
インターホン越しに圭人はそう説明した。
玄関から出てきたのは普通の女性だった。
赤ちゃんを抱いている初々しい母親だった。
何も知らなかったら、その中身が和彦だとは想像もしないだろう。
いや実際入れ替えたというのは記憶違いのような気さえしたほどだった。
それくらい和彦は違和感がなかった。
「こんなところではなんですから、どうぞお入りになって」
和彦に促され、涼香と圭人は家の中に入った。
「まずご挨拶からさせてください。僕は三雲くんと中学と高校と同じで圭人と言います。こっちが妻の涼香です」
「圭人さん、三雲さんじゃなく今は坂下さんよ」
涼香は小声で圭人に注意した。
「あっ、そうか。すみません、今は三雲じゃなくて坂下くんでしたね」
「そんなこと、どちらでもいいんですよ。せっかく来ていただいたのに、主人は急な仕事で出かけてしまって、いないんですよ」
「いえいえ、こちらこそ、急におしかけてきて申し訳ありません。あの、これ、心ばかりのお祝いです」
涼香は持ってきたものを差し出した。
「あ、ありがとうございます」
和彦は受け取りながら、涼香の顔をジッと見ていた。
表情も微妙に変化したようだった。
「奥さん、どうかしました。私の顔に何かついてます?」
「あっ、いえ、別に…」
和彦は平静を保とうとしていることが手に取るように分かった。
「もしかしたら、奥さん、わたしのこと、何か聞かれてました?」
「えっ、何を?」
「実はわたし、昔キャバクラで働いてたんです。ご主人は何度かわたしのお店に来ていただきました。だから主人から知り合いとして、坂下さんを紹介されたときは本当にビックリしたんです。世間って本当に狭いんだなって。だからってご主人とは何でもありませんからね、ご主人を信じてあげてください」
和彦の顔がひきつっていた。

「可愛い赤ちゃんですね」
涼香の方から話題を変えた。
「お名前はなんて言うんですか?」
「ももかって言うの」
「どんな字を書くんですか?」
「くさかんむりに明るいの萌えと香りよ」
「可愛い名前ですね」
それから通り一遍の世間話をしただけだった。
「今日はお邪魔しました。また連絡します」
そんな挨拶をしながら「今度は女どうしで会いましょうね」と涼香は小声で和彦に伝えた。
和彦は少し驚いたようだが、にっこりと笑った。

次の日また和彦のもとに行った。
「昨日は主人がいたので言えなかったんだけど、わたし、麻里子さんに会ってビビッとくるものを感じたの」
「えっ、どういうこと?」
「実はわたしって、どちらかと言えば女性のことが好きなの。麻里子さんもきっと同類だと思ったわ、違ってる?」
「そんなこと急に言われても…」
「でも麻里子さんは女性に興味あるでしょ?わたしのこと、そういう目で見てたし」
「そんなことない…」
「本当にないって言える?少なくとも麻里子さんもわたしを見て、何か感じていたでしょ?わたしたちってきっと相思相愛なの。だからすぐに会いたくって、来ちゃった」
そして和彦にキスをした。
予想通り抵抗する様子はなかった。

和彦を連れて寝室に入った。
「麻里子さんはおとなしくしてていいから」
涼香は和彦にキスしながら、服を脱がせていった。
和彦は涼香をじっと見ていた。
涼香は和彦の視線を無視して、自らも全裸になった。
和彦がようやく口を開いた。
「私が男役やってもいいかな?」
「やっぱり麻里子さんってそういう人だったんだ。わたしの勘は当たってたわけね」
和彦が上になり、涼香に愛撫を始めた。
和彦が男だったころのようにあまりうまくなかった。
自分が女性になり、女性の感じ方は十分に学習したはずなのに、全然活かせてないようだ。
和彦の独りよがりの愛撫が続いた。
「一度攻守交替しましょうか」
涼香は上下入れ替わり、和彦の身体に唇や指を這わせた。
和彦は涼香の与える刺激に素直に反応した。
かなり感じやすいようだ。
女性の感覚をまだコントロールできていないのかもしれない。

涼香は女性器を和彦の女性器と重ねるようにして、擦り合わせた。
和彦はかなり感じているようで、大きな声を出した。
「あんまり大きな声を出すと、赤ちゃんが起きちゃいますよ」
そう言っても、声を抑える気はなさそうだった。

涼香はペニスバンドをつけて、和彦の股間にあてた。
すると和彦は抵抗するどころか、両膝を抱えるようにして、女性器に入れやすい体勢をとった。
ゆっくりとペニスバンドを和彦の中に入れた。
本物とは違い、萎むことはない。
涼香は長時間抽送を続けた。
和彦はずっと喘ぎ声をあげていた。
ものすごく感じているようだ。
涼香は腰を振ることに疲れるまで和彦を突き続けた。
親孝行な赤ちゃんはずっと眠っていた。

涼香はペニスバンドを和彦から出した。
和彦から自分もペニスバンドを使うと言われると思っていたが、それはなかった。
どうやらかなり疲れてしまったようだ。
涼香はまだ快感の余韻を感じている和彦の顔を覗き込むように言った。
「昨日はご主人とは何もないって言ったけど、本当は何回か抱かれたわ。でもそれだけ。わたしって子どもを産めない身体だから、面倒なことにはならないし、安心して」
「ふーん、そうなの。…それでそのこと、ご主人はご存知なの?」
「そのことってあなたのご主人と不倫したってこと?」
「じゃなくて、子どもを産めないってこと」
「うん、プロポーズされたときに言ったわ。そんなの関係ないって言われたから結婚したの」
「あなたが女性を愛せるってことは?」
「それは言ってない。女友だちとどんなふうに過ごしてるのかって、男性は興味ないでしょ?食事してたってセックスしてたってどうでもいいことなんじゃない」
「確かにそうね。ねっ、もう一回いい?」
「やっぱり麻里子って女性が好きだったのね、可愛いわ。女の身体を一番分かってるのは女なんだから、女どうしのセックスが一番いいの。ペニスなんてなくても、代わりがあるんだから」

それから何度か和彦を抱いた。
ときどき和彦が男役をやりたがったが、頑として許さなかった。
和彦はとことんMとして調教してやりたかったからだ。

涼香は圭人の妻として静かな生活をしていた。
その一方、麻里子との関係は続けた。
圭人の実家に戻ったときには、和彦との関係も続けていた。

和彦のせいで、残りの人生を女性として生きていくしかなくなった。
その復讐として和彦も同じ目に合わせた。
しかし、涼香も和彦も女性になったことで不幸になったわけではなかった。
むしろ男だと手に入れられなかった幸せを手に入れたとも言えた。
和彦にいたっては妊娠し出産するという経験さえした。
人の一生って不思議なものだ。
涼香もいつの日か圭人の子どもがほしいと思う日が来るのかもしれない。
そのときは和彦のオジキにでも頼ることにしよう。
涼香は子どもを育てる自分の姿を想像してみた。
そして苦笑いするしかなかった。
母親になった自分を素直に想像できるのだ。
もう自分は完全に女なんだな。
そう思うと、気持ちが暖かくなるような気がした。


《完》

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